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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天使な息子にこの命捧げます

「シャルル様!」

そう呟く私の瞳から涙が溢れてきた。


私の耳には、遠くの街から葬送の鐘が鳴り響いているのが聞こえた。


私は今最愛の夫シャルル・オルレアンの葬儀に参加している。


そう、私の夫であるシャルル・オルレアン侯爵はいきなり亡くなってしまったのだ。


私には信じられなかった。結婚して1年と少し、義父が亡くなって領地に帰ってきてまだ半年も経っていない。


蜂に刺されて、いきなりショック死したというのだ。そういうのをアナフィラキシーショックというのだそうだ。


子供が生まれて久々に実家に帰っていた私は、知らせを聞いて驚いて帰ってきた時には、夫はもう息をしていなかったのだ。


私は馬車でたかだか2日の所にある実家に帰る間に、夫がまさか死ぬなんて思ってもいなかった。何しろこの邸宅を出る前は夫はピンピンしていたのだ。


そんな夫が死ぬなんて……。


涙は後から後から溢れてきた。


私は涙にくれる儚い新妻を演じていた。・







そんな時だ。


「オギャーーー、オギャーーーーー」

私の後ろで声を限りに我が愛しの愛息シャルルジュニアが泣き出したのだ。


その大きな声は自分の父親の死を嘆き悲しむ愛餐歌の様に響き渡ったのだ。


そうだ。こうしてはいられない。なんとしてもこのかわいいシャルルのためにもしっかりしないと。


私は泣き続けるシャルルを侍女から取り上げるとしっかりと抱きしめたのだ。


「おお、よしよし」

私が抱っこすると


「クフ」

シャルルは可愛くしゃっくりをして、私を見上げたのだ。


お目々をぱっちりと開けて、ニコリと笑ってくれたのだった。


私はそれを見て再度しっかりとシャルルを抱きしめた。


そして、心に誓ったのだ。


どんな事をしても、このシャルルにこの侯爵家を継がせると。


そのためには自分がどんな目に遭っても良いと心に誓ったのだ。


オルレアン侯爵家。この王国では古い家柄だ。


私は夫のシャルル様とは学園で知り合った。私が入学した時に、シャルル様は3年生で生徒会長をしていらっしゃた。シャルル様とは生徒会を手伝っているうちに親しくなって、私が卒業すると同時に結婚したのだ。シャルル様は昔から私を知る連中とは違って、私を女の子として扱ってくれたし、それがとても新鮮だったのだ。

シャルル様の侯爵家も古かったが、私のいた伯爵家もまた、今まで数々の騎士や将軍を排出している武の名門の家柄で、結婚するのに何も障害はなかった。


そんな侯爵家だが、当主、シャルル様のお父様は病気がちで、私達が王都のタウンハウスで新婚生活を楽しんでいる半年前に他界され、その後シャルル様と一緒に領地に帰ってきたのだ。

シャルル様はお父様と違って健康だったのに、こんな急に亡くなるとは思ってもいなかった。


こんなことになるのならば私が孫の顔を見せるために実家になんか帰らなければ良かったと後悔したが、後の祭りだった。




「ところで、ジャンヌさん。これからどうするつもりなの?」

葬儀が終わった後、一族が揃った場で前侯爵(亡くなった義理の父)の弟の嫁、すなわち義理の叔母のバーバラから私は聞かれた。


「ご心配頂いてありがとうございます。叔母様。私はシャルル侯爵様の遺志を継いで、シャルル様の忘れ形見のこの息子、シャルルジュニアを立派な侯爵に育て上げようと思います」

私は可愛く私の腕の中で寝ている息子をちらりと見て、皆に言い渡したのだ。


「そうなの?」

驚いた顔で義理の叔母は私を見た。


「まあ、でも、あなたはまだ若いのだから、未亡人になるには早すぎないかしら。幸いなことに大商人のエイミス様が奥様を亡くされたところなの。子持ちでも引き取って頂けると言ってくださっていらっしゃるんだけれど」

私は一瞬何を言われたか判らなかった。


この叔母は私が邪魔だから厄介払いするのに、あろう事か商人風情の後妻にさせるというのか!

