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98、新攻略対象の3人の性格

 私達は無事に、ベルメの海岸に到着した。学生30人弱と護衛が60人程いるはずだから、かなりの人数の集団転移だ。


 護衛の人達がザワザワしていることからも、ゲネト先生の転移魔法の能力の高さがよくわかる。ギルドマスターの補助のおかげもあるのかな。転移スピードも速かったもんね。


(結構、寒いな)



「お、おい、ミカン。いつまで掴んでるんだよ」


 レオナードくんは真っ赤な顔のまま、抗議してきた。


(ふふっ、かわいい)



「あっ、ごめん。なんだか寒くない?」


 私が手を離すと、レオナードくんの頬の赤みは少しずつ消えていく。ちょっと面白い。レオナードくんは11歳だから、成人してるよね? 女の子を女性として意識するようになったのかも。


 この世界では、特に女性の寿命が短いためか、10歳で成人とする領地が多いみたい。



「そうだな。まだ夏の終わりなのに、おかしいよな。去年の冬に来たときよりも寒いかもしれない。ベルメ海岸は、いつも暑いと思ってたんだけどな」


「異常気象だね。あっ、レオナードくんは秋から転校するんだっけ? 一緒の実習は最後になるのかな」


(ちょっと寂しいな)


 レオナードくんは、私がこの世界に転生してきて初めての同世代の友達だから、やっぱ寂しい。それにイチニーさんとの思い出は、レオナードくんと一緒の場面が多い。レオナードくんをからかうイチニーさんの悪戯っ子な顔は、私の好きな表情のひとつだ。


 ベルメ海岸は、イチニーさんと最後に話した場所だから、いろいろと思い出してしまう。



「ミカン、ここだけの話だけど、転校はしなくていいみたいだ。ただ、ミカンとは、秋からは別の組になる。俺は3年じゃなくて5年通うからな」


 レオナードくんはしばらく考えた後に、小声で打ち明けてくれた。3年の修了証を得たのね。秋からは上級のクラスか。


「そっか。じゃあ、また実習で会うかもね」


「実習というか、異世界人との交流で会うんじゃないか? 今回の臨時実習は、1組から15組が強制参加だからな」


「でも、ここには15組しかいないよね」


 私がそう尋ねると、レオナードくんはキョロキョロし始めた。するとボルトルさんが、何かの魔道具を取り出してレオナードくんに渡した。


(そこまで本気でサーチしなくても……)



 ゲネト先生とギルドマスターは、転移して来た人達の間を歩き回っている。体調不良者がいないかを確認しているのかな? たまに転移酔いする人がいるもんね。


 転移酔いでふらついた状態だと、ここは危険だもの。うっかりストーカー貝を踏んでしまったら……あれ? 寒いからだろうか。海岸にいるはずの巻き貝がいない。


(異常気象のせいかな)


 もしかすると、レオナードくんの転校がなくなったのも、そのせいだろうか。『フィールド&ハーツ』の設定や場所は、コロコロと変更されているみたい。


 レオナードくんたち新攻略対象のメイン舞台は、最初は王都にある既存の剣術学校が予定されていた。その後、王都に総合学校が新設されることになり、レオナードくんはこの秋からの転校が決まっていると言っていたけど、また変更されたのね。


 未来を見る能力のある神託者によって、いろいろなことが決まっているはず。ということは、未来がコロコロ変わっているのかも。


 これって、この世界の害になるという異世界人達の仕業だったりするのかな……。




「ミカンさん、あ、あの、大丈夫ですか?」


 私が、ボーっと嫌なことを考えていると、カノンさんが遠慮がちに声をかけてきた。


(現地人のカノンさんね)


「ん? 大丈夫ですよ?」


「あっ、すみません。この数日、ミカンさんの周りはすごい騒ぎだろうと思って、でも、僕はあの……」


(優しいね)


「学校にも迷惑をかけたかな。こんな騒ぎになっているとは思わなかったよ。ただの政略結婚なのにね」


 思わず本音が出てしまった。現地人のカノンさんって、とても臆病だけど優しいから、つい、言っちゃうよね。


(あっ、切り替わった)



 カノンさんは、まとう雰囲気がガラリと変わった。転生者のカノンさんね。


「ミカンさん、周りが騒がしいのは羨ましいからだ。セレム・ハーツ様といえば、どの貴族も縁を結びたがる。ブライトロード家から嫁いだ人が死んでからは、完全に引きこもり生活をしてるみたいだけどな」

 

(えっ? 亡くなったの?)


「カノンさんは、なぜそんな私の知らない情報を……あっ、ブライトロード家だから」


「しっ! ってか、もう同じ組の奴らにはバレてるけどな。まぁ、家名は捨てたから、どうでもいい。だけどミカンさんのためになるなら、ブライトロード家で情報を集めてくるぜ」


(いやいや……)


「私が、まだあまり知らないだけかも」


「遠慮はいらないぞ」


「うん、ありがとうね」


 転生者のカノンさんは、言葉遣いに感情が表れる。ちょっと二重人格っぽい。現地人のカノンさんは安定しているみたいだけど。


 たぶん、二人の魂が一つの身体に同居している弊害が出ているのだと思う。こないだギルドマスターが彼に、早く称号を得ろと言っていたっけ。


 称号の制度は、カノンさんのような転生事故に遭った人のためにあるのだと、何人かから聞いた。その理由を尋ねても誰も教えてくれないけど。称号を得ることで魂が安定するのかな? 




「なぁ、ちょっと変じゃないか?」


 海岸をウロウロしていたタイタンさんが近寄ってきた。彼の護衛は多い。たぶん高位の冒険者ばかりだ。こういう所って、性格が出るよね。タイタンさんは、自分を大きく見せたがる。


「は? 何が変なんだ?」


 タイタンさんは私に話しかけたのに、カノンさんが反応してる。転生者のカノンさんは、タイタンさんを嫌ってるのよね。


「おまえ、チッ、うるさい方のカノンか。俺は、ミカンさんに話しかけたんだ。平民は黙ってろよ」


(あれ? ブライトロード家ってバレてないじゃん)


「なんだと? おまえのような嘘つきが、ミカンさんに話しかけてんじゃねぇぞ!」


 二人が騒がしいのは、いつものことだけど、どちらに味方をしても面倒なのよね。



 チラッと、レオナードくんに視線を移すと、はぁ〜っと深いため息を吐いてる。


「おまえら、またケンカかよ。何が変なんだ? 異常気象のことか? くっつき貝がいないことか?」


 レオナードくんも、ストーカー貝がいないことに気づいてたみたい。



「だから、ゲネト先生は、まだ海岸から動かないのね」


 私がそう呟くと、3人とも同時に頷いた。ふぅん、すぐケンカするけど、気が合うんじゃないの?



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