31. 再び同じゴールへ
夕陽が沈み、夜の気配は静かに街を包んでゆく。
ミスター・KPIとスーツ侍たちは、近くの広場で対峙した。
「毎回私たちの邪魔をして何が楽しいんですかねぇ? この世の企業はすべて、我らブラック企業団の配下にする!」
「企業の理念は構成員たちの魂が詰まっておる。それを我が物にしようとするなど言語道断!」
ノブナガが炎の刀を手に取る。
「ふっふっふ。ではこれでも食らうが良い――フラッシュROIショット!」
紫の光の刃が飛んでくる。
「業火!」と言いながら、ノブナガが炎の刀でそれらを弾いてゆく。
「なかなかやるな……ではこれはどうだ! KPIグラフ超達成理論!」
スーツ侍たちの目の前にKPIの太い棒グラフが立ちはだかる。そこからは“KPI達成のために働け”という怒号。
「うわぁぁっ、出たよ数字の圧! これ、ブラック上司のプレゼンじゃん!?」とヒデヨシが尻込みする。
そこにイエヤスが蒼の扇を持って構える。
「そんなグラフなど断ち切って見せよう――減損カッター!」
扇から蒼く鋭い刃が光って飛び、グラフを切り落とす。
「毘沙門刃!」とケンシンも義刀でグラフを斬りにかかる。
「業火旋風斬り!」とノブナガも攻撃して、ようやくグラフが粉々に散った。
ミスター・KPIがふっと笑う。
「まぁここまではお遊びですよ。指標の前では、心など無価値。耐えられますかねぇ、この合理の圧に。精神統率ブースト!」
KPIの手から紫色の光が現れ、侍たちを包み込む。
「うぅっ……なんだこの空間は?」
まるで別の場所に移動したような気配。紫色の壁に囲まれ、徐々に壁が迫ってくる。
『……KPIの達成ができない者など、不要……』
どこからか幻聴が聞こえてきて、壁とともに侍たちの精神を蝕んでゆく。
「負けるものか! 笑顔・百万石アプローチ!」
ヒデヨシが金の扇を振るものの、効果がほとんどない。
「だ……だめだ……力が……」
「毘沙門天……さま……」
「うぅっ……」
外では、KPIが満足そうに紫色のカプセルに包まれたスーツ侍を眺めている。
「残念でしたね……スーツ侍はもう終わり」
すると、そこにひとりの男が走ってくる――煌月だ。
「……よくも、俺たちを騙してくれたな!」
煌月が勢いよく飛び出し、KPIに殴りかかろうとするがあっという間に避けられた。
「おやおや、さっきまで一緒にビジネスを語っていたのに。もう一度……共に目指しましょうか。数字を」
KPIが煌月に術を放とうとした時だった。
「待て」
――そこに静かに現れたのは。
「……朱崎!」
煌月が駆け寄る。
「すまなかった……俺、数字でしか自分を測れなくなってた……」
「問題ない、目を覚ましてくれたのか。すべて見ていた……あいつに騙されていたのだな」
「また……一緒にやってくれるか?」
煌月が手を差し出す。
「もちろん。俺らの炎は消えちゃいない」
朱崎がその手を取り、ふたりは熱い抱擁を交わした。
KPIが空中に浮かんで腹を立てている。
「人間の心……非効率! こうなったら両方まとめて洗脳してやる!」
彼が手を掲げたその時だった。
「……俺を忘れちゃいないだろうな?」
朱色のスーツにマントを翻した侍が、シュタッと現れた。
「スーツ侍・シンゲン! お前の仕掛けはすでに解いてある!」
「な、なんだと?」
「遅くなった。俺はもう……逃げない! 風林火山! 合理調整!」
シンゲンが風林火山の盾を掲げて、紫色のカプセルに向けると、鍵が解除され扉が開いた。
「「「「シンゲン!」」」」
4人がカプセルから脱出する。
「なに? しまった!」とKPIが慌てている。
「あの仕掛けは中からだと操作できないが、外からであれば容易に解除できるのだ」
シンゲンが盾を下ろしてニッと笑った。
「クソッ! こうなったら……フォロワーインパクト!」
KPIの紫色の光が再び降り注ぐ。
「風林火山シールド!」
シンゲンが盾で防いでいる間に、ノブナガは炎の刀に力をこめる。
「よくも俺たちを、あんな地獄のような場所に閉じ込めたな……許さん! 爆炎・蜃気楼!」
ノブナガの刀から爆炎が弾け、一気にKPIの周りを囲む。
「うぅっ……!」
間一髪で避けて空中を移動したKPI。
「……次こそは」
そう言って彼はクルッと回転し、その場から消えた。
さっきまでの戦いが嘘であったかのように、広場が静まり返る。
「ありがとうスーツ侍たちよ。俺は大事なことを……朱崎のことを忘れるところだった」と煌月がお礼を言う。
「スーツ侍のおかげで煌月が助かった。感謝する。もう一度最初からシューズの開発をやろうと思う。彼と共に」
朱崎の目には覚悟が見えていた。
「これからは力を合わせてシューズの開発を進めてくれ。そなたたちの友情は永遠だ」とノブナガ。
「かっこ良くて強くなれるシューズ、楽しみにしてるからさ!」とヒデヨシ。
「高性能――技術の向上を期待しておる」とシンゲン。
「無理はせずに、だが妥協することなく進めてくれ」とイエヤス。
「ふたりの絆が光るシューズ、待っておるぞ」とケンシン。
「さらばだ!」
スーツ侍たちはシュタッと飛び立つ――
月の光が彼らを照らし、5つの影は小さくなってゆく。
※※※
「シンゲン……もう大丈夫なのか」とケンシンが気にかけている。
「ああ、思い出したんだ。バルカーは言った。『悪いのはブラック企業団』だと。きっとバルカーも願っている。ブラック企業団から働く人を守ることを。だから俺は戦う」
「そうだな。俺たちには守るべき人がいる」とイエヤス。
「良かったぁ。心配したんだよ」とヒデヨシ。
「シンゲン、きっとお前の中でバルカーは生きておる。彼女も見てくれているはずだ。俺たちの活躍を」とノブナガ。
「うぅっ……泣かせるなよノブナガ」とシンゲンが言う。
「あ、シンゲンがまた泣いちゃうよぉ?」とヒデヨシも笑っていた。
それから数日後。
インフェルノ社とスパークリング社の共同開発は再スタートとなった。高性能シューズの名前は『SAMURAI』と発表される。
「これって、俺たちのことかな?」
会議室で豊臣が呟く。
「高性能シューズと俺たちがコラボだなんて、最強だな」と武田も言う。
徳川と上杉も頷いていると、そこに社長の織田が入ってきた。
「朱崎から土産だ」
そう言って小さな袋を4人に渡す。中身は……新製品のブメランパンツ・接触冷感であった。あまりにも小さいサイズに4人は驚く。
「え……社長。これ履かないとだめなんですか」と豊臣。
「生地が少ないがこの素材は新しいな」と徳川。
「ピタッと吸い付く心地よさがありそうだ」と上杉も興味を示す。
「お前たち、明日からこれを履いてくるのだ」
「しゃ……社長! 本気ですか」と武田も言う。
「おっと、履いた時のイメージが湧かないだと? 俺のを見せようではないか」
織田がベルトに手をやろうとするが――
「「「「社長ー! ここではダメ!」」」」
「問題ない」
「「「「問題あるぅっ!!」」」」




