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飛んだ。

定時より1時間ほど過ぎてロッカールームに入ると、すでに女子社員のほとんどは帰ったようだった。まあ、週末なら仕方ないか。と思う。


何人かはまだロッカーの前で化粧を直しながら談笑をしている。甲高い声で笑い声が響いていた。

「お疲れ様。」

「あ、お疲れ様です…。」


私が横を通り過ぎると笑い声を引っ込めてロッカールームが静かになる。

着替えをしているとさっきの女子社員たちはそそくさと出て行くところだった。


「あ~、びっくりしたぁ!」

「ね、『オツヤさん』帰るの早くない?」

「うっそ~、まさか…?」

「やだぁ、あるわけないじゃん!『オツヤさん』だよぉ」

きゃっきゃとした声が遠ざかる。


まったく、どうせなら聞こえないように喋ればいいのに…わざとか?

ちなみに『オツヤさん』とは私の影のあだ名。私も知ってるのだからまったく影でもなんでもないのだが。


とある商社の事務職に就いて10年。30代に突入したいわゆる「アラサー」。

重要職の人以外で自分より年上が居なくなってしまった。


部署内で一番年上の女ということもあって女子社員の教育係をしていると、眼鏡にきっちり結った黒髪という外見も手伝ってあっという間にお局キャラが定着してしまった。

松山聡子 から取って『おツヤ』さんらしいのだが、黒いコートを着ているのを見た後輩に「お通夜みたい」と言われてから影のあだ名はあっという間に広まっていった。


電気を消してロッカールームを後にする。


エレベーターで降りている途中に停電が起きた。





「えっ?」


「わぁっ?」


突然暗くなった事に驚いたはずなのに目の前は明るかった。


でもエレベーターに乗っていたはずの私は何故かベッドに横になっていた。


「えっ??」


「大丈夫ですか?」


停電のショックで気を失ったとか?まさか自分がそんな繊細な人間とは思わないんだけど。

そこでやっと目の前に人が居ることに気が付いた。心配そうに声を掛けてくる。


「あ、はい…大丈夫で」


私を覗き込むように少年が立っていた。水色の大きな目がこっちをじっと見ていた。髪の毛はビックリするほど鮮やかなオレンジ色。そして


「みみがー」


沖縄の名物でなく少年の耳はとんがっていた。


「コスプレ?」

髪の毛もオレンジだし。ハロウィンとか時期はずれだけど、あ、でも週末だしなんかのイベントパーティーとかあるかも。


「こすぷれ?」

少年は意味がわかんないようで小首をかしげた。あ、そうか外国の子なのか。


「え、と。」

「いや、言葉通じてますよ。」

大人びた様子で苦笑されて思わず頬が赤くなる。そういえば最初に「大丈夫ですか」って聞かれてた。


「ごめんなさい、あの。ここは…?」

「僕の部屋です。」

「は」


エレベーターで停電が起きて(おそらく)気絶してそれを助け出した(であろう)少年が自分の部屋に私をつれこんだと。


「なんで?」

普通は救急車か病院か、もしくは会社か警察か。


「あ、違うんですよ。あなたが裏庭に倒れてて、そのままにしとくわけにはいかないじゃないですか?だから、あの僕の部屋に…なんですが。」


「うらにわ?」


「はい。あの、裏の森のあたりに…」


「もり?」


「え、と。木がいっぱいある…」


「いや、意味はわかるけど。」

少年の指を指す方向に窓があり、その向こうには緑の葉が生い茂っていた。そういえば気を失ったのは仕事が終わってからだからたしか7時前だったはず。



「ねえ、今日って何月何日?」

そんなに長く気を失っていたのかわたし?まさか週明けとかはないはず。


「暦ですか?雫の節の…」

「いやいやいやいやっ!!」


思わず少年にストップをかける。なんなのそのファンタジックな暦は!コスプレな恰好してるから思考も世界観にどっぷり浸かってるのかな?



「うん、落ち着こう。」

「そうですね。」

頭を抱えそうになる私に少年はおっとりと笑う。


「おねーさん、コスプレって割と好きよ?そのキャラクターを愛して止まない感情がキミの中までそのキャラにしてしまうって気持ちも分からないでもないんだけど、その。真面目に今日って何月何日の何時なのかな?」


「えっと、雫の節、第2列、3項の時間は…中天過ぎくらいですかね。」



「ん?」

「時計が部屋にないので時間は曖昧ですけど」


「ちなみに」

「なんですか?」


「ここは、○○市…日本、でいいのよね?」

「にほん?」


いわゆるファンタジックな想像が湧いてきて少年の顔を見れない。

誰か嘘だといって



「あ、国の名前ですか?ここはドリヌイの国でクレスーヴォアです。」

「嘘だっ!」


思わず人のベッドにうずくまる私を許して欲しい。


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