95、シンデレラガールみたい
それから数日後、担任のゲネト先生から念話を使って、ホームルームの日程連絡があった。臨時の実習があるようだ。
ユフィラルフ魔導学院も、事務長さんがアパートを訪ねて来たみたい。私とサラは別室にいたから、気づかなかったけど。
臨時の実習というのは、たぶん、乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』の10周年イベントに合わせたものだと思う。新たな攻略対象をイベントにも登場させるのだろう。3人とも同じクラスだから、ゲネト先生からもホームルームの連絡が来たのね。
(ゲネト先生が開発者だとは驚いたな)
未来が変わってしまったことに関する調整は、その後どうなったのか聞いてない。私の気持ちが、それどころじゃなかったからなんだけど……。
「あのワンピースの贈り主って、結局誰だったのかな」
小さな呟き声にも、サラはすぐに気づいてくれる。
私が、いつものようにメラミンスポンジでお気に入りの食器を磨いていると、掃除をしていたサラが駆け寄ってきた。
「旦那様ではなかったみたいですから、セレム・ハーツ様なのではないでしょうかぁ?」
「このアパートに突然届いたのよね? 私の居場所がバレてるってこと? お父様は私がまだ寮にいると思ってたみたいだけど」
アパートの家賃は高いと思う。それなのにダークロード家当主は、すっかり忘れていたみたい。側にいる人達も大変ね。まぁ、私に関心がないからだとも言えるけど。
「むむっ、確かに旦那様は、ミカン様が引っ越しをされたことをご存知なかったみたいでしたぁ。セレム・ハーツ様が、どこから情報を入手されたのか不思議ですねぇ」
(監視されてるのよね)
あの昼食会以降、私はずっとアパートにいる。エリザが、しばらくは出歩かない方がいいと言ったためだ。
グラスさんが探ってくれた結果、やはり、セレム・ハーツ様の婚約者捜しで、ユフィラルフの町は騒がしかったみたい。ユフィラルフ魔導学院の付近には、大量の人が集まっていたそうだ。
でも私の目撃情報がないことから、王都に呼ばれたのではないかという噂が出てきた。もうそろそろ、アパートから出ても大丈夫なのかな。
お隣のりょうちゃんにも、あれ以降は会ってない。
これまでなら、ふらっと訪ねてきて晩ごはんを食べていくこともあったけど、この数日は来ていない。たぶん、来られないんだよね。私には、王族の婚約者がいることがわかったから。
ギルドマスターは、りょうちゃんよりも、セレム・ハーツ様のことに詳しいように思えた。町の騒ぎが落ち着いたら、ギルドマスターに聞いてみたいことはたくさんある。
ダークロード家の本邸で見たタブレットのような魔道具では、異世界人からの視点で、セレム・ハーツ様のことが書かれていた。でもこの数日の騒ぎで、私の、セレム・ハーツ様への印象が変わった。
グラスさんが集めてきた情報によると、私は、まるでシンデレラガールのように扱われているみたい。ダークロード家といえば、圧倒的にエリザが有名で、妹の存在は知られてなかったのね。
異世界人の情報とは違って、この数日でクラスさんが耳にしたことは、お祝いムードが強いそうだ。まぁ、クラスさんの配慮もあるかもしれないけど。
セレム・ハーツ様は、王都にある屋敷からほとんど外へ出ないという点は、異世界人の情報と一致していた。ただ、人柄については、近寄りがたい危険人物ではなく、慈悲深く穏やかな人だという。
(監禁はないかな?)
私は、少しホッとしていた。でも、他の奥様情報は全くなかったみたい。異世界人によると、私が4人目なんだよね?
◇◇◇
コンコン!
ホームルームの日の朝、扉を叩く音が聞こえた。扉の前にいた黒服は、扉の先にいる来客を魔道具で確認すると、戸惑いを隠せない顔でキョロキョロしている。
「どうしたの?」
私がそう尋ねると、黒服は駆け寄ってきて、ヒソヒソ話をするような仕草をした。
「貴族の方のようです。あの紋章はブライトロード家です」
(なるほど、ビビったのね)
今、グラスさんは私を護衛するために着替えているし、サラはもう一人の黒服と買い物に行ってる。つまり、ここにいる黒服は、彼一人だからだね。
「構わないわ、お待たせしてはいけないもの」
コンコン!
再び、扉がノックされた。
黒服は、慌てて扉の方へすっ飛んでいき、ゆっくりと扉を開けたようだ。
「ミカンさん、いるかー?」
(あっ! ギルドマスターの声だ)
リビングに入ってきた彼は、確かに貴族のようだった。いつもは冒険者風の軽装か騎士っぽい服が多いのに、今朝は、重厚な感じの魔導ローブを身につけている。そのローブの左胸には、ブライトロード家の紋章が付いていた。
「ギルドマスター、おはようございます。そんなローブ姿は、初めて見ましたわ」
私がそう言うと、黒服は彼の顔をガン見している。
(ちょっと失礼だよ?)
「へぇ、ミカンさんはわかるんだな。俺がローブを着ると、いつも、どちら様ですかと聞かれるんだがな」
「声でわかりますよ。見た目は、確かに違いますね。髪を束ねられているから、別人のようです」
「あはは、普段は、寝起きのままのボサボサだからな」
「そうですね、ふふっ。今朝は、どうされました? 私は今日は、ユフィラルフ魔導学院に行かなきゃいけないんですよ」
「あぁ、わかってる。だから、俺が護衛に来てやったんだぜ。ミカンさんには、護衛できる使用人は一人しかいないだろ?」
「私の護衛ですか?」
そのために、なぜ魔導ローブなんだろう? あっ、りょうちゃんが女装するみたいに、身分隠しのつもりかも。
「そうだ。どうせゲネトのことだから、集まるとすぐに、ロクな説明もしないで転移魔法を使うだろ。行き先は、転移事故が起こりやすいベルメの海岸だからな」
「やはり、異世界人との交流に……」
「そういうことだ。ゲネトだけでは心配だと、りょうが言ってきたからな。俺がキミ達の護衛だよ」
(りょうちゃんが……)
「りょうちゃんは、他の仕事ですか?」
「あぁ、シグレニさんを迎えに行ったんじゃないか? まぁ、りょうでは、ユフィラルフ魔導学院の教室には入れないのもあるだろうけどな」
(顔に出てたかな)
ギルドマスターは、私に気を遣ってくれたみたい。たぶん、私は変な顔をしたのだと思う。なぜりょうちゃんが、お隣の私じゃなくて、時雨さんを迎えに行くのかって……。
「さぁ、行こうか」
着替えたグラスさんが戻ってくると、ギルドマスターは転移魔法を唱えた。




