ep.09 甦る記憶と葛藤
*)奈っちゃんだ!……天使降臨?
仙台市の病院に着いてようやく身体の揺れがなくなり気分が落ち着いてきた。精神安定剤も切れたのかとも考えたら? そもそもが精神安定剤なんて貰っていたのかな?……それは天使さまが目の前に現れてくれた。
「あ~我慢がきつかった……あ、ごめんなさい。」
「奈っちゃん?……あ~奈っちゃんだ!」
「ずっと前から居たよね、……あ、思い出したんだね、良かったわ~。」
「うん、私こそ記憶の混乱で思い出していなくて……ごめんなさい。」
「それで、誰かも分からなくて、それでお芝居をしていた、それで今思い出して、それでかしら?」
「あわあわ……許して下さい、本当に思い出せなくて。でも奈っちゃんの善意を利用しようと考えて……ごめんなさい。この通り……謝りました。」
「過去形で言わないでよ、今からもよ。」
「うん、奈っちゃん。会えて嬉しい。」
「当たり前でしょうが、私が偶々早出をしていて癒衣は助かったのよね、お礼はいっぱい聞きたいわ。」
「うん、後でいい?」
「どうしたの?」
「奈っちゃん……言いにくいけれども……お腹が空いた。」
「うわ~この子は~どうしてこうもわがままなんかな~。そうね、私も何も食べていないし。」
「私は、朝から何もよ。」
「ジュースだけか~うんうん。もうすぐ夕食が届くと思うよ。きっとコンビニのお弁当がさ、間に合いませんでした~と言われたさ。」
「そんな事無いモン。先に転院する連絡が入っています~だ。」
「白川さん……無事だったか。」
「才賀……先生?」
「あぁ、久しぶりだね~元気にしていたか。」
「今の状態を見て言える先生は好きですよ。はい、東京の女子医科大学へ。」
「就職したのか~あはは善かったよ。」
「いえ、学生ですよ?」
「医大生?……?」
「実は娘も医大生なんだが、同じ大学か~。」
「怜ちゃん……ですよね?」
「あ、……しまった~知り合いになったのか?」
「はい。お友達です。」
「怜に友達が~気難しい娘だが、よろしく頼むよ。」
「はい、任せて下さい。」
「川上さんだったね、君の分も夕食を用意させるからね。また後で来るから。」
「はい?……ありがとうございます。」
奈っちゃんは私に視線を向けてきて安心したようにしている。
才賀先生は私の顔を見て喜んで荒らしのように過ぎ去っていく。本当の嵐はこれから来るのだが、今は奈っちゃんが天使さまに見えている処だ。
「奈っちゃんの就職先が市役所か~よかったわ~。」
「田舎で最も狭き門だからね、私だって勉強してました。癒衣はどうなの?」
「私だって凄いと思うよ、女子医科大学に首席入院よね。」
「もう~馬鹿にして。入学でしょう? 入院は今です~だ。」
「そうね、それでね入学式で代表に選ばれたの。」
「選ばれたと首席は同類かしらね。人がいいから押しつけられたんでしょう?」
「ううん、違うよ……でも可笑しいのよね、スピーチの依頼が直前だったし電話かけてくれた佐藤さんも必死で食い下がってきてね……あはは・・・。」
思い返せばここでも記憶が錯綜していたようだ。
「そうね、笑うしかなさそう。ドジ。」
急に思い出した事が口をついて出る。
「ねぇ、結婚したのは誰か教えてよ。」
「え?……あ~卒業して直ぐに結婚した人は居たみたいね。私も噂しか知らないわ。」
「そうなんだ~いいな~幸せだろうな~♡♡♡」
「だといいね。」
「うん。」
コンコンコン……
「川上さん、市役所からお電話が繋がっています、ナースステーションへ着て下さい。」
「え?……、」
「付き添いの川上さんですよね?」
「あ、……はい。今行きます。」
「急いで下さい。」
「はい~……。」
「あの~、」
「はい。」
「川井さんの間違いではありませんか?」
「いいえ、川上奈津さんと言われましたが?」
「アハハ……私、騙されたうたんだ。そうだよ汽車に乗った駅は奈っちゃんの実家はないんだった。アハハ……、にゃろう~もう結婚して新婚かよ。」
「気が済みましたか?」
「はい、恥ずかしながらに、申し訳ありません。」
「聞き間違いはありません。ではお大事に。」
「はぁ……。」
「癒衣~明日も癒衣に付いていなさいってね、許可が下りて……癒衣?」
「川上さん、川上奈津さん……。」
「うきゃ、はい、新婚です。すみません。」
「結婚したんだ、連絡も寄越さなくてさ。」
「それ言うんだ、誰も転居先は知らないぞ。出した案内状は自宅だったけれどもね、戻って来ました!」
「わ~~~ごめんなさい。」
「嘘よ、電撃婚したし、まだ知らない人は大勢よ。どう?」
