文鳥還りて花が咲く
文鳥還りて花が咲く
妻と結婚してから10年が経った頃。
子どもを持たない選択をした夏子と真二の二人はある日、文鳥を飼うことにしました。
ぽてっとした小さくて真っ白な体に、桜の花びらのようなピンク色のくちばし。
"さくら"と名前を付けて可愛がっていました。
そんなさくらが亡くなったある日、
亡骸は二人で庭の土に埋めました。
すると、次の日。
さくらを埋めた場所からひょっこりと小さな芽が出てきました。
「夏子、見てごらん。さくらを埋めた場所から
小さな芽が出ているよ。」
「あら?本当ね。可愛らしい芽が生えているわ。」
二人は毎朝一緒に水をあげ、
帰って来ると様子を見に庭へ出ました。
そして年月が経ち、その芽は小さな桜の木になったのです。
「これは、まるで魔法じゃないか。」
「きっと、さくらの魔法ね。」
「ああ。」
二人は庭に並んで立つと、小さな桜の木を見守ります。
「私たちが寂しがっているのが伝わったのかもしれないわね。」
その時。
ピッ!と鳴き声が聞こえて来ました。
けれど、辺りを見渡しても何処にも鳥の姿はありません。
「今の声、さくらの声にそっくりだったな。」
「ええ・・・。」
空を見上げていた二人が、また視線を桜の木にに戻した時。
さくらの姿が現れました。
透き通っていて向こう側の柵が透けて見えます。
そして、さくらがもう一度ピッ!と鳴くと、
煙のように揺らめき、夜空へと飛んで行きました。
それから毎年、二人が住むこのアパートの庭には、
小さな桜の木に花が咲くのでした。




