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79、メラミンスポンジ!!

「えーっと、これは……」


(どう説明しよう?)


 ギルドマスターが不思議そうに私の左腕を眺めている。この枯れたえのき茸は、彼の目にも見えるのね。


「左腕に刺さっていたスポンジの木の枝は、精霊を生み出したんだから、完全に消えたはずだよな?」


「いえ、えーっと、よくわからなくて」


「ちょっと調べてもいいか?」


「は、はい」


 ギルドマスターは、サーチ魔法を使っているみたい。私に許可を取ったのは、たぶん生まれた精霊に邪魔をさせないためね。


 精霊ノキが生まれた後も、透明なえのき茸は、たまに出てきていたから、完全に消えたわけじゃないはず。あの、透明なえのき茸が枯れちゃったのかな?


 そう考えていると、透明なえのき茸が数本伸びてきた。ここにいるよと主張するようにフラフラして、スーッと左腕に戻っていく。透明なえのき茸は、ギルドマスターにも見えないみたい。


 ノキに聞いてみたいけど、カノンさんのブライトロード家が私の命を狙っているなら、ここでノキを呼び出すわけにもいかないか。情報は与えたくないもの。


 こんなことを考えていても、ノキは何も言ってこない。あっ、透明なえのき茸がフラフラしてるってことは、ノキはお出掛け中なのかも。



「ミカンさん、その状態のスポンジの木の芽は、ポキンと折っても大丈夫だ。引き抜くのはマズイぞ。完全に枯れているようだから、身体から排出しようとして出てきたのかもしれないな」


 ギルドマスターは、そう言いつつ、右手には杖を持っていた。もし大出血したら止血してくれるのかな。


「じゃあ、折ってみます。スポンジの木の枝って、折ると丸くなりますよね?」


 学校の図書館にこもっていたときに、ヘチマたわしみたいな感じの絵を見たことがある。だけど、サイズ感はわからない。


 今、私が立っている場所は、階段への通路だけど、左右には催事場のようなガランとしたスペースがある。ヘチマたわしが多少大きくても、大丈夫ね。


「あぁ、ボンっと横に膨らむが、長さは変わらないぞ。この状態ならもうマナはない。水を多く含む能力があるから、水魔法が使えない冒険者は、水の貯蔵に利用しているよ」


「へぇ、じゃあ、折ってみます」


 左腕から押し出されるように伸びた、枯れ枝のようにみえるえのき茸をつかみ、引き抜かないように気をつけて、折ってみる。


 ポキッと、かわいた音がして、枯れたえのき茸が取れた。だけど、その次の瞬間……。


「ひゃっ!?」


「おわっ? な、何だ?」


 枯れたえのき茸は、ボンっと膨らみ、真っ白な巨大すぎる薄いクッションに変化した。


(まさにスポンジだわ)


 私も驚いたけど、それ以上にギルドマスターとカノンさんの方がびっくりしたみたい。二人同時にサーチ魔法を使ってる。



「驚いたな。ここまで巨大になるスポンジの木の古枝は、見たことがない。しかも真っ白で、こんなにきめ細かな材質になるとは……」


「ベッドが十数個できるくらい大きくなりましたね。でも、低反発すぎるかも」


 厚さは5センチくらいしかないから、押してみるとすぐにペタンコになる。手を離せば、ゆっくり戻ってくるけど。しかも表面がザラつくから、ベッドには向かないかな。爪が少し引っ掛かると、スーッと裂けてしまう。


(あれ? もしかして、これって)



『みかん、驚いたか? こんな感じでいいんだよな?』


(ノキ? もしかして、メラミンスポンジを作ってくれたの?)


『アタシが作ったというより、みかんの記憶と古い芽を繋げただけだ。みかんの手で折ったことで、より正確に再現できたはずだぜ』


(確かにこの手触りは、メラミンスポンジだよ! ノキすごいね!)


『ふふん、古い芽を取り除く手間がなくて、アタシとしても助かるよ。寝床に古い芽があると、痛いんだよな』


(そっか、ノキは、私の左腕に住んでるのね)


『アタシの起源だからね。古い芽を取り除かないと新しい芽が伸びないからな』


(新しい芽? また精霊が生まれるの?)


『まさか。アタシのエサだよ。新しい芽が魔物を喰ってマナに変えると、アタシに流れ込んでくるからね』


(へぇ、そうなんだ。あっ、メラミンスポンジの大きさだけど、手のひらサイズにできないかな?)


『みかんが、古い芽を少しだけ折れば小さくなるだろ。その調整は、アタシにはできないから』


(そっか。わかったよ。古い芽は何本くらいあるの?)


『は? みかんは、アタシが生まれる前に何度も見てただろ? そんなの数えられない』


(えっ? あれが全部古い芽?)


『当たり前だろ。アタシが生まれるときにあった芽は、全部使ったからな』


(精霊が生まれると、芽は消えるんじゃないの?)


『それは人間の勘違いだ。古い芽のカスは残る。それを精霊が、人間の身体が処理できるくらい細かく砕いて、体内マナの流れに少しずつ流して取り除いてやってるんだよ。めちゃくちゃ面倒くさいだろ?』


(そうなんだ。確かに大変そう)


『みかんの場合は、芽の数が多いからな。精霊主さまから、ちゃんと掃除をしろと言われてたんだけど、めちゃくちゃ重労働だろ?』


(なんか、ノキ、言い訳してる?)


『してねぇよ! みかんの記憶を探るのも面倒くさかったんだからな。だけど、これで、お互いに嬉しいじゃないか。アタシは掃除しなくていいし、みかんは鏡を磨けて嬉しいだろ?』


(確かに嬉しいけど、これだけ大きなメラミンスポンジなら、使い切るには1年以上はかかるよ? これって消しゴムみたいに減っていくかな? 減らないなら……)


『みかんの記憶どおりなはずだ。ってか、たった1本の古い芽で、1年も使うのか? もっと磨けよ』


(じゃあ、時雨さんにプレゼントしようかな。私が使わなくても、メラミンスポンジは変質したりしない?)


『みかんが古い芽を折れば、白くなった後は誰の手に触れても変わらない。魔導学校にもたくさん知り合いがいるだろ? どんどん配れよ。古い芽のせいで寝床が狭いんだ』


 そう言うと、精霊ノキの気配が消えた。私が反論する前に出掛けてしまったのかも。代わりに、透明なえのき茸が1本ユラユラしている。




「ミカンさん、これは、通常のスポンジの木の古枝とは違って、水を蓄える能力は低いようだ。火耐性があるから焼却はできないし、土に埋めても消えそうにない」


 ずっとサーチをしていたギルドマスターが、困った顔をしていた。カノンさんも、同じような表情だ。


(粗大ゴミだと思ってるよね)


「ギルドマスター、これは、メラミンスポンジです。鏡が綺麗になりますよ」



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