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扉が上に開いた。飛び込んできた眩しい光に私は思わず目を瞑った。
手でゴシゴシと目をこすりながら恐る恐る目を開けるとそこにはしゃがみ込みながら私を見つめる人間の女の子がいた。
彼女は開口一番に「かわいい」と言うと私の身体を両手で掴み顔の所まで持ってきた。
歳はおそらく10代前後だろうか。赤いランドセルを背中に背負っている。
「あなた泥だらけね、私がお家で洗ってあげる」
彼女は抱きかかえるように私を持つと走りながらその場を後にした。
私が入っていた段ボールが徐々に小さくなっていった。懐かしい我が家よ、サヨウナラとちょっとばかり気取ったように別れを惜しんだ。
彼女が住んでいる自宅に着いた。
彼女は服の袖とズボンを半分ぐらい捲り、風呂桶の中に水を入れると私をその中に入れた。
石鹸とシャンプーの瓶を風呂桶の両脇に置くとゴシゴシと私の身体を洗い出した。
頭の上から落ちてきた石鹸水が目にしみたので思わず目を閉じた。
しばらくして全身の汚れを洗い流したので目を開けると目の前にあった鏡で自分の姿を確認した。
全身毛むくじゃらの白い身体、長い耳。目は毛で覆われていてよく見えないが、宝石のような赤い瞳が見えた。そして口内の肉食獣のような鋭い牙。
改めて自分の姿を確認したが戸惑いを隠せない。地球上の動物に似たような不思議な生き物がそこに存在していた。
いや今は考えてもしょうがない。そう自分に言い聞かせると彼女はタオルで包み、抱きかかえるとバスルームを後にした。
リビングにやって来た。
あれはソファだ。あれはテレビというものだと知識や言葉を覚えたての人間のように私は目に入ってくるものを頭の中で確認していた。
私は人間の言葉を喋る事が出来ない。人間と動物とではそもそもの身体の造りが違うからだ。
だからおとぎ話のように人間との意思疎通は出来ない。人間と同じように物事を考える事が出来ても宝の持ち腐れなのである。
ならば文字を書いて伝える事は?
テーブルにちょうど良い紙とペンが置いてあったので何かしら書いてみた。しかしグチャグチャな点と線しか書けず、落書きのような物しか書けなかった。
「だめだよウサギさん落書きしちゃ」
「分かりましたよご主人様」と心の中で思った。
「そうだ名前を決めなくちゃ。いつまでもウサギさんじゃ可哀想だもんね。あなたは男の子、女の子どっちなの」
私には目覚める前の記憶が無い。そもそも自分が何者なのかすら分からない。どのように性別を確認すればいいのやら見当もつかない。とても困った質問だ。
「名前何にしようかな。兎は英語でラビットだから」
彼女は机の上でほおづえをつきながら、私につける名前を考えていた。
「ラビ助。あなたの名前はラビ助」
随分と単純過ぎるな名前だなと心の中で思いはしたが名無しの権兵衛よりはマシかと思った。それに彼女の満面の笑み見て嫌だと断れるわけがなかった。
「決まり。あなたの名前は今日からラビ助。私の名前は未来。よろしくね」
そう言うと彼女は私の顔をじっと見ていた。