「うん、凄いな~。……奈津?」
「ん?」
「あの市役所の人……奈津と呼んでいたわ。」
「あちゃ~・・・嘘じゃないけれども……気がついたん?」
「ごめんなさい、新婚さんを離れ離れにしてしまいました。」
「いいわよ、あんな亭主は独りになれば私のありがたみを感じて居る頃よ。」
「あ~はいはい、ごちそうさま。」
「アハハ……、」x2
奈っちゃんが電撃婚って凄いな~♡
「燥ぎ過ぎたみたい。疲れて眠くなった。」
「うん、お休み。私は横にいるから安心して眠るといいよ。」
「ありがと~……。」
私は本当に心が穏やかにされたみたいだ、この川上奈津さんは天使さまだな……zzzzzz。
夕方を過ぎて夜になれば……、その中でも川上さんは負けていないようだ。川上さんも夕方まで付き添ってくれて、夜は舞さんと怜さんと一緒にホテルに宿泊していた。
そんな中で川上さんは、学校での私への扱いや配慮を語って聞かせる。私を腫れ物扱いにした、壮大なスケールのお話しに舞、怜は黙って聞き役になって涙を流す。
*)私の後見人と才賀先生と……川上奈津
知らなかった、私に後見人がいたと言うことは全く聞かされていなくて驚いた。この日の夕方に仙台市まで移送されて無事に病院へ入院が出来た。私のお見舞いはね……三人だった。
医科大の理事長で佐藤さんと言う人と、その娘の佐藤舞。またお友達の才賀怜の三人がお見舞いに来てくれた。もう台風と嵐と吹雪が一遍に来たような、そんな感じになってしまう。
その中でも川上さんは負けていないようだ。
そんな中、私は深い眠りから目覚める。四人のやり取りは与り知らぬ事となる。
「……お姉ちゃん!!」
「癒衣、気がついたのね……ごめんなさい、一人で送りやってごめんなさい。独りにさせてごめんなさい~癒衣~わ~ごめんなさい~わ~……、」
佐藤さんが泣いて私の胸に顔を埋めて泣き出した。見知らぬ男性は涙目でもあったが、横には才賀さんも洟を啜って泣いている。
「うんお姉ちゃんの声が分かってしまったの、ごめんなさい。今までありがと~うわ~~………………、」
「癒衣~今まで騙しておいてごめんなさい癒衣~わ~ごめんなさい~わ~……、」
「うん、いいよ。大好きなお姉ちゃんの声だ、嬉しい。」
「うわ~~癒衣~癒衣~わ~ごめんなさい~わ~……、」
「舞、もう泣くな。」
「だって、だってお父さん癒衣が~~ごめんなさい~わ~……、」
「そうだね、いずれはと考えてはいたが、俺も甘かったよ。」
少しして佐藤さんと川井さんの顔が見えなくなっていて、どうも退室したらしいが私は気がついていなくて。佐藤さんと川井さんは才賀さんに連れられてミーティングルールへと案内されている。
「あぁ……川上さ……んだったか、今回は癒衣を看病して頂いた、とにかくお礼が言いたい。ありがと~……。」
「いいえ、友人ですから当然と言えばそれまでですよ。」
「いや癒衣が、取り乱しているだろうかと考えてね、急いできたが、さっき見ただけで安心出来た。理由を聞いたら川上さんが付きっきりで癒衣を労っていたそうじゃないか。深く感謝しています。」
「すみません、癒衣ちゃんの後見人さんですか?」
「佐藤さん、川上さんにはまだ紹介をしていないよ。」
「そうだね、佐藤と言います。」
「川上さん、この方はさっき大泣きしていた娘さんのお父さんだが、…………この方が癒衣さんの後見人なんだ。事実上の親だね。」
「あ、貴方が……そうですか。小父様が考えた癒衣ちゃんへの対応は私も解ります、それが癒衣ちゃんを守る一番いい方法だとは信じます、ですが……あまりにも酷すぎると思いますし、先生から私の知らない事情も聞かされて驚いて……癒衣ちゃんがとても可哀想で……不憫に思われて仕方がありません。癒衣にもしっかりと謝って下さい、然もないと私たち同級生の女の子としましても許せません。」
「……はい、よく分かります。お怒りは……ぅ~……、」
「泣かないで下さい、泣きたいのは私の方です。」
少し間をおいて川上さんが一番聞きたいことを質問しだす。
「才賀先生は……首謀者なんでしょうか?」
「いや、一番の首謀は癒衣ちゃんのお姉さんだね。両足の切断と腕も失っていたからね。私が手術をしたから分かるが、あれでは社会復帰は望めそうもなくて。私だって義足や義手の情報を集めて考えたよ。」
「すみません、……もしかしてお姉さんは?」
「結果は縊死なんだが、事実上に殺したのはこの私なんだよ。」
「臓器移植って、どうしてそのような事を思いつかれたのか、娘さんは可愛いですよね、それを人の不幸にかこつけて移植するとか、鬼の所業でしょう?」