私はぷっつん切れそうになる自分を必死に抑えようとした。


「叔母上、それはあんまりだろう。ジャンヌさんは十分にまだ若いんだ。エイミスの後妻なんてとんでもない。なんなら俺の側にいてくれれば」

義弟が、また、何かとんでもないことを言い出したような気がしたが。それは妾にでもなれと言っているのか? この男はシャルル様が生きていた時から私を見る目が厭らしかったのだ。まあ、それは男どもの多くに言えることだが……


「あなた、何か言われましたか?」

義弟はその妻に睨まれていた。

「いや、俺はジャンヌさんの今後のことを心配しただけで」

しどろもどろに義弟は言うが、


「私は誰にも嫁ぐつもりはありません。このシャルルを立派なオルレアン家の跡取りに育て上げるという大切な仕事がありますから」

私は皆にはっきりと言い渡したのだ。


「しかし、ジャンヌさん。シャルルはまだ一歳にもなっていまい。それをいきなり跡取りにするのはなかなか難しかろうて。とりあえず、跡は儂が引き継いで、シャルルが成人した暁に正式に襲名するというのはどうかな」

「はあ? 叔父上、何を仰っていらっしゃるんですか? 兄が亡くなったのだから普通はその弟が継ぐのが当たり前でしょう」

「しかし、貴様はまだ、20になって間もない。そんな若造がこの侯爵家を背負って立つのは難しかろう」

「そんな事は……」

義理の叔父と義弟が言い争いを始めてくれた。



なんか面倒くさい。


私は仕方無しに実父を見た。


「まあ、皆さん。今日はもう遅い。そう言った詳しい話し合いは明日でもじっくりされればどうでしょうかな」

父が仕方無しに言ってくれた。

一応父は王国の将軍で百戦錬磨の猛将だ。


無骨な父にそう言われて断れるものなどいない。

とりあえず、今日の所は解散。詳しい話は3日後にすることになった。



「しかし、ジャンヌ、本当に良いのか。なんなら、シャルルと一緒に実家に帰ってきてもよいのだぞ」

父は別れしなに心配して言ってくれたが,


「何をおっしゃるのです。シャルルはシャルル様の忘れ形見なのです。どんな事をしてでもこの侯爵家を継がせてみせますわ」

私は父に言いきったのだ。

「それよりもこの書類、ブライアンに必ず渡してくださいね」

私は父に念押しした。

「それは判っているが」

父は私を見て、

「ふうーー」

と大きなため息を付いた。


「まあ、お前がこうと決めたらそれを覆すことは難しいのは承知しておるが、くれぐれも犠牲は少なくしてほしいものじゃ。侯爵家の係累がシャルルの他には一人も残らないなどいう事のないようにな」

「さあ、今回の謀略に何処まで皆さんが噛んでいるかは調べてみないことには判りませんから」

私の笑顔に父はため息を付くと、頭をふりふり諦めて帰って行った。


「どこで育て方を間違えたんだろう」

とかなんとか聞こえた気がするが私は聞かなかったことにしてあげた。


さて、まず、何からしたら良いんだろう?

