お局さん、呆れる。
初めてまともに歩く屋敷は思った以上に広そうだった。建物はどれも三階建てくらいであんまり高層ビルっぽいのは見えない。
一階の外廊下は庭に続いてて気持ちのいい風が部屋に入ってくる。庭の草木が砂が飛んでくるのを防いでるみたいだった。
しばらくバダとマーヤを連れ立って当てもなくふらふらしてみた。そうしてる内にドアの付いてない部屋がたくさん並んだ棟にやってきた。
開放的なドアとは裏腹に部屋の中は妙に薄暗くて、昼間なのに蝋燭やランプの灯りがついていた。
「なんの匂い?」
部屋からは甘いような香ばしいようなにおいがする。
「タバコですよ。」
暗い部屋には地べたに座ったおじさんたちが水タバコに似たようなパイプで紫煙を燻らせている。傍らにはお酒の瓶が。
「あの人たちは何をしてるの?」
わたしの質問にバダとマーヤは首をかしげた。
「此処は社交場ですので…。皆様ああやっておくつろぎになっています。」
「はあ、なるほどね。」
昼間から寛ぐって…仕事しろよと思うのは国民性なのか。そう言われて見てみると、タバコとお酒を嗜みながらオジサン達はそれぞれくつろいでいる。中には女の人をはべらせているおじさんも。あんまり好きになれそうもない場所だな。
煙で靄のかかった広い部屋の奥に人だかりが見える。そもそも水タバコって煙出たっけ??実際に見た事がないからあれが「水タバコ」なのかも分からないんだけど。
たくさんの女の子達が一人の男にはべっていた。
はべらせているのは屋敷の主、リュアクスだった。
「うげ。」
『いかにもマンガの世界で主人公に序盤でやられる悪人』の風情に思わず顔をしかめてしまう。
「ねぇ~ん。リュアクスさまぁ、このお菓子、私が作ったんですよぉ。味見してくださいな」
おおお、語尾にハート乱舞な猫撫で声。一人の女の子が発したことで「この果物を干したのは自分だ」とか「このグラスを持ってきたのは自分だ」とか主の取り合いをしている。
完全にドン引きして様子を見ているわたしを尻目に主は
「そうか。では皆俺に食べさせてくれ。」
とかカッコつけたつもりが鼻の穴が思い切りひくひくしていてアホかと思った。しかし女の子達は黄色い叫び声をあげて口を開けて待つリュアクスに食べさせてやる。
「なにあれ…」
「リュアクス様ですねえ。」
マーヤが素直に答えてくれた。