「申し訳ない。それは事実だがね、癒衣ちゃんのお姉さんは自分が生き残った後の事を考えて決められたのだよ。」
「川上さん、残されたお姉さんの看護は誰が、それも一生を使って誰が診る事になったと思う?」
「それは家族の……あ、……申し訳ありません。」
「一番も二番もないんだよ、二人とも不幸になる未来しか見えていなかった。だから、」
「はい、癒衣ちゃんのお姉さんって妹想いの……うわ~~………………、」
「そうなんだよ、私にお姉さんは条件を付けてきた、ワルと言えなくもないんだが、それで癒衣ちゃんも助かるし、ごめんなさい娘も、その心臓移植で命が長らえると考えたら……一番悪いのはそうだね、私が悪いのかな~。」
「違うよ、俺に相談があってね、才賀くんを唆してしまった。それで俺の娘も臓器移植で助けられたんだ。俺たちはお姉さんには感謝しかない。」
「あの……お二人ともが臓器移植を?」
「そうなる。」
「あぁ……お姉さんは条件まだ続くんだが、どうか私の代わりとなる人を救って下さいとね。」
「……お姉さまの代わりを?」
「一人残されたら後追い自殺は希でもないんだよ。それで舞と言うんだがね、癒衣ちゃんと同室にさせておいて、博打を打ったのさ。もしも……記憶が飛んでいたらとね。」
「記憶喪失でしたね、そうです今思い出しました。」
「そうなんだが、今でも私の行いが善かったのか、怜にはうっかり情報が漏れてしまって、相当に荒れたいたよ。もう手を付けられない程だった。」
「もしかして怜さんと癒衣ちゃんのお姉さんは……顔を見知っていたのですか?」
「そう……だね、入院しかしていなくて時間が有り余っていた怜が病室に出入りしていたんだが、今考えたらとても悪いことさせていたんだなとね。」
「お察しいたします。」
川上さんは暫く塞ぎ込んだようにしていたが、深く考え込んでいたのだろう。それで過去の不思議な依頼を思い出していた。
「……癒衣ちゃんのお姉ちゃん……ですか、そうなんですね。変な箝口令が出て可笑しいとは思っていました。」
「すまない、学校はさほど大きくはなかったからね、それで学校にも協力を仰いでさ、それがこの結果になった訳だが、あの時にふらっと線路に落ちなくて善かった。命の恩人なんだと感謝している。」
「あ、投身自殺……はい、分かりました。」
「川上さんだって癒衣ちゃんの自殺を止めたのだと考えている。ありがと~……。」
「え? 私が癒衣ちゃんの自殺を止めた?」
「記憶が戻った癒衣ちゃんは、思わず線路に飛び込んだ可能性は大きかったかと、」
「そうですよね、田舎で電車が少なくて電車よりも私が、そう偶々に早く出ていた……そういう事ですか。」
川上さんは再び俯いて涙をこらえている。涙を溜めて顔を上げるとふたしずくの涙がテーブルに落ちる。
「癒衣ちゃんの命を救って頂きまして、同級生一同としてお礼を言います。……ありがとうございました。…………うわ~~………………、」
「うんうん、こちらこそ娘を見守ってくれた感謝は……、」
「お二人にお願いが出来ました。怜さんと舞さんを一晩でいいですから貸して下さい。それで二人には癒衣の友達になってくれるように、脅してきます。」
「脅すって……君~?」
「いいえ、気が済むまで文句を言いたいだけです、脅迫は~……許して下さいね?」
「ハハハ……参ったね。」
「俺はホテルを探してくるから、後は頼んだよ。」
「是非……一緒にさせて下さいよ?」
「必ずね。待っててくれ川上さん。」
お盆に併せて佐藤さんと才賀先生は、中学の同級生の全員にお礼を述べて贈り物を送ったそうだ。
*)ワルと相棒
私の記憶は引っ越しに併せたように戻りかけていたのだろうか、出て来た妖怪や河童は全てが脳が混乱して夢を現実と認識してしまった為だと診断が下された。
「恐らくだが、東京へ越してきて情報過多となり一時的に脳がパンクしたものだろう。」
「才賀先生の診断は専門家とは言えませんね、実に的確だと思われます。」
「そんな事はありません。しかし佐藤さんはなんでこの病院を指定されたのでしょうか。」
「癒衣さんの記憶が戻ったんだ、ここは全員で謝ってお礼も言いたいと考えた訳だが、無理強いはしないよ。」
「何を言う、俺が一番の張本人だからな。左遷は甘んじて受けてもおつりが出る程に喜んでもいるよ。」
「そこはお互い様だよ、俺だって才賀くんにはババを引いて貰い……悪かった、この通り謝ります。」
「いやいや俺こそ………………、」
……ペコリ……ペコリ……ペコリ……ペコリ……




