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81、グリーンロード家のこと

「カノン、魔法使用を許可する。何とかしてくれ」


 消えたと思っていたギルドマスターは、白い巨大すぎるメラミンスポンジに壁際に押しやられていたみたい。私からは、大量のメラミンスポンジのせいで見えないけど。


「わかりました」


 カノンさんがそう言った瞬間、冷たい風が吹き抜ける。そして、ほんの一瞬で、カットしたメラミンスポンジを魔法袋に収納したみたい。まるで、白い巨大クッションが消えたように見えた。


(カノンさんってすごい)


 あっ、そうか。彼は家名は捨てたと言っていたけど、ブライトロード家の人だ。ブライトロード家は魔導系の貴族の中のトップだもんね。



 この世界には、いわゆる公爵家に当たる貴族が3つある。ダークロード家、グリーンロード家、そしてブライトロード家。


 ダークロード家は、騎士貴族の中ではトップで、剣術に優れているのが特徴。ブライトロード家は魔術に優れていて、グリーンロード家は生産系のトップみたい。


 どこが一番裕福なのかといえば、ダントツでグリーンロード家らしい。グリーンロード家には、たくさんの分家があって、あちこちの他の貴族の領地にまで屋敷を建てていると聞く。まぁ、生活に必要なあらゆるものを仕切っている貴族だから、多くの分家も必要なのね。


 グリーンロード家では、後継争いは起こらないみたい。それに、他の領地に建てた屋敷は、定期的に主人を交代しているそうだ。主人の年齢や家族構成が変化すると、互いに合う屋敷を交換すると聞く。仲良くて楽しそう。ダークロード家とは大違いね。



 そういえば、『フィールド&ハーツ』の攻略対象には、グリーンロード家の人が3人もいる。王子様っぽいチェインが一番人気だっけ。私は、物静かで紳士的なファルツが好きだったな。でも物語ストーリーは、ロックウェルがほのぼのしてて良かった。


 この物語ストーリーは、神託者さん達が実在する人をモデルにして描いている創作物らしい。書いた人が抱くイメージも反映されてる気がするけど、外見や性格は、たぶんあまり変わらないよね。


(実際に会ってみたいかも)


 ダークロード家は悪役令嬢エリザ・ダークロードしか出てこない。ブライトロード家は私がクリアした物語ストーリーには、名前も出てこなかったっけ。イベントでは見た記憶がある気もするけど、具体的には何も覚えていない。



「ミカンさん、一気に全部出さなくてよかったんだが」


 窓際に押しやられていたギルドマスターが戻ってきた。そして、カノンさんから魔法袋を渡され、中身を確認している。


「ギルドマスター、すみません。10本も出してませんが、広さを考えるべきでした」


「これで全部ではないのか?」


 ギルドマスターは、カノンさんから渡された魔法袋を装備して、中身を一つ出して眺めている。


(すごい綺麗に切ってある!)


 私が切ったのは、歪な形になってたから、いまギルドマスターが持っているのは、カノンさんが切ったメラミンスポンジね。私が切った大きさを真似たみたいだけど、綺麗な長方形にカットされている。


 メラミンスポンジを切るには、短剣よりも風魔法を使う方が良さそう。あんなに綺麗にできるかはわからないけど。



「たぶん、数百本以上あるので、これはほんの一部です」


 私がそう答えると、ギルドマスターの目が輝いた。やっぱり、メラミンスポンジで磨くと気持ちいいもんね。


「そうか。とりあえず、どの位で売れるか未知数だから、買取額は、仮で構わないか?」


「気に入ってくれる人がどれくらいいるかはわかりませんが、使い方の説明も必要でしょう。その分は、試供品扱いでいいですよ」


「わかった。あと、これからも、カノンが切ってくれると助かる」


 ギルドマスターに視線を向けられたカノンさんは、ビクビクしながらも頷いている。現地人のカノンさんは、かなり臆病な人みたい。転生者のカノンさんとの共存のせいなのかな?


 いろいろと聞いてみたかったけど、私は我慢した。興味本位で聞いてはいけない。私は、ダークロード家の娘で、カノンさんはダークロード家を潰そうとしているというブライトロード家の人だもの。



「じゃあ、私はこれで失礼しますね」


「あぁ、また、メラミンスポンジの件は、商人達の反応を見て、連絡する。おそらく武器屋は飛びつくと思うがな」


「たくさんあるので、売れたらいいですけど」


「頑張って宣伝するぜ」


 私はギルドマスターに軽く会釈をして、彼らに背を向けた。カノンさんと目が合ったときに、何か言いたそうに見えたけど、何も言われなかったから軽く微笑んでおいた。


(ビクビクされるのも、居心地悪いな)



 そして階段を降りていくと、上がってくる女装したりょうちゃんにバッタリと会った。




「りょうちゃん? 3階はユフィラルフ魔導学院の学生専用だよ? って、知ってるよね」


(私、何を言ってんだろ)


 女装をしていても、りょうちゃんのことは意識してしまう。あっ、名前を出しても大丈夫だったのかな? まぁ、女装してるから、バレないよね。


「ふふっ、私はミカンさんをお迎えに来たのよ。さっき、レオナードさんがグリーンロードのギルドで、ミカンさんが転移事故に遭ったかもしれないって言ってたから」


(レオナードくんと知り合いなの?)


 りょうちゃんは、私をミカンさんと呼んだ。他の人がいるから、きちんと配慮してる。やっぱり私は失敗したな。いきなり、りょうちゃんって言ってしまったし……。


 また私の考えが顔に出ていたのか、りょうちゃんはクスッと笑った。その色っぽい雰囲気に魅了されたのか、すれ違う男性は惚けた顔をしている。


(私、りょうちゃんにボロ負けだわ)



「転移事故じゃないんだけどね。レオナードくんに心配かけちゃったか」


「そうね。ミカンさんが可愛いから、かな?」


「ええっ? あっ、確かに思ってたよりは……って、何?」


 りょうちゃんは、私と手を繋いだ。女装してるけど、りょうちゃんだよ? 頬が熱くなってきた。きっと赤くなってると思う。


「ミカンさんは、なんだか危なっかしいもの。さぁ、帰りましょうか、お嬢様。私、お腹が空いてるのよ」


「また、ウチで食べるの?」


「ふふっ、ミカンさん達って賑やかで楽しいんだもの」


「賑やかなのは、サラだけだよ」


 即座に反論してみたけど、りょうちゃんは楽しそうに階段を降り始める。本当にお腹が減っているのかも。



 アパートへの道で、私はりょうちゃんに、メラミンスポンジの話をした。するとなぜか、りょうちゃんの表情から、次第に笑みが消えていった。



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