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小さき王  作者: 鈴ノ風
3/3

003 二人の少女

この作品には、駄文乱文、中途半端なシリアス、中途半端なコメディ、中途半端な設定、等々で作られています。

それらが許せない方は、タブかウィンドウを閉じてください。

 聞えてきた悲鳴は、幼い、おそらくは少女のもの。

「…………」

 行くべきか、留まるべきか。

「お願い、助けて!」

「……はぁ」

 悩んだのは一瞬だった。

 声が聞えてきた場所、血まみれの廊下の先にある木製の扉へ、走り出した。

 走って、一秒くらいで目の前まで来ると、そのまま蹴り開ける。

 ――――そういや、この扉の目の前に件の少女がいたら、どうしよう?

 多分、いやおそらく酷い結果になっている。蝶番が悲鳴あげるほどの力を込めたキックだ。打ち所が悪ければ人間くらいあっさり逝く。

 い、逝かせたら俺の責任かな? 急かさせた少女が悪い、とかなってくれないかな? 駄目? やっぱ駄目ですか?

 街に着く前に犯罪起こしちまった。どうしよう始めは高級レストランで食い逃げにしようと思っていたのに。

 食い逃げと殺人、どっちが洒落になるかならないか、という分かりきった事を悩んでいると、開いた扉の向こう、三メートルほどの場所に二人の少女の姿を見た。良かった、扉は当たっていない。

 二人の内、一人は床に座り、こちらに目を向けている。金髪と蒼い瞳と、そして顔をすっぽりと隠す、使い込まれたフード付きの外套が特徴的。

 そしてもう一人。床に横たわる銀の髪と碧眼の少女。こちらもフード付きの外套を羽織っているが、座っている少女と違ってフードは外れていた。

「…………」

「…………」

 瞳を閉じ、息の荒い銀髪の少女。病気なのだろうか、顔が青い。

 彼女の代わりに沈黙し、こちらを睨む金髪の少女。

「……あー、と」

「動くな」

 沈黙に耐えかね、一歩を踏み出すと、少女の両腕が動き、脇に置かれた剣をこちらに向けた。

 随分と速く、そして上手い。その動きは昨日今日剣を習った少女のものではない。

「……さっきの声、君か?」

「そうだ」

 答えは随分と短い。どうやら警戒されているらしい。

 …………うん、別に子犬みたいにこっちを睨む彼女が可愛いとか、そんな事思ってないよ? 嘘じゃないよ?

「とりあえず、何があった? 事情を説明してくれ。そう警戒するな、武器ならほら……これで捨てた」

 背中に背負った長い槍を部屋の隅に放り投げる。そして両手を上げ、丸腰である事を示した。

「見たところ、困っているのは君じゃなくて、そこの子だ。どうした? 風邪か?」

「…………これは」

 少女は何かを言おうとして、躊躇った。

 おそらく、まだ警戒を解けきっていないのだろう。目を逸らし、どうしたことかと思案している。

 一言、二言告げて、味方である事を証明すればその躊躇いは消えるだろう、と判断する。そして何を言おうかと言葉を捜していると…………

「ぅ……ぁ……」

 銀髪の少女が呻き声を上げた。酷く苦しそうだ。

「――――っ! リィリ!」

 金髪の彼女は剣を放り投げ、苦しむ少女の体を抱き上げた。

 慌てるのはいいけど、剣をこっちに投げるのは止めて欲しい。あれは避けなかったら直撃コースだぞ。それも顔面。

「リィリ! しっかりして! 気を確かに!」

 リィリというらしい少女の体を揺らし、叫ぶ少女。俺は彼女の方に手を置き、その行為を止めさせた。状況は分からないが、体を揺らす方法は人体によろしくない。そのことを暗に伝え、気分を落ち着かせると、問いを投げかけた。