私が考え出した時だ。


「オギャーーーオギャーー」

シャルルが泣き出したのだ。


「あれっ、おっぱいの時間だったっけ」

不思議に思いながらシャルルに乳首を含ませたらシャルルが吸い付いてきた。うーん、いつにも増して良い飲みっぷりだ。


「かわいい」

私はお乳を飲むシャルルを見つめたのだ。こんな可愛い赤ちゃんはどこにもいない。

私は親ばか全開だった。

そんな私の至福の時間を邪魔した奴がいた。


「奥様。クレイグ様がいらっしゃいましたが」

侯爵家のメイド頭のマイヤーが言ってきたのだ。

「こんな時間に?」

私はシャルルとの至福の時間を邪魔されて少し切れた。


「どうされますか? 追い返しましょうか」

私付きのアリスが言ってくれた。


「しかし、クレイグ様は大切な相談があるとのことですが」

マイヤーが驚いて言ってくる。


まあ、シャルル様の実の弟だし、無下にすることも出来ないが、私としてはシャルル様がなくなった時に近くにいたというクレイグには不審に思う点もあった。


「このような時間に訪ねてくるなどいくらクレイグとは言え非常識なのではありませんか。何でしたら私が世間の常識をしっかりとクレイグには判らせて参りますが……」

アリスはそう言って出ていこうとする。


「いやいや、アリスがやると洒落にならないから」

私はそう言って制すると


「息子への授乳を終えたら行くから、少し待ってもらって」

私はそう言うとマイヤーを下がらせたのだ。



「アリス、クレイグは何しに来たと思う?」

「さあ、ただ、クレイグ様は御主人様が亡くなった時に一番近くにいた者です。十二分にお気をつけられたほうが良いかと」

「判ったわ。ただ、クレイグが私に何かしてくるとは思えないけれど」

私はまだまだ考えが甘かったのだ。



「お待たせしました」

30分くらい待たせてから私は応接室に入った。


クレイグは少しムッとした顔をしていたが、慌てて笑顔を見せてきた。


「いや、ごめんね。姉さん。遅くに」

クレイグは如才なく謝ってきたのだ。そのクセ目はしっかりと私のスリットの切れ目を見てきたのだが……


「いえ、なにか重大なお話があると聞いてきたんだけど」

「そうなんだ。実は兄さんは話していないと思うんだけど、父さんの治療に結構金がかかってね。商人から結構借金をしているんだ」

「まあ、そうなの」

私は夫からは聞いていたが、今始めて聞いたような顔をしてみた。


「そのお金をどう工面するか至急相談しなければならないんだ。おじさんは姉さんをその商人の所に後妻にやって借金を帳消しにしたいみたいだけど」

「だから叔母様があんな事を言われたのね」

私は頷いた。


「僕としてはそんな事は許せないと思うんだ。姉さんもあんな年寄の所に後妻としていくのは嫌だろう」

クレイグはそう言うといやらしい笑みを浮かべて私を見てきた。


「実はその借金を帳消しにする方法があるんだ」

「どうするの?」

私は憂いを含んだ瞳でクレイグを見てやった。

クレイグは下碑た笑みを浮かべて私を見た。


「もう少し近付いてくれるかい。内緒の話なんだ」

「そうなの?」

わたしはわざわざクレイグの横に移動してやったのだ。それも、スリット入りのスカートから少し足を出した状態で。

クレイグは鼻息も荒くそれを見ていた。

「俺は親からもらった少しまとまった金があるんだ。それを出しても良い」

「えっ、でも、私なんかのために使ってもいいの?」

私は聞いてやったのだ。


「それはあんたが俺の物になれば良いんだよ」

クレイグは耐えられなかったみたいだ。

私に襲い掛かって来たのだ。


「きゃっ」

逃げた私を追って、鼻息荒くクレイグが追ってきた。

「良いだろう。姉さん。姉さんさえ俺の妾になってくれれば家内はいずれ追い出すから、姉さんは侯爵夫人のままでいられるよ。このままだと絶対に老人の後妻にやられる。それよりは俺の妾になったほうが余程ましだろう」

そう言ってクレイグが私を抱きしめようとした時だ。


「ギャっ」

私はクレイグの股間を思いっ切り蹴り上げてやったのだ。

男は股間を押さえて悶絶した。


次のその瞬間、

「キャーーーーー」

私は大声で悲鳴をあげてやったのだ。


俺はこの国の王太子だ。

父王に次いで偉いのだ。

そして、俺の朝は一杯の優雅なコーヒーで始まるはずだった……


「殿下、大変です!」

「何だ、朝から騒々しいな」

私は優雅に側近のカーティスが持ってきた手紙を見て、いれなかった。


「な、何だこれは!」

俺は悲鳴をあげた。

そこには『可及的速やかに我が天使な息子を跡継ぎに任命するように ジャンヌ』

と見慣れた文字で書かれていたのだ。


「先程、ブライアンが持参してきました」

「ブライアン、どういう事だ!」

「どういうことと言われましても私は殿下に渡してほしいと姉に頼まれただけで」

すっとぼけた対応をブライアンがしてくれたが、


「はああああ! オルレアン侯爵家を0歳の乳児に継がすことなんて出来るわけ無いだろう」

「その旨を姉に申しても宜しいので」

「……」

ブライアンにそう言われると俺は黙るしか無かった。


ジャンヌとは幼馴染だ。連れてこなくてもいいのに、父のウェリントン将軍が連れてきて、俺達はよく一緒に遊ばされたのだ。

チャンバラごっこや、王宮探検は可愛いもので、盗賊退治は序の口で、ダンジョン探検や、竜の巣の探検、ゴブリン討伐など散々な目に付き合わされたのだ。


ジャンヌはどこでも無敵だから言うことはなかったが、付き合わされた俺達はたまったものではなかった。最後はジャンヌが助けてくれるのだが、死にかけたことなど片手では到底足りなかった。

そんなジャンヌが何をトチ狂ったのか学園に入った途端に生徒会長で侯爵令息のシャルルに恋したのだ。俺には信じられなかった。あのジャンヌが恋したことも、あのジャンヌに惚れた奴がいることも!


