プロローグ
この作品には、駄文乱文、中途半端なシリアス、中途半端なコメディ、中途半端な設定、等々で作られています。
それらが許せない方は、タブかウィンドウを閉じてください。
百年に一度、勇者と魔王の戦いが行なわれる。
森の奥地に建てられた、巨大な城。そこに住まう魔王と、それを対峙する為、国中から選びぬかれた勇者。
魔王が負けるか、勇者が負けるか、それはその年によって違う。
だが、例えどちらが負けようと、その先は同じ。
魔王の軍勢は人里から去っていき、人間の軍隊もまた、魔王の土地から去ってゆく。
魔王と勇者の戦いは、正義と邪悪の戦いではなく、破滅と希望の戦いでもない。
実のところ、その戦いは互いの関係を維持する為の、儀式に過ぎない。
何年も何年も、続けられた儀式。
どのような天変地異が起ころうと、欠かすことなどなかった。
だからこそ、その年。
最早何十回目になるかも分からない約束の年。
最早何十回目になるかも分からない戦いが、始まる――――
――――筈で、あった。
*
「遅い」
昼間、太陽光に照らされた巨大な椅子に座りながら、俺は呟いていた。
俺の呟きを聞いて、周りにいた臣下や兵士たちが動きを止める。
「遅い」
もう一度言う。
本当に、遅い。
百年に一度の年、本来なら国中から選ばれたたった一人の勇者が、お供を連れ、立派な剣を持ってこの魔王城へ乗り込んでくるはずだ。
それがいつなのかは年によって違う。春であったり、夏であったり、秋であったり。
ただ冬だけは、皆寒いからと言ってこなかったか。
「遅い、遅すぎる」
周りにいた者達がため息をつく。呆れではなく同意の。
今の季節は春。東の国から取り寄せた木が、淡いピンクの花を咲かせている。
ただ、勘違いしないでもらいたい。今は百年目の春ではない。
「もう年を越してしまったぞ! 完全に遅刻ではないか!」
そう、これは百一年目の春なのだ。
勇者の選定が遅れたとか、飢饉があったとか、戦争があったとかでも最早許されない。都合が悪いのなら使いを寄越す手はずになっていたのだ、それもしないのならただの遅刻と判断されてしかるべき。
「ああ、クソ」
「陛下。そのような汚らしい言葉遣いは……」
臣下の一人が、俺を咎めてきた。
「だがな、いくらなんでも遅すぎる! もう春だぞ! 桜が咲いたんだぞ! 言葉も汚くなるわ!」
まあ普段から綺麗とは言いがたいのだが。それはさておき。
「陛下、どうしましょうか?」
俺を咎めたのとは別の臣下が聞いてきた。
「どうもこうも、年が過ぎた以上すっぽかされたと判断するのが妥当だろうな」
「そんな……」
呆れと失望とが混ざり合った表情を浮かべる。気持ちは分かるが、もう少し表情を抑えようとしないのかこいつは。露骨過ぎるぞ。
「じゃあどうします? 攻め込みますか?」
そういったのは臣下ではなく兵士。背負った大剣の柄に手を伸ばしながら言う。
「やめい。血気盛んな奴だな、戦争するつもりか?」
「当然でしょう! 約束破ったんですよ人間は。あいつら俺等の事舐めてるんですよ、だから思い知らしてやんないと!」
「…………」
そういや、こいつ百歳になってないんだったか。
「はぁ。誰かこの若造をつまみ出せ」
「ちょっ、陛下!」
「陛下」
若い兵士は他の屈強な者たちに引き摺られ、窓からポイッと捨てられた。
一応、ここ二十階ぐらいの高さはあるんだが、あいつ飛べるのかな?
