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87、偽りの神託者と2つの問題

「彼らとユーザーのアバターがフィールドで遭遇すると、マズイってことですよね?」


 時雨さんがそう尋ねると、ゲネト先生は軽く頷き、他の集まっている人達に視線を走らせた。


 ゲネト先生は、きっと何かの術を使ってる。私に視線が向いたとき、わずかに不快感を感じたもの。シャーマンは、遠慮なく頻繁に術を使う。ちょっとズルイよね。


 そう考えていると、また、ゲネト先生の視線を感じた。


(あっ、フォローしなきゃね)



「ゲネトさん、その未来を見る能力のある神託者さんが、勘違いをしていたという可能性はありますか?」


「ほう? 神託者だとは言ってないが?」


 ゲネト先生は、また悪い癖が出ている。話が進まないのよね。たぶんゲネト先生は、時間稼ぎをしているんだと思う。いま、きっと術を使って、何かをしている。


「時空を越える能力を持つ人は、神託者じゃないんですか?」


「質問に質問で返すのか」


「ゲネトさん、それ、悪い癖ですよ」


(あっ、しまった)


 つい、イラッとして本音が出てしまった。高位の有力なシャーマンに対して、失礼すぎる言動だ。


「ミカンさんのそういうところは、ダークロード家だな」


「いえ、私は、ご存知の通り転生者ですから」


「ふっ、知らないらしいな。転生者が死んだ身体に入るには、条件がある。価値観の一致だ。キミがその身体に転生したのは、無作為ではない。この世界に招待した者が、その身体の持ち主の望みを実現したのだ」


(難しい話ね)


 つまり、この身体に合う魂を、この世界に招待した人……りょうちゃんが選んだってことなのね。


 りょうちゃんがフレンドの私を、物語の序盤で消える『エリザの妹』に選んだのか。


 チラッと、りょうちゃんに視線を移すと、珍しく焦ったような表情に見えた。ゲネト先生は、ニヤニヤしてる。りょうちゃんが隠していたことを、私にバラしてやった、ってことかも。


(ほんと、悪い癖ね)


 私が、ゲネト先生に失礼なことを言ったから、その報復なのかもしれない。でも、ゲネト先生自身は悪人ではない。人の感情の動きをもてあそぶ癖があるだけだ。そこに悪意がないことは、この半年でよくわかっている。



「話が逸れましたね、すみません。ゲネトさん、先程の質問にお答えいただけますか?」


「ほう、ミカンさんは大人だな。まぁ、知っていたが。あはは、楽しいな。そろそろリョウがキレそうだから、やめておこう。えーっと、質問は何だったかな?」


(りょうちゃんが、キレる?)


 りょうちゃんに視線を移してみると、表情の読めない妖艶な笑みを浮かべている。


「ゲネトさん、新たな攻略対象の物語を描くために、未来を……」


「あぁ、そうだったな。未来が変わったと言ったが、それは正確ではない。2年前に、2〜3年後を見たはずだ。おそらく、一方は、わざと偽りの情報を与えられたようだな」


(神託者が嘘をついた?)


 理由を尋ねたくなったけど、聞くまでもない。ゲームに協力するフリをした反対勢力が紛れ込んでいるのね。だから、さっき、りょうちゃんとギルドマスターが、険しい顔をしてたんだ。


「ゲネトさん、先程は、タイタンさんは商人で、カノンさんは二つの人格を駆使する魔導士のはずだったとおっしゃっていましたが、どちらが偽りなのですか」


「未来が変わったのは、カノンさんだな。カノンさんは、現地人だった彼が死んだ後に、キミ達とは別の世界から来た転生者がその身体に入った。その後に現地人の彼が生き返ったのだろう。たまにある転生事故だ。そのために称号があるのだ」


(称号が何?)


 すると、りょうちゃんが咳払いをした。私達には言っちゃいけない神託者さんだけの情報なのかも。



 ゲネト先生はニヤッと笑い、再び口を開く。


「まぁ、それはいい。カノンさんは、自分で人格の切り替えができないが、ミカンさんが関わると切り替えが可能だからな」


「私? ですか?」


「あぁ、カノンさんは、キミに惚れているだろう? 彼の中の二つの魂の感情の質が違うからだな。現地人の彼はキミに純粋に惹かれているし、打算的な転生者の彼はキミを崇拝している。だからどちらの魂も、譲りたくないらしい」


「はい? そんな感じはしないですけど」


「シャーマンでなければ、わからないことだ。彼は、自分の感情を隠しているからな。だが、ミカンさんが命じれば切り替わる。言葉にしなくても、キミが望むことに適した人格が出てくるようだ。実に面白い」


「えーっと、じゃあ……」


 私は少し混乱していた。だけど確かに、カノンさんの人格の切り替えは、私と話しているときには、頻繁に起こることがある。




「問題は、タイタンか」


 ギルドマスターがポツリと呟いた。


「知らないと言っていたな?」


「あぁ、Aランク冒険者は全員把握しているが、その名は記憶にない。サンサン屋の手伝いをしていると思っていたのだが」


 あー、そっか。手のひらサイズのメラミンスポンジの販売をサンサン屋に依頼したのは、ギルドマスターだ。新たな攻略対象のタイタンさんがいるから、サンサン屋を選んだのかも。


 ギルドマスターは、頭を抱えている。タイタンさんが商人じゃないなら、物語とフィールドが合わなくなるもんね。


 でも、まだ10周年までには、数ヶ月だけど時間がある。タイタンさんの物語を描き直すことはできないのかな?


 たぶん、偽情報を掴まされたことを問題視してるんだと思うけど。



 すると、時雨さんが口を開く。


「タイタンさんの物語は、書き直しになりますね」


「それはできない。もう、新たな攻略対象の告知は終わっている。10周年イベントの告知と一緒にな」


(ん? 早くない?)


 ギルドマスターは、頭をかきむしっている。こんな彼は初めて見た。怒りと焦り……なのかな。


「10周年って、この冬ですよね? あっ、そっか。10周年イベントは、10年になる前からやるのですね?」


 時雨さんは、ポンと手を叩き、一人で納得してる。他のユーザーだった人達の中にも、なるほどという表情をしている人もいるけど……。


「あぁ、10周年イベントは、こっちでは夏の終わりからスタートする。新たな攻略対象の第一弾が、タイタンだ」


(ひぇ、もうすぐ始まるじゃない)


 ギルドマスターは、だから絶望的な顔をしているのね。



「まぁ、ここで騒いでいても仕方ない。ミカンさんが、何とかするだろう」


 ゲネト先生はニヤニヤしながら、なぜか、りょうちゃんを真っ直ぐに見ていた。



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