「皆行くわよ。遅れたら罰ゲームだからね」

と裸踊りを罰ゲームにしてダンジョンに突撃させていたあのジャンヌが、真っ赤に顔を染めていたのだ。


からかった俺達は半殺しの目にあったが……

しかし、シャルルの前ではしおらしい乙女を演じていた。

いつかボロが出ると俺達は踏んでいたのだが、シャルルがいる間はしおらしかった。

シャルルが卒業すると元に戻ったが、なんと卒業と同時にシャルルと結婚したのだ。

そして、俺達の前から消えてくれた。


俺達が祝杯を上げたのは言うまでもない。

ジャンヌを娶ってくれたシャルルは俺達には愛情深い神父様に見えた。

そう、ジャンヌがいない間は本当に平和だったのだ。


「いかが致しますか?」

カーティスが聞いてきたが、

「そんなの認めるしか無いだろう」

俺は判りきったことを聞くなと言いたかった。


「しかし、後見人がジャンヌになっていますが」

「嫌だが仕方ないだろう。もし、これを握りつぶしてみろ。あいつはシャルルジュニアを背負って王宮に乗り込んでくるぞ」

「げっ」

カーティスは青くなっていた。


「可及的速やかに大臣たちを脅して書類を作り上げろ」

「大臣たちが認めますか」

「認めないと言う奴は使者として侯爵邸に派遣すると伝えろ。嫌でも死にもの狂いで書類を作るだろう」

俺の言葉にカーティスは頷いた。

それにしても誰だ。シャルルを殺したやつは! 

