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みたまおと  作者: tomoya
第9話 再生
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 ペルルブランシュが古来日本に存在した天狗と関わりがあるかどうかは今のところ不明だ。しかしながら、ここで明らかにされたのは、類人猿とは明らかに異なる人型の有翼生物が物質として認識されたということである。ペルルブランシュは上腕下腿のほかに、背面に二列にならんだ十二枚の板羽を持ち、人の視覚野をかく乱させて可視光域の外に存在している。体温は恒常性を保つものの哺乳類や鳥類よりも、爬虫類または両生類に近い生命だと考えられている。雌雄の分化は生殖細胞からは雄と判定されたが、両生類の場合、遺伝子情報だけではこれを確定することができない。その生態も生殖行動もまだ確認されていない。この生物は板羽を利用した音波による意思疎通を行い、視覚野に働きかけると考えられている。

 ペルルブランシュから採取したサンプルは物質的に研究室内に存在する。しかし、それを人の視覚野および可視光域でとらえることはできない。ここで新たな問題が提起されるだろう。それは幻なのではないか、と。科学技術は見えないものを科学的に分析する手法を生み出した。サンプルの分析はPCR法で行われ、複数回の解析によりデータの再現性が確認されている。二四対の遺伝子情報をもっている他の生物種との相同性を確認する作業を終え、明らかになったことは他の類人猿とは異なる生物であるということだ。

 しかし、反論は存在する。遺伝子情報を解析するために口腔内の肉片を剥離したが、これは遺伝子情報が破壊されやすい。通常は他のサンプル、とくに壊れにくいのは血液を分析して遺伝子多型の有無を判定しながら、データを確定していくが、今回の報告では他の部位による遺伝子の相同性は論じられなかった。今後の追試を期待するも、なお、我々には謎が残されている。

 彼らがなぜ人に姿を見せず、なおかつ人と意思疎通をする必要性があったのか、ということである。人と意思疎通を行うのは、共生するためには必要だっただろう。ならば、なぜ姿を隠す必要があるのか。擬態しなくてもよかっただろう。

 彼らにとって擬態とは結果であって、進化の過程で強化されてきたのは、人類と意思疎通を行う、という点にあるのではないだろうか。ペルルブランシュが生存戦略上、人以上に脅威を抱いている存在が他にあるとするならば、他の生物種との寄生および共生を試みるだろう。目に見えない彼らゆえに意思を伝えるという技術を身につける必要があったのだ。ペルルブランシュは人と共生するために、意思を交流させる技術を板羽の発達と共に身につけたのだ」(以上、本文からの抜粋)



 この記事による反響は三通寄せられた。主な反論は「奇跡査問委員会」と国際類人猿ゲノム情報科学学会によるものだったが、国際訴訟に発展することはなかった。最後の一通は九角亘本人からのメールでもたらされた。彼はペルルブランシュと呼ばれる生物の解析をしていないという。グローバルサイエンス社と複数回のメールのやり取りを行った後、発行された記事に関してはもう修正することができず、次号で博士に対して謝罪文を掲載することで事態は収拾することとなった。

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