82、春のクラス替え
それから、あっという間に季節は進み、魔術科のクラス替えが行われる春になった。
この半年間、担任のゲネト先生は、私達にいろいろなサバイバル実習をさせた。彼が有能なシャーマンを育てようとする熱意はもちろん感じたけど、それ以上に、異世界人への警戒心が強いのだと思った。
ゲームのプレオープンから半年間は、結構、バグがあったみたいで、フィールドはグリーンロードの草原だけに限定されていたようだ。
草原の監視当番は、これまでに10回ちょっと回ってきたけど、いつもりょうちゃんと一緒だった。
メラミンスポンジの話をしたとき、彼の表情が変わった理由は、結局わからないままになっている。彼に尋ねるタイミングを逃したって感じ。あれ以来、彼とはメラミンスポンジの話をしていない。
草原の監視をしていても、特に何も事件は起こらなかった。だから、私達は花畑でのんびりと過ごした。精霊ノキが不思議な結界を張ってくれたから、冬でも寒くなかったのよね。
りょうちゃんは、花畑ではよく昼寝をしていた。私が一緒だから落ち着くと言っていたけど、たぶん、精霊ノキの結界で暖かいから、眠くなるのだと思う。
私は、りょうちゃんと一緒にいると、なぜかイチニーさんのことを思い出してしまう。彼とはベルメで別れてから、一度も会ってない。
だけど、以前のように会えなくて胸が痛くなることはなかった。私の気持ちは、イチニーさんからりょうちゃんに移ってきているのかもしれない。
ゲネト先生が担任する15組の中でシャーマン家じゃないのは、私とカノンさんだけだった。カノンさんは家名は無いということで通している。だから、彼を平民だと思って、みんなが使いっ走りのようなことをさせていた。
彼に預けていたメラミンスポンジは、クラスの中で上手く配ってくれたみたい。というか、クラスの人達に奪われていた感じだけど。
メラミンスポンジは、誰が作ったのかは、ギルドマスターの判断で隠されている。スポンジの木の芽の突然変異だということにしてあるらしい。
スポンジの木の群生地には、多くの冒険者が立ち入るようになったそうだ。スポンジの木の群生地の多くは、立ち入り困難な場所にあるらしい。そのため行方不明になる冒険者が多発して、その捜索ミッションが急増したようだ。
つまりそれほど、メラミンスポンジは人気になっている。ギルドマスターが言っていたように、最初は武器屋が飛びつき、その後じわじわと冒険者にも広まっていった。
私が、その価格を100円ショップ感覚で、小さな手のひらサイズの1個を銅貨1枚に決めてからは、すっごく売れるようになったみたい。
その小さなメラミンスポンジは、ギルドでも買うことができる。だけどそのせいで混むようになったから、ギルドマスターの判断で、大きな商家のひとつに販売を依頼したようだ。
そして、その商人の息子が、この春からユフィラルフ魔導学院の魔術科に通うそうだ。その息子は、商人の仕事は全く手伝わずに冒険者をしていた荒くれ者だと噂されている。
そんな人が、学校に通って勉強する気になったキッカケが、メラミンスポンジらしい。スポンジの木の突然変異の理由を知るために、ユフィラルフ魔導学院を選んだと聞く。この学校の図書館は、植物に関する本が最も多いそうだ。
まぁ、ギルドマスターが隠してるから、メラミンスポンジのことは調べてもわからないと思うけど、不良少年の更生に役立ったのなら、良かったかな。
◇◇◇
「春の組替えが発表された。通知のない者は、変更なしだ。各自それぞれの教室に入るように。組とは別で、卒業は単位制だ。サボっていると、いつまでも卒業できないぞ。以上だ」
春の始業式は、話の長い先生は居なかったから、驚くほど、さっさと終わった。
「あれ? もう終わり?」
私が呆気にとられていると、レオナードくんがニヤッと笑って私の肩を叩いた。そして、私を先導するように歩き始める。
私に話しかける人が他にいないからか、レオナードくんとボルトルさんは、いつも私の近くにいるように配慮してくれているみたい。
「ミカン、あの先生は、あんな感じだ。通知は来たか?」
「来てないよ。レオナードくんとボルトルさんは?」
「俺達も、通知はない。15組だ。ミカンの家名を暴露した奴とあと何人かは、他の組に移ると聞いたぜ」
「そっか。ゲネト先生の授業って、厳しかったもんね」
私がそう話すと、二人はポカンとした表情をしている。
(あれ? 厳しくないの?)
「ミカンでも、厳しいと思ったのか? どう見ても、余裕そうだったぜ? 俺は実習のときは嫌すぎて、腹が痛くなったりしてた」
「あはは、レオナードくんの方こそ、平気な顔に見えたよ? 私、あまりホラーって得意じゃないの」
「ほらぁ? 何だそれ?」
「あ、あの、黒い幽霊みたいなやつとか、ゾンビ……じゃなくて、アンデッドみたいなやつ」
「あぁ、死霊術か。ミカンは使えないもんな」
レオナードくんは何度か頷きながら、教室に入っていく。そして、いつもの定位置に……。
(あれ? 知らない人がいる)
私達がいつも座っている席には、見知らぬ男子がいた。男子というより男性かな。20代前半くらいに見える。
「その席は、いつも俺達が使ってるんだけど?」
レオナードくんが、その人を退かそうとしたけど、彼は、レオナードくんの言葉を完全に無視している。
(あー、ムキになるよね)
「レオナードくん、クラス替えがあったんだから、席を変えるのも悪くないんじゃない?」
「は? ミカン、言っておくが、こういうのは最初が肝心なんだぞ」
(やっぱり、ね)
クラスは見知らぬ顔もいるけど、随分と少なくなっている。あっ、卒業間際の3年生が卒業したのね。つまり、私を恐れる人も減ったってことだ。
「あちこち空いてるから、いいじゃない」
「俺は、端っこが好きなんだ」
確かに、初めが肝心なのかもしれない。私達と違って、シャーマンは、いろいろな意味で……あっ、いいことを思いついた。
「じゃあ、私は真ん中に座ることにするわ」
私が、誰も座りたがらない真ん中の一番前の席へ移動すると、レオナードくんの大きなため息が聞こえてきた。
(ふふっ、成功かな?)
「仕方ねぇな。俺は、ミカンの世話係だからな」
レオナードくんが私の方に歩いてくる。
「へぇ、ガキのくせに、女のケツを追い回してるのかよ」
せっかく上手くいったのに、見知らぬ人が、レオナードくんを挑発しちゃったよ。