「病気か?」

「……いえ、毒よ」

 少しだけ躊躇って、答えた。

「毒? 他の連中は刺殺や斬殺だったぞ?」

「男たちが、やってきたとき。私たちはここに隠れたんだけど、すぐにバレて」

 ぽつぽつと、語りだす。

「剣とか銃とか向けられて、殺されそうになったとき、リィリが、言ったの。この人は関係ないから、私が雇っただけだから。だから殺さないでください、って」

 リィリを抱きしめる腕が、震えていた。

「私、何も出来なくて。連中に囲まれて、震えることしか出来なくて」

 ぎしり。歯が音を立てた。頬を噛んだのか、口の端から血が流れる。

「そしたら連中、ビンを取り出したの。中に液体が入ってて、毒だって。これを飲んだら見逃してやるって、そう言ったの」

「……飲んだのか」

 言葉はなく、ただ首を上下に振った。

「リィリはそのまま倒れて。連中は約束どおり、何もしないで去ってった。最後に、一言言って」

「何て、言われたんだ?」

「……解毒剤が欲しかったら、体を寄越せ、って」

 目から、涙が溢れていた。

 一粒、二粒、頬を伝い、雫となって涙が地面に。まるで小雨のように、落ちていた。

「そんなの、嫌。でも、リィリが死ぬのは、もっと嫌」

「……だから叫んだのか」

「お願い、お願い!」

 少女がこちらを見上げる。

「何でもするから! 護衛だってするし、下働きだってするから! 殴られても文句言わないから! だから、お願い!」

 少女の悲鳴が、部屋の中に響く。

 いや、響くのは、部屋だけではないか。

「この子を、助けて……」

「何でもする、って言う割りには、身売りは嫌なんだな」

「…………っ!」

 言うと、少女ははっとした顔を浮かべ、俯いた。

 別に、文句を言ったわけではない。そのくらい強欲なほうが、人間らしくて好意が持てるし。今のはただの確認。身売りが嫌なのか、ただ単にい忘れたのか。それを確かめたかっただけ。