見つけ次第絞首刑は確実だ。最もそれまで生きていられる可能性は少なかったが……


俺は俺の安らかな日を返せと言いたかった。


私の悲鳴を聞いて、待機していたアリス他の従業員たちに私は顛末を話したのだ。

怒った従業員たちによって直ちに義弟は客室に軟禁された。

その翌朝、義弟の妻が泣いて許しを請うてきたので仕方無しに釈放してやったのだ。

しかし、義弟の目は怒りに震えていた。


「宜しかったのですか。解き放って」

「良いのよ。泳がせておけば。いざとなったら一網打尽にしてやるから」

私は平然と言い切ったのだ。

まあ、最悪はエドたちに指示すれば良いだろう。


私はお昼を食べて息子におっぱいをやっている時だ。


「奥様。た、大変でございます」

マイヤーが飛んできたのだ。


「どうしたの?」

私が聞くと

「王宮からの御使者でございます」

息せき切ってきたからかマイヤーが話してくれるまで少し時間がかかった。


「まあ、えらく早いのね」

「奥様にあんな手紙をもらったら王太子殿下等も慌てられたのではないですか」

アリスがそう言ってくれたんだけど。


応接に行くと何故か叔父と義弟夫妻も揃っていた。

二人とも家に帰っていたはずなのに、こういう時にはすぐ来るんだ。私はその情報収集力に驚いた。というか、我が家の情報がダダ漏れなんだけど……

まあ、わざわざ知らせる必要が無くなったから良いけれど。


使者は私の幼馴染のカーティスだった。王太子のエドはさすがに来なかったらしい。まあ、王太子が普通は使者なんかやらないけれど、私の依頼なのに……私は少しムッとした。


「これはこれは王宮の御使者様。今日はどのようなご要件ですかな」

「貴殿は?」

「これは失礼いたしました。シャルルの叔父でございます」

「さようか、シャルル殿はどちらに」

「はい?」

「だから、シャルル殿だ」

「シャルルは先日亡くなりましたが」

叔父はカーティスの問いに困惑したみたいだ。


「何を言っている。その亡くなった侯爵殿のお子様のシャルル殿だ」

「えっ? ご使者殿はあんな乳飲み子に御用がおありで」

驚いて叔父が聞いた。


「こちらにいらっしゃいますよ」

私はシャルルを抱いて現れた。


私を見た瞬間カーティスは嫌そうな顔をしたが、自分の用を思い出したみたいだった。


「では、皆様宜しいですか」

カーティスは一同を見渡した。


「一同お控えなされ」

カーティスの合図で、全員跪いた。


「うっうっ」

何故かシャルルはカーティスに手を伸ばそうとするんだけど、

「あんなばっちいもの触ってはいけませんよ」

私はシャルルに注意した。


カーティスが舌打ちしたのが聞こえたが私が睨みつけると慌てて巻物を広げた。


「シャルル・オルレアン、貴公をオルレアン侯爵に叙す。また、シャルルは幼少の砌、成人するまではその母ジャンヌをその代行とする」


「そんな」

「信じられん」

叔父夫婦と義弟夫婦が唖然としていた。

「ご使者殿、これは何かの間違いではござらんか?」

「さようでございます。このような乳飲み子に爵位を与えるなど」

四人が使者に詰め寄るが

「控えおろう! この紋所が目に入らぬか!」

カーティスが玉璽が押された所を指差したのだ。

「ははあ!」

四人は頭を下げるしかなかった。


「シャルル殿にこれを」

そう言うとカーティスは書類を私の方に差し出した。


「バブ」

私の腕の中の天使なシャルルはあっさりとカーティスからその書類を取り上げたのだ。

なんかとてもご満悦な様子だった。さすが未来の侯爵様は違う。

私は親ばか全開で皆に自慢したい気分だった。


「なお、ジャンヌは子育てが忙しいと思う故、子供が成人するまでは王宮に参上するに及ばずと陛下が思し召しでした」

カーティスが言ってくれたんだけど、王太子が画策したに違いない。絶対に私に会いたくないからそんな事を言ってくれたのだ。


「そういうわけにも参りません。早速にお礼に参上しなければ」

私が冗談で言ってあげたら、

「いや、絶対に来るなとのことだ」

必死にカーティスが言ってくれるんだけど、これは絶対に近いうちに行かねばなるまいと私は心に決めたのだ。


そんなご満悦の私の横で叔父たちは怒りに震えていたのだった。


その日も私はご満悦だった。

だって天使な息子が可愛すぎるのだ


「シャルルちゃん、お目目奇麗でちゅ」

私はそう言うとシャルルのほっぺたにキスした。

「お手手も可愛いでちゅ」

手にキスしていく。

「きゃっきゃっ」

天使な息子は喜んでくれたのだ。


「おい」

「ジャンヌがおかしいぞ」

と変な声がして

「姉はシャルルの前ではいつもああです」

呆れた弟の声がした。

でも私は無視だ。

「でも、可愛いかも」

誰かの声がして

「「「えっ」」」

「殿下頭がおかしくなったのではないですか?」

ギョッとした声と弟の叫び声がしたんだけど


「ちょっと、あんた達、煩いわよ。何でここにいるのよ」

私が不機嫌に言うと


「「「お前が呼んだんだろうが!」」」

「そうだっけ?」

私の声に全員がずっこけているんだけど。そう、私は用があると王太子たちを呼んだのだ。呼んですぐに皆飛んで来てくれた。


「ジャンヌ、俺たちは暇ではないんだぞ」

