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86、新たな攻略対象とゲネト先生の悪い癖

「新たな攻略対象が3人だということは、既に知っているだろう。物語ストーリーもすべて完成している。だが、ちょっと問題が起こったため、皆の意見を聞かせてほしい」


 ゲネト先生は、ユーザーミーティングのために集まっていた、この世界に転生してきた『フィールド&ハーツ』ユーザーにそう告げた。


(ゲームの開発者って言ったよね?)


 私は少し前から、ゲネト先生は神託者だろうとは思っていた。異世界との交流は、神託者達の力によって行われていることも知っている。


 当然、すべての神託者が関わっているわけではない。この世界に害となる神託者達の勢力もあるみたいだもの。


 しかし、まさか、ゲネト先生がゲームの開発者だとは思わなかった。高位の有力なシャーマンだからこそ、出来ることなのだろうけど。



「あー、ゲネトさんがいきなりそう言っても、皆は困るよな。彼のことを知るユーザーは、一緒に遅れてきた者達だけだからな。えーっと」


 ギルドマスターは、ゲネト先生の横に並び、進行役を奪還した。ギルドマスターが進行する方が、皆も話をしやすいよね。


(あれ? こっちを見てる)


 ギルドマスターは、私と時雨さんを交互にチラチラと見てる。ゲネト先生とは違って不思議な術は乗らないから、何を促しているのか、わかりにくいけど。



「ゲネトせん……いえ、ゲネトさん、どのような問題が起こっているのですか?」


 ギルドマスターの視線に気づいた時雨さんが、ゲネト先生にそう尋ねた。私よりも、情報屋でありユーザー時代にランカーとして有名だった彼女の方が、この話し合いに適任だと思う。だから私は口を開かない。


「シグレニさん、ありがとう。未来が少し変わってしまってな。これについては、まずは3人の情報提供が必要か」


 ゲネト先生はそう言うと、ギルドマスターの方に視線を向けた。どうやらゲネト先生は、もともとギルドマスターにその説明を促していたみたい。


 なんだか食い違いが起こったよね。たぶん、ゲネト先生の面倒くさがりな性格のせいだ。ゲネト先生は、ギルドマスターがすぐにその情報を話すと思ってたのだと思う。


 いや、そういう術を言葉に乗せていたのかな。ゲネト先生は、自分の術がどの程度ギルドマスターに効くかを試したのかもしれない。


 シャーマンだらけのクラスにいる私には、シャーマン達の思考回路が少しわかるようになっている。



「あ? 俺は、その情報は、全部は知らないぞ」


 ギルドマスターがそう言うと、ゲネト先生は、軽いため息をついた。噛み合わなよね。まぁ、ゲネト先生の面倒くさがりな性格のせいなんだけど。


「伝えたはずだが、まぁ、いい。おまえは鈍いんだよ。リョウは一部を知らないか。はぁ、ミカンさん、俺のフォローをしてくれ」


(へ? 私?)


「どうして私が……いえ、わかりました」


 ゲネト先生の声には、強い不快感を感じた。また術を乗せている。教室なら、状況に応じて断っていたけど、今は私がフォローする方が早い。


「へぇ、この程度なら、いつもは完全に拒否されたのだが」


(ゲネト先生の悪い癖ね)


「ここでは、私が何かを演じる必要もないでしょう? それより話を進めてください。その3人の情報提供からですよね」


 私が冷たく言い返すと、ゲネト先生は、わずかに口角を上げた。彼は言葉に術を乗せているとき、それを私が破ると、いつもこんな顔をする。


「おっ、今のも効かないか」


 ニヤッと笑ったゲネト先生の腕を、ギルドマスターが肘で突いた。私は、素知らぬふりをしておいたけど。



「新たな攻略対象は、カノン・ブライトロード、レオナード・トリッツ、そしてタイタンだ。各人の紹介をミカンさん、頼む」


(ええっ!? 全員、15組じゃない!)


 私が驚いた顔をしたみたい。ゲネト先生はニヤニヤしてる。私にフォローしろと言ったのは、その紹介が面倒くさいからなのね。


 ここで私が文句を言うと思ってるだろうから、あえて、素知らぬフリをしておこう。


「その3人の共通点は、ユフィラルフ魔導学院の魔術科に通う同じクラスの人だということです。昨年秋から、学校の仕組みが大きく変わりました。実技を伴う実習は、個々の能力差があると教育効果が悪いと考えられたのか、入学してからの学年制は廃止され、近い能力ごとに組変えが行われました。その3人は、私と同じ15組です」


 ここまで一気に話し、ユーザー達の表情を眺めた。


 学年制が廃止されたことは、皆、たぶん知っている。だけど、近い能力ごとにクラス分けされているのは、ユフィラルフ魔導学院だけかもしれない。


 皆のヒソヒソ話が収まるのを待ち、私は口を開く。


「カノン・ブライトロードさんは、10代後半に見える物静かな人です。家名を名乗ってないので、平民だと思われていますが、有能な魔導士です。レオナード・トリッツさんは10歳、いや11歳の正義感の強い少年です。有力なシャーマン貴族トリッツ家の人です。そして、タイタンさんは、20代前半に見えるAランク冒険者です。家は大きな商家のサンサン屋だそうです」


 私がそう説明すると、ゲネト先生はニヤッと笑った。そして、ギルドマスターの方をジッと見ている。



「ミカンさんと同じクラスに、その3人が集まっているのか。だが、タイタンというAランク冒険者はいないのだが」


 ギルドマスターは、私とゲネト先生を交互に見て、その後、りょうちゃんに視線を向けた。すると、りょうちゃんが、やっと口を開く。


「私は、そのタイタンという人物は知らないわね。その彼がAランク冒険者だという情報はどこから出たのかしら?」


「本人が言ってたよ。始業式の自己紹介で」


(あれ? 何、この雰囲気)


 さっきまでとは違って、ギルドマスターとりょうちゃんの表情が険しくなってる。



「これが、今回集まってもらった最大の理由だ。ミカンさんは触れなかったが、カノンさんが転生事故で二つの魂を持つことも物語では扱っている。そこも、問題なのだ」


 ゲネト先生は、そこまで話して、皆の理解が追いつく時間を少し取った。そして、再び口を開く。


「物語は、未来を見る能力のある者から聞いた情報に基づき、描かれている。タイタンさんは商人で、カノンさんは二つの人格を駆使する魔導士のはずだった。だが、今のタイタンさんは商人ではないし、カノンさんは自分で人格の切り替えができない」


 なるほど。物語と現実の彼らには、大きなギャップがあるのね。だからゲネト先生は私達に、その調整をさせたいんだ。



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