「まあいいや。それで、何だ?」
話し掛けてきたのは年老いた臣下。実年齢なら俺のほうが遥かに上だが、経験、知識ともに優れており、頼りになる奴だ。
「はい。あの兵士の言う事も、もっともではないかと私は思うのです」
「お前さん飛べなかったよな。なら骨くらいは拾ってやる」
「いやいやいや、もう少し話を聞いてください!」
先ほど兵士を放り投げたものたちが、今度は年老いた臣下の肩をつかんだ。
ああは言ったものの、こいつの言葉は頼りになる。俺はノリの良い彼らに手で放すように指示し、臣下に話を続けるよう言った。
「で?」
「はい。私も別に戦おうと言いたいのではありません。ただ人間の町に様子を見に行くべきだと思うのです」
「ほう。それは何故?」
「魔王陛下と勇者の戦いが始まって何千年と経ちました。ですがただの一度として、勇者が遅刻した事はありません。『遅れるかもしれない』という言伝が来ても、結局は遅れませんでした」
「ふむ」
「ですが今年はそうではない。勇者は来ず、使いも来ない。これは何かあったと判断するべきでしょう」
「つまりその『何か』を調べるべきだ、とお前は言いたいのか?」
「っは」
なるほど。こいつの言う事ももっともだ。
「そうだな。では偵察に行くとするか」
「っは。あと偵察隊の候補なのですが…………え゛?」
「何か?」
「いえ、あの、陛下? 今なんと?」
「様子見に行こうと、言ったんだが?」
「それは、その、陛下も参加する、ということですか?」
「ん? ああ、それは無いから安心しろ」
「よかった。また陛下が騒動起こそうと考えているのかと」
またって、失礼な。
「はぁ……そう言うわけだから、連れはいらんぞ」
「ではお一人で参るのですね……………………ってまさか本当に一人で良く気かあんた!?」
敬語忘れてるぞ。
「さっきからそう言ってるじゃないか。文句あるのか?」
「ありますよ当然! 魔王陛下ともあろうお方が警護もつけず外出するなど!」
「だが、俺はこれから偵察に行くんだぞ? 様子見をするなら忍ぶべきだ。なら人数は少ないほうが良い。一人だとなお良い」
「ですが! そもそも! 陛下自らが行く必要は!」
「向こうで何が起こるか分からん。この中で一番戦闘力があるのは俺だ。一人二人なら、強い奴を選ぶのは当然だろ?」
「しかし」
「それとも、お前まさか俺の妹を行かせるつもりか?」
「いや、そんな破綻しかないような事は流石にしませんが」
「だろ。なら決定」
「お待ちください陛下!」
他の臣下や兵士たちも、彼の叫びに反応して俺を止めようとする。
こちらを包囲しようとするもの、扉に集まるもの。大まかに分ければその二つ。
が、先ほども言ったとおり、この城で一番強いのはこの俺だ。臣下が兵士が何人取り囲んで来ようが、俺を止められはしない。
俺を止めたくば妹を連れてくるしか無いが、あいつは今地下室で熟睡中だ。俺以外の者が起こす=死なのだから、あいつが出てくる事は無い。
そして。
「あら、よっと」
俺が目指すのは扉ではないので、そちらの者たちはそもそも無意味。
そして俺は潜り抜けた。
若い兵士が落ちていった、窓を。
「へ、陛下ぁ!」
誰かの叫びが聞えてくるが、気にしない気にしない。
遥か下で誰かが伸びていたが、気にしない気にしない。
これでも飛ぶ術なら会得してるし。地面に激突して誰かさんみたいになることは無い。
「お戻りください! 陛下!」
叫びというか、最早喉をからしそうな騒音は無視し、空を飛ぶ。
翼とかは持ってないけど、あまり関係はない。
「そんじゃ、行ってくるわ」
一瞬で小さくなった魔王城へ、俺はそう言った。
さて、街は東……だったよな?
どうも、初めまして、お久しぶりです。
鈴ノ風と申します。
いやー、新作です。実はクリスマスイブには上げるつもりのものでした。はい、一日遅れです。
とりあえず、誤字脱字、批判等ありましたら、遠慮せず感想に書いてください。
それでは。