「そうだよ姉上。冗談で呼びつけるのなら止めてよね」

王太子のエドとブライアンが文句を言ってくる。


「私も暇ではないわよ。可愛い天使な息子の世話があるんだから!」

「じゃあ呼ぶな」

私の声にエドが叫ぶが、

「良いじゃない。天使な息子のシャルルを見てくれても。ブライアン、愚痴愚痴言っていると皆に10歳までおねしょしていたのばらすわよ」

「ばらしているじゃないか姉上!」

「アラ本当ね。つい口が滑ったわ。殿下の秘密もばらしてしまいそう」

「ちょっと待て! それだけは」

何かエドが必死なんだけど。

「でも、ジャンヌ様。俺たちもやらないといけないことがあって」

「煩いわね。すぐに来るわよ」

「来るって誰が?」

皆が不思議そうな顔をした時だ。


「キャっ」

「どけ、女」

そこに叫び声と、誰かが倒れる音がした。


そして、扉が蹴破られた。

そして、抜剣した男達が叔父と義弟を先頭になだれ込んで来たのだ。


「ジャンヌ、よくもやってくれたな」

叔父が叫んできた。


「あらあら、叔父様方、何しにいらっしゃったの?」

私は余裕で笑ってやった。


「俺たちが今までいろいろやってきたのは、そこの乳飲み子に家督を譲ってやるためではないわ」

「まあ、怖い。そのためにわが夫のシャルルを殺したの?」

「あいつも素直に俺に家督を譲れば死ななくても済んだのだ」

「殿下、こんなこと言ってますけど」

私はエドに振ってあげた。


「「「で、殿下!」」」

みんな唖然とししている。


ここに王太子がいる事に気づいていなかったのだ。

本当に馬鹿だ。


「ええい、何している。こうなったら殿下諸共殺してしまえ」

「えっ、でも叔父上。王族の殺害は処刑では」

「何を言っている。貴族の殺害はみな処刑だ。その乳飲み子を殺してもな」

叔父は私のシャルルに剣を向けたのだ。

天使な息子に!


その瞬間私はプッツンと切れた。


「私の天使な息子に剣先を向けるな!」

そう叫んだ時には私は雷撃を放っていた。


叔父たちは一瞬で黒焦げになっていた。そして、ぴくぴく震えてバタリと倒れたのだ。


私の横にはそれを唖然と見ていたエドたちがいた。


「すげえ、以前よりパワーアップしていないか」

エドの声が響いたのだが……


でも、私はそれどころでは無かったのだ。


「おぎゃーーーーおぎゃーーーー」

いきなり天使な息子が泣き出したのだ。


「おお、よしよし、剣を向けられて怖かったのね」

私があやすと


「いや、今のは絶対に怒り狂った姉上の顔が怖かったからだ」

ぼそりと呟いたブライアンをぎろりと睨むと

「嘘です。姉上」

慌てて謝りだしたんだけど、私はあやすのに忙しくてよく見ていなかったのだ。


私は最愛のシャルル様の仇を討ったのだった。


そして、今、天使な息子をあやしている。


「天使な天使な息子ちゃん、可愛い」

私は抱き上げるとチュッとキスした。

「きゃっ、きゃっ」

天使な息子はその度に喜ぶのだ。

私は有頂天だった。


そして、そんな私を熱い視線で見てくるエドがいるんだけど……

こいつ何でいるんだろう?

あれからしょっちゅうエドが訪ねてくるようになったんだけど……


弟に尋ねても

「殿下は少し、おかしくなられたんです」

残念そうに弟が言うんだけど。


私の雷撃はエドには当たらなかったはずだ。

もっともそれまでにチャンバラごっこで頭を叩いたりしたことがあるから、それで今頃おかしくなったんだろうか?


そういう私を弟はとても残念な者を見るような顔で見て来て

「殿下の想いは伝わらないと思いますよ。まあ伝わらない方が国民の為には良いと思いますけど」

訳の分からないことを言ってくれるんだけど。


まあ、良い。シャルルの為には王太子が傍に控えてくれていた方が良いだろう!

シャルルの後見人としても最高だ。


「可愛い可愛いシャルルちゃん」

チュッと私は天使な息子を今日もあやすのだった。

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連載版はこちら


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第一部の紹介は
「えっ、ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わった?」
頭をぶつけた拍子に前世の記憶が戻ってきたフラン、
でも、ケームの中身をほとんど覚えていない!
公爵令嬢で第一王子の婚約者であるフランはゲームの中で聖女を虐めて、サマーパーティーで王子から婚約破棄されるらしい。
しかし、フランはそもそも前世は病弱で、学校にはほとんど通えていなかったので、女たらしの王子の事は諦めて青春を思いっきりエンジョイすることにしたのだった。

しかし、その途端に態度を180度変えて迫ってくる第一王子をうざいと思うフラン。
王子にまとわりつく聖女、
更にもともとアプローチしているが全く無視されている第二王子とシスコンの弟が絡んできて・・・・。
ハッピーエンド目指して書いていくので読んで頂けると幸いです。



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