75、ミカン、悪役令嬢を演じる
「レオナードくん、剣を貸して」
「は? ミカン、何をする気だ?」
「召喚されたモンスターを倒すよ。私、剣を持ってないの」
私がそう言うと、レオナードくんは一瞬、ポカンとしたけど、すぐに思い出したみたい。一緒にミッションに行ったときに、私はいつも時雨さんから剣を借りていたもんね。
「ちょ、俺、今、魔法袋を触る余裕はねぇぞ。ボルトル、ミカンに剣を貸してやれ。何でもいい」
「レオナードさん、僕は今、召喚術を……」
「召喚術は中断しろ。剣が先だ」
「かしこまりました。ただ、ロクな剣はありませんが」
ボルトルさんは、自分の魔法袋から短剣を取り出した。確かに、ロクな剣じゃないな。護身用の安価な短剣だから、モンスターには通用しない。
「おまえ、そんなショボい短剣しか……」
私は、その短剣を受け取る。もう召喚術は完成したみたいだから、猶予はない。魔法陣から次々に、ぬーっとモンスターが出てくる。
「ボルトルさん、ありがとう。これで大丈夫だよ。使い潰しちゃったら弁償するから」
「安価な短剣だから、使い潰しても気にしないでください。でも、それでは、彼らが召喚するモンスターには……」
「ボルトル、これでもミカンは、ダ……騎士貴族の令嬢だ」
「でも短剣ですから……」
二人の会話を聞いている余裕はなくなってきた。モンスターが全部私達の方を狙ってくる。魔力を持つモノは魔物だっけ?
私は、彼らを巻き添えにしないように、モンスターの方へと駆け出した。それと同時に、右手に持つ短剣に魔力を流す。
ここで火は使えない。風の刃も森の木々を傷つける。土属性に強そうな魔物もいる。ということは雷属性かな。
私が持つ短剣が、パチパチとイナズマを纏い、ブワンと長くなる。モンスターの召喚は、1人1体みたい。ということは、赤は9人だから……。
一番最初に到達したモンスターが、爪で引っ掻こうとしてきた。私はサッと回避して、他のモンスターの方へと向かう。すると、そのモンスターは私を追いかけてきた。
(やっぱり私だけが狙われてるのね)
モンスターや魔物達のちょうど中央にたどり着く。
「あはは、あのガキ、やっぱりバカだな。おとりのつもりか?」
赤いスカーフの人の声が、かなり近くで聞こえた。姿は見えない。隠れているのかな。
私が止まると、モンスターや魔物達も、私を取り囲む形で立ち止まった。そうか、術者の指示で動いているのね。一斉に私を襲わせようとして、動きを止めさせたみたい。
(ふふん、バカね)
イナズマを纏った剣を高く掲げてグルリと振る。すると周りに雷撃が飛んでいった。だけど、この程度で倒せるとは思えない。
私は、雷撃を受けてマヒしているモンスターや魔物を、その弱点属性に合わせて纏わせる属性を変えつつ、次々と斬っていった。ズルイ作戦だけど、これが一番確実なのよね。
召喚されたモンスターだからか、致命傷を与えると、パッと消えていく。返り血もない。なんだか変な手ごたえだな。
『乱戦は終了だ。紫の勝ちだ』
(あれ? 終わり?)
キョロキョロと見回してみると、レオナードくんとボルトルさんが、私の方へ歩いてくる姿が見えた。でも他の人達はいないみたい。
「ミカン、派手にやったな。俺達も、やばかった」
レオナードくんは、すっごく疲れた顔をしてる。
「あっ、もしかして、雷撃が外れちゃった?」
「あぁ、魔物を突き抜けて、思いっきり来たぞ。ボルトルがいたから何とか防御できたが、青の4人は、あれで全滅してた」
「ひゃ、ごめん。モンスターしか見えてなかった。あっ、ボルトルさん、剣を返すね。ありがとう」
短剣は一応、無事だったみたい。ずっと魔力を纏わせていたからかな。
「は、はい。いや、あはは、魔剣使いならそうと言っていただければ、魔剣に適した双剣を持っていましたが……」
(たぶん、渡したくない高価な剣よね?)
「おまえ、やはり出し惜しみかよ。まぁ、俺も、ミカンがここまでパワーアップしてるとは知らなかったけどさ」
「そんなに強いモンスターはいなかったからだよ」
私がそう言うと、レオナードくんはシーッと人差し指を立てた。まだ何かいるのかな?
「ここの声は、場外にも聞こえていますよ」
ボルトルさんがそう教えてくれた次の瞬間、私達がいる場所に、先生や学生達が転移してきた。
(わっ、めちゃくちゃ睨まれてる……)
「さて、疑心暗鬼は、これで解消されたか?」
先生が、ぐるりと見回して、ちょっとニヤッとしている。私みたいな子供に負けたことが、みんな受け入れられないみたい。
赤いスカーフの人達も、雷撃で場外に行ったのかな? それでも操っていたモンスターに指示できたの?
「先生、そのガキ……少女は一体、何者なんですか」
「家名は、個人情報だからな。私からは話せない」
(自己紹介をしなきゃいけない流れ?)
私が自己紹介をしようとしたとき、2年以上前に私達を食堂の階段で襲撃した人が先に口を開く。
「そいつは、ミカン・ダークロードだ。まさか、こんな力があるなんて……賞金が高いわけだ。弱いから逃げ回っているのかと思っていた。もう狙わない。すまなかった」
その人は、私に深々と頭を下げた。
(どうしよう……)
これまでの私なら、いえいえと言って許していた。だけど、りょうちゃんからも、学校では悪役令嬢でよろしくって言われてたよね。
私は、スゥハァと深呼吸をして、口を開く。
「貴方はこの私に、2年以上もの間、ずっと不快な思いをさせたのよ? そんなことで、簡単に許されるとでも思っていらっしゃるのかしら?」
私は、エリザの口真似をして、強い口調でそう返した。もちろん表情にも気をつけて、蔑むような態度を演じる。
すると、その人の肩がビクッと跳ねた。
「も、申し訳ございません。ミカン・ダークロード様」
(えっ? 様呼び?)
シャーマンが様呼びするのは、忠誠を誓った主人に対してだけよね? 私は驚きが顔に出てしまったと思う。なんとか取り繕わないと。
「まぁっ! シャーマンがそんなに簡単に、様呼びするのですの? プライドはどうしたのかしら?」
さすがに言い過ぎたかと後悔しつつ、私は冷ややかな視線を崩さないように気をつけた。
彼は怒って何かしてくるかもしれない。すぐに避けることができるように身構える。だけど……。
「本当に申し訳ありません。この償いは必ずします。死ねと言われるなら、この命も……」
(はい?)
パンパン!
ゲネト先生が手を叩いて、彼の言葉を止めた。
今年も残りわずかとなりました。
本作を見つけて読んでくださり、ありがとうございます♪
ブクマや星応援、いいねもありがとうございます♪ とても励みになっています。
来年もどうぞよろしくお願いします。
ハハァー!!(ノ´ロ`)ノ☆^((o _ _)oペコ




