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74、過激すぎるホームルーム

 私達がユフィラルフ魔導学院から、ゲネト先生の転移魔法で移動した先は、まさかの深い森の中だった。


 ユフィラルフの町を、草原とは逆の南側から出ると、深い森への入り口がある。たぶん、ここはその森の中だと思う。『フィールド&ハーツ』では登場しないけど、半年ほど前にミッションで来たことがある。


(だけど、乱戦って何?)


 転移の瞬間に、レオナードくんが私の腕を掴んでいたみたい。彼は今、慌てて手を離した。ベルメへの転移事故以来、レオナードくんは転移に慎重になっているのかな。



「ミカン、乱戦はヤバイ。グループ分けされたらすぐに警戒するんだ。始めの合図の前に、術を組まれる」


 レオナードくんが小声で教えてくれたけど、術を組むって何だろう? シャーマンの術なのかな。


「グループ分け?」


「あぁ、今、先生はこの付近を封鎖した。だから、先生のテリトリーになっていて、この中では人は死なないんだ。だけど怪我はするし、乱戦の後半は皆、力を誇示しようとするから荒れるんだよ」


「人が死なない術なんてあるの?」


(あっ、身代わりの人形か)


 とても高いから私は買えなかったけど、『フィールド&ハーツ』では、持っていると戦闘不能にならないというアイテムがあった。


 ゲームは、この世界にあるものをアイテム化しているから、そういう術があるのね。




『では、簡単に説明しよう。33人だから3つに分ける。自分と同じグループの人が多く残るように動いてみようか。強いダメージを受けると、グループ分けのスカーフは消え、場外へ転移するように仕組んである』


 頭に直接響く声が聞こえると、みんな静かになった。声を出すと入学式の誰かのように、頭を抱えることになるのかも。


『人数が半減したら、何でもありだ。乱戦をやったことのない人もいるだろうが、何ごとも経験だ』


(全然わからない)


『では、グループを分ける』


 空からひらひらと布が降ってきた。赤青紫の3色かな。これでグループ分けをするのね。どの色を取ってもいいみたい。互いに交換する人もいる。



「ミカンは、紫だな? 俺も紫を取った」


 レオナードくんがそう言うと、迷っていた人が紫を選んでいく。たぶん、レオナードくんとは敵になりたくないのね。


「うん、でもグループ分けをして、何をするの?」


 紫色のスカーフを、他の人と同じように首に巻く。長いから、リボン結びにしておこう。薄紫色だから、光の加減でピンク色っぽく見える。うん、かわいい。


「は? おまえなー。乱戦……あー、わからねーか。赤と青のグループを魔物だと思えばいい。実戦だからな。死なないけど、殺し合いみたいなもんだ」


「へ? そんなことをするの?」


 私が変なことを言ったためか、近くにいた人達からは、冷ややかな視線が突き刺さる。でも、これがホームルーム代わりだなんて、過激すぎるよね?



『みかん、楽しそうなことになってるね。アタシの出番かな?』


(へ? ノキはダメだよ。授業だもん)


 精霊ノキが本当に楽しそうな声で話しかけてくた。ノキとの会話は、声を使わないから、たぶん誰にも聞かれていない。


『だけど、みかんは、かなりの悪意を集めてるぜ? この結果で、これからの位置付けが決まりそうだな。人間のボス争いか』


(ふぅん、私は興味ないな)


『みかんは、悪役令嬢をやるんじゃなかったっけ? ボスになっておかないと、難しくなると思うけどな』


(あー、悪役……忘れてた)


『やっぱり、アタシの出番だな』


(ダメだよ。ノキは、おとなしくしてて)




『それでは、始め!』


 先生の合図と同時に、目の前に、黒い幽霊みたいなものが、ぶわっと出てきた。


「ミカン! それは術だ! 触れると痛いではすまないぞ」


 レオナードくんが何かを放つと、黒い幽霊は消えたけど、またすぐに別の幽霊が現れる。


(ひぇ、ホラーハウス状態だよ〜)


「うわぁ〜っ」


 私の後ろにいた人が、黒い幽霊に覆い被さられて、悲鳴を残してそのまま消えちゃった。


「そのチビが狙われている! 離れろ」


 そう言って私から離れた人達も、次々と黒い影に攻撃されて消えていく。



「レオナードくん、消えた人って場外に移動したの?」


「あぁ、先生のテリトリーの外に出されたはずだ。テリトリーの外は、普通にこの森のモンスターや魔物がいるから、もし出されても、警戒は緩めちゃいけない」


「うん、わかった」


 レオナードくんは、私をかばいながら、近寄ってくる黒い幽霊を何かの術で消している。


(すごく負担をかけてるよね、私)



「レオナードさん、紫が狙われています。赤は、卒業間近の3年生ばかりです。さすがに強いですね」


 レオナードくんに話しかけてきたのは、ひょろっとした背の高い男子だった。たまにレオナードくんと一緒にいるのを見たことがある。


「紫は、新3年だよな? 普通なら特徴のない青から潰すんじゃねーのか。俺が敵視されてるってことか」


「レオナードさんがかばっている新入生も狙われているみたいです。確か、ミカンさんですよね? 僕は、トリッツ家に仕えるボルトルといいます」


 そう言って、背の高い男の子は、軽く私に会釈した。レオナードくんの家に仕えているってことは、優秀なシャーマンね。


「ミカンです。ボルトルさん、よろしくお願いしますわ」


「ちょ、おまえら、挨拶してる場合じゃねーぞ。紫は、もう俺達だけしか残ってないぞ」


 レオナードくんは必死にガードしてくれているけど、私達に攻撃が集中している。卒業間際の3年生が、新3年生潰そうとしていて、ついでに私を狙う人もいるってこと?


(私、何もしてないな)


 でも、こんな幽霊は出せないし、どうすればいいか全くわからない。青のスカーフの人も、私みたいに呆然としていた人は、もうみんな消えちゃった。



『人数が半減した。これからは何でもありだ。今、赤が9人、青が4人、紫が3人だ。他のグループをすべてゼロにしたグループが勝ちだ』


 先生から追加の連絡が届いた。


(何でもありって何?)



 すると、黒い幽霊はスッと消えた。それによって、森の中に残っている人達の姿が見えた。


「トリッツ家が、新入生のガキを守っているのか? だが、ここからは無理だろうな」


 赤いスカーフの人が、嫌なことを言ってきた。


「今回の乱戦は、防衛戦だ。防御力の高い方が勝ちだ!」


「ははん、防御しかできなくて、どうやって勝つんだよ」


 そう言った瞬間、赤いスカーフの人達が、次々と魔物を召喚し始めたみたい。手にも、杖や短剣を持っている。


(ここからは、剣を使ってもいいのね)



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