「……はぁ。君、名前は?」

「…………ティス。苗字は無い」

 ティス、か。いい響きだ。

「バジリスクだ。リスクでいい。んで、ティス。願い事は後で言うから、とりあえず手を離してくれ。抱き着かれた奴を治すのは流石に無理だ」

「……分かった」

 ティスは手を離し、そっとリィリを床に横たえる。

「そうそう。そんじゃやりますか。急がないと、こりゃ死ぬしな」

 荒い息、青い顔、噴き出す汗。脈は測っていないが、相当早いだろう。

 猛毒、それも即効性のある代物。ティスの話によれば、彼女は毒を摂取してすぐに倒れたと言う。ならば一刻を争う。

 解毒なら大抵の場合は余裕だ。だが蘇生は出来ない。死ぬ前に毒を何とかしないと。

「さて、と」

 少女のすぐ横に腰をおろす。片腕を頭の後ろに回し、もう片方を背中の後ろに。丁度、抱きかかえる形で持ち上げる。

「ちょっと!」

 そのまま顔を近づけると、ティスが咎めた。

「何、するつもり?」

「安心しろ。俺は人工呼吸と称してキスするような輩じゃない」

 誤解を招いていたので適当に返した。いくら外から見ると口づけしそうに見えるからといって、不信を露にするのは酷いだろ。俺は初対面の奴にそこまでふざけた事はしない。

「顔見知りならするの……?」

「直前まではするかもな」

 どうでもいいけど、顔が真っ赤だぞ。

「先に言っとくぞ。何があっても驚くな」

 派手な事をするわけでは無いが、注意はしておく。

「何? あなた本当にリィリに邪な事をするつもり!? この子彼氏いない歴が年齢といっしょなのよ! 純情なのよ初めてなのよ!」

「んなことするか! それと勝手にべらべらバラすなよ! 流石に失礼だろ!」

「し、仕方ないじゃない! 紛らわしいあなたがいけないんでしょ!」

「俺のせいにするなよ! ってか、こいつが目を覚ましたら俺はどう接すればいいんだ! 知らないところで人の秘密知っちまったんだぞ!」

「う……な、なら私だって彼氏いないわよ、いなかったわよ年齢イコール彼氏いない歴よ! その上してないわよ! これで相子! 文句ある!?」

「更に気まずくなっただけだ!」

「――ぁ――ぃ」

 馬鹿みたいに叫びあっていると、リィリの呻き声が聞えた。流石に騒ぎすぎたな。

「起きたら謝っておけよ」

「私のせい!?」

「変な事言いふらすからだろ――――始めるぞ、静かにしてろ」

 言って、ティスに向けていた視線を、腕の中の少女へ戻す。

 小さな唇。荒い息を吐きながら、時々苦しそうに閉じるそれ。

 閉じた瞳。閉じる力は変動するが、決して開く事の無いそれ。

「――――」

 言葉は無い。ただ目を閉ざす。

 広がる暗闇。その中で己の肉体を知覚する。

 少女を抱く両腕。床に膝を着く両足。少女と対面する頭。

 そしてもう一つ。離れた所に、もう一つ。

 床に転がり、声無き声でこちらを責めるそれ。鏃の先をこちらに向け、ずるり、ずるりと浮かび上がる。

「――――え?」

 驚くな、という忠告を無視して、聞いて分かるほど呆けた少女。

 ゆらり、ゆらりと近づく槍。

「――――」

 背に回していた腕を、そちらに向ける。

 腕を向けられ、槍は停止した。

 暗闇の中、槍が微動だにしない事を認識する。その姿は、まるで主の命を待つ騎士のよう。

 ――――命令を、という空耳が聞こえた。

 喋らぬ槍の、声を夢想する。

「――――」

 妄想は後だ。そのくらいは後でも出来る。だから今は、これを殺して、こいつを生かそう。

「――――開いて」

 発動は一瞬でいい。この程度ならすぐ終わる。

「――――射抜け」

 暗闇。それが一瞬だけ晴れた。

 明りを、視界を取り戻した先には、一人の少女と、こちらに手を伸ばす、針金みたいな黒髪の青年。

 焦点はその二つのどちらでもなく、少女の中、細胞を破壊し生命を強奪する、ビン一つ分の猛毒に合う。

 こちらの視線を受け、それらが瞬時に消滅する。当たり前だ。毒としてのそもそもの格が違う。人を殺す程度の威力しかない毒など、本気を出さずとも毒殺できる。

「――――閉じろ」

 毒が消えたら、一言命じる。

 すると視界は再び、暗闇へと戻った。

「……ふう」

 息を吐く。

 事は一秒にも満たない。だが、もう何時間も経ったかのような倦怠感を感じる。解毒事態は簡単だったが、人体を傷つけないようにする、というのは流石に緊張した。

「さて」

 目を開ければ、少し息の整った少女。

 解毒により、体調が少し回復したのだろう。だがまだ安心できる段階ではない。顔色は以前悪いままだ。

 何より、今まで解毒に専念していた免疫細胞が、勢い余って少女の体を傷つける可能性がある。

 もう少し、治療を続けよう。

「……治った、の?」

「一応、な」

 視線はリィリを捉えたままだから、ティスがどんな表情を浮かべているかは分からない。だが何となく、笑った気がした。


どうも、鈴ノ風です。

とりあえず、ようやく主人公の名前が出ました。はい、遅くなってすいません。

バジリスク。分かる人は分かると思いますが、蛇とかトカゲとかいわれてるあれです。元ネタは伝承のほうです。水の上を走るほうじゃありません。

今回は彼の能力を(分かりにくいですが)出してみました。詳しくはまた今度明かします。


それと今回登場した少女達。彼女たちがヒロインのつもりです。ティスとリィリ。金髪と銀髪なのは、気付いたらなっていただけで故意ではありません。ティスは最初からそのつもりで、リィリはわりかし適当に決めたらこうなりました。


質問、誤字指摘等ございましたら感想にお願いします。


それでは、この辺で。

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