92、ミカン、剣を授かる。そして……
私は、少し迷ったけど、精霊ノキを信じることにした。もう失敗してしまったんだから、どうすればいいかわからないもの。
私はノキに言われた通り、ゆっくりと立ち上がり、ダークロード家当主の顔を真っ直ぐに見つめた。
ノキは睨みつけてやれと言うけど、私にそれは難しい。だから、私は今までの怒りを込めた冷たい視線を向けた。たぶん私は、蔑むような嫌な目をしていると思う。
「ほう? なんだ? その目は」
(へぇ、楽しそうね)
ダークロード家当主……私の父親は、私の冷たい視線に逆に興味を持ったみたい。
「お初にお目にかかりますわ。ミカンと申します。私の記憶には父親に関するものがありません。ですから、王座のような椅子に座っておられる方の素性なんて知りませんので、万が一にも無礼があってはいけないと考えましたわ」
ノキが考えたセリフを、私は渾身の演技力で不良娘を演じる。我ながら驚くほど、冷たい言い方ができたと思う。
「ほう? まるで別人のようだな、ミカン。この屋敷にいた頃は、常に怯えた弱き目をしていたと記憶している。ユフィラルフ魔導学院は、おまえに合っているようだな。俺は、ロック・ダークロード、おまえの父だ」
「初めまして、お父様。失礼いたしましたわ」
「エリザ、おまえの妹は面白い子に育っているではないか。ククッ、反抗期なのか?」
(名前、初めて聞いた)
ロック・ダークロードという名前は、私の記憶にはない。でも、ゲームに登場する人の方が圧倒的に少ないから、当然かな。
父親に初めましてということには抵抗があったけど、なぜか逆に好印象だったみたい。ノキは、人の性格まで見抜いているのかな。
「ミカンは、穏やかで優しい子です。お父様が、門番の教育をキチンとしないから、ミカンは怒っているのよ」
「何やら、騒がしかったな」
「騒がしいと気付いていたのに放置したの!? 騎士のひとりが、ミカンが大切にしている守護精霊を斬ったのよ。しかも、小さな子供の姿をしていたモノを、何の躊躇もなく斬るなんて異常だわ」
「子供の姿をした守護精霊? それはユフィラルフ魔導学院で得た特殊な精霊なのか? 聞いたこともないが」
(やっぱり珍しいのね)
「ミカンの腕に刺さっていたスポンジの木から生まれた守護精霊よ。中庭を守る騎士達は、私が名乗っても剣を収めなかった。そんなに、ブライトロード家の魔導士を恐れているのかしら!?」
エリザの話が、妙な方向へ逸れた。エリザが名乗っても斬りかかってきたのは、エリザに化ける魔導士がいるってこと?
「ふっ、ムキになるな。おまえ達が、中庭に直接転移して来たからだろう? 魔導士による襲撃だと勘違いするのも、仕方のないことだ」
エリザは、父親に不満げな膨れっ面を見せている。意外な気がするけど、親子の仲は良さそうだな。
でも、中庭に現れた鎧を身につけた人達は、侵入者を捕らえるというより、エリザと私に殺意を向けていたよね。本物の私達だとわかっていたような気がする。
「それで? なぜ、謁見の間に私達を通したのかしら? この部屋は、油断ならない客人を案内する部屋でしょう?」
「正式な話をする部屋でもある。だから、立会人としてギルドマスターを招いたのだ。そちらの美しい女性は予定外だが、まぁ、リンツが信頼している神託者なら問題はない」
ギルドマスターは、リンツ・ブライトロードさんだっけ。ブライトロード家の人なのね。カノンさんと同じだ。だけどギルドマスターは、家名が知られることを嫌がっていると感じた。
ブライトロード家の当主は、ダークロード家を潰そうとしていると聞いたけど……。
「立会人が、なぜ俺なのかは疑問だがな。立会いということは、ミカンさんは9歳で成人とするのか?」
ギルドマスターが、私のすぐ横に移動してきた。りょうちゃんは少し離れているけど、私の顔が見える位置にいる。
「エリザが、一番信頼できるブライトロード家の人間は、ギルドマスターだと言ったからだ。グリーンロード家は何も文句を言わない。ブライトロード家を立会人にしないと、後で揉めても困るからな」
(早めの成人式なのかな?)
ダークロード家の当主は、老紳士に何かの合図をした。すると老紳士は、少し離れたテーブルの方へ何かを取りに行ったようだ。
「まずは、剣を授けなければならない。本来なら10歳を一人前としてきたが、異世界人との交流が始まった。この秋からは、さらに異世界人の数が増えるようだ。ミカンが10歳になるまで悠長に待っていられない」
(剣? やった!)
「もうミカンさんは、魔剣も使えるからな。ブライトロード家では5歳で杖を与えているのに、ダークロード家は遅いんだよ」
ギルドマスターはそう言っているけど、これは意味のない会話に聞こえた。もしかすると、私にそれを教えただけかもしれない。
「ふん、身体の小さな幼な子は、剣を持っても意味がない。魔導系の貴族には理解できないだろう。ミカン、こちらに来なさい」
「は、はい」
私が前に進むと、エリザが自分の剣を抜いた。
(な、なぜ?)
「ミカン、安心しなさい。剣の受け渡し時には、事故が少なくないの。私が守るわ」
「お姉さま?」
エリザは、ふわっと優しい笑みを見せた。老紳士が取りに行ったものは、剣だったみたい。それをダークロード家当主が掴み、鞘から剣を抜いた。そしてスッと振っている。
(父親が、娘を攻撃するの?)
「ふむ、悪くない剣だ」
鞘から抜いた剣を、そのまま私の方に放り投げてきた。
(非常識ね!)
だけど私は、平静を装って受け取る。その直後、鞘を放り投げてきた。その鞘は、エリザがキャッチしてくれた。
「ふっ、誰も手出しは出来ないみたいね。ミカン、お父様の近衛兵は動かなかったわ。中庭での騒動が耳に届いていたようね」
エリザから鞘を受け取り、剣を鞘におさめた。何か、お礼を言わないといけないよね?
どうしようかと迷っていると、ダークロード家当主が口を開く。
「反抗期のミカン。剣を授けたから、これでおまえは大人だ。あぁ、奇妙な礼は不要だぞ。剣を授けたということは、おまえはこれからダークロード家の者として、家のために働くことになる」
「はい? はい」
エリザは無言で自分の剣を収めつつ、私をチラッと見て複雑な表情をしている。
「ミカン、おまえにはダークロード家の者として、王族に嫁いでもらう。10歳まで生き延びたら、という条件があるから、婚姻は来年のこの日だ。良いな?」
(えっ……ええっ!?)




