お局さん、飽きる。
それから数日はあてがわれた部屋で過ごした。
多少難はあるけど、身の回りの世話はマーヤがしてくれるし、たまには何もしないで過ごす日もあっていいんじゃないだろうか?と『休日感』を満喫して、ぼんやりと惰眠をむさぼったりしてみた。
「飽きたわ。」
ソファで優雅にお茶を口にして、ぼやいてみると給仕していたマーヤがびくっと飛び跳ねた。
「な、なな何がですか?」
未だに挙動不審なマーヤに「あなたじゃないのよ」とフォローを入れる。手が震えて茶葉が絨毯に零れまくっている、掃除が大変だ…。
「うう~…っ」
どすっぴんの顔をごしごし擦ってるわたしを見ながらマーヤはオロオロし始める。茶葉の入っていた缶からも盛大に零れている。
「お暇なら何か本でも読んでみますか?…絵本なら文字を気にしなくても楽しめるんじゃないですか?」
頻繁に部屋を訪ねてきてくれるバダが絵本を数冊持ってきてくれた。
もともと読書が趣味のわたしは滞在初日の時点でこちらの本を読んでみようかと思ったんだけど、言葉は通じるものの、文字はダメだった。花のような模様の文字は解読不能で断念。
「そう、そうねぇ~。」
絵本をぱらぱらとめくってカラフルな挿絵を眺める。
「やっぱり、外に出てみますか?」
「それもね~…。」
バダの提案も初日に実行してみた。が、屋敷の中が大騒動になった。
まず、部屋から出て出会いがしらに遭遇した中年の侍女さんはわたしを見るなり金切り声で叫びまくってあげく昏倒。廊下に倒れこんだ彼女を介抱しようと抱き上げたのを見た別の侍女が警備員(?)らしき屈強な男達を呼び、わたしの周りを槍とか剣を持って囲んで、その周りに野次馬な人たちが廊下の向こうからそっと覗き見るといった状況に。
その場はバダとマーヤが必死のフォローに回ってくれて、事なきを得たが。
「ねえ、マーヤ。」
「は、はいっ。なんでしょう!」
語尾に「サー」がつきそうなぐらいびしっと姿勢を正してマーヤが返事をした。この子も全然『マルミミ』に慣れてくれないんだよなぁ。
「わたしって…そんなに怖い?」
というか、『マルミミ』がという事なんだけど。職場では見た目完全に「お局」で、新人指導でかなり厳しいこと言ったりしてたし、上司と言い合いしたり…結構怖がられていた自覚はあるのであえてそう言ってみた。
マーヤは目を丸くして、それでもって顔は血の気が引いたように青くなって
「いっ、いえっ!そそそそそ、そんなことっ!」
怖いのね。
思わずため息が出る。
「あのですねっ!」
マーヤが意を決してわたしの前に乗り出した。
「わたくし達は、成人を迎えるまで家の外に出ることが出来ないんです。それで子供が興味本位で家から出ないように親達は『家から出るとマルミミに食われるぞ』と脅すんです。」
わたしはナマハゲかっ!
「もちろんそれをこの年になっても信じてるなんてことはありませんが、やはり『恐れ』はございます…。」
「そうなの…。」
「サトコさんは耳が長くないでしょう?ドリヌイは「感情が耳に出る」ということわざもあって、気持ちの疎通に耳は欠かせないんです。」
「バダ様のおっしゃるとおりです。『マルミミは感情が無い』という昔話もありました。」
「サトコさんの耳がもう少し長くなったらいいんですけどね…。」
「…無茶いわないでよ。」
そこでぽんとマーヤが手を打った
「バダ様、冴えてますわ!お耳を長く出来ないのなら…隠してしまえば?」
なんだか仲良しな3人。