73、魔術科の始業式の日
「ミカンは、何組になった?」
入学式からしばらく経った始業式の日、レオナードくんは、また私を見つけて、隣に座ってきた。私を気にかけてくれてるのかな。
入学式の翌日以降、学校では、クラス分けのための試験が順次行われた。そのため始業式は、ひと月以上も遅れたそうだ。私は試験の日以外は、サラと一緒に、図書館に引きこもっていた。草原の監視当番がないと、私の行動は初等科の頃と変わらない。
「私は15組だったよ。新入生は別扱いみたいだね」
お知らせによると魔術科は、1組から15組までは上位クラスという位置付けで、少し高度な魔法を学ぶみたい。16組以下は普通クラスなのかな? 全部で100組以上に分けられたらしい。すごい学生数だな。
それとは別に、新入生用のクラスが15コあるそうだ。この新入生クラスは、半年以内に通常クラスに成績順に振り分けられるみたい。
来年、転校対象になるのが、50組以下の下位クラスだと書いてあった。ひとクラスの人数は知らないけど、半分以上のクラスの人達が強制的に転校だなんて、ひどいよね。
「ミカン、それは勘違いだ。新入生の別枠は、初等科を他で修了した人達だけだ。俺も15組だけどな」
(えっ? そうなの?)
レオナードくんは嬉しそうな複雑そうな顔をしている。
「そうなんだ。じゃあ、また一緒だね」
「あぁ、ミカン、気をつけろよ?」
「ん? 何を? いつも私が狙われてるから?」
私がそう言うと、レオナードくんは少し辛そうな表情を浮かべた。相変わらず優しいね。
「それだけじゃない。他の奴らから、妬まれるかもしれない。15組の大半は、卒業間際の3年生らしい。俺みたいな新3年生もいるだろうけどな」
「春から3年生だった人ってこと?」
「あぁ、まぁ、ミカンがフィールド実習を受けていれば、今頃は俺と同じ新3年生だったんだけどさ」
「あれ? 魔術科は5年制じゃなかったっけ?」
「どこの学校も、3年修了で卒業するのが普通だ。5年まで行くのは、大学に行きたい連中だけだからな。宿屋ホーレスのシグレニも、3年で卒業しただろ?」
(確かに、そうね)
だけど、エリザが卒業したという話は聞いてない。異世界人の監視に忙しくて、授業をサボっているのかもしれないな。
「そっか。気をつけるね。私、魔術科からは態度を変えようと思ってたから、ちょうどいいよ」
「ふぇっ? 態度を変えるのか?」
「うん。私がオドオドしているから、今まで狙われやすかったんだと思う。だから、そういうのは初等科で卒業するの」
(悪役令嬢を演じるからね)
「そうか、確かにミカンは……」
そこまで言いかけて、レオナードくんは口を閉じた。私が首を傾げていると、レオナードくんの表情から元気が消えていく。
「レオナードくん?」
「悪い。ちょっといろいろあって、家のことを調べたから、ミカンの家名を知っている」
(今まで知らなかったっけ?)
「そう。レオナードくんが知ってるなら、これからは、家名を明かしてもいいかもね。初等科では絶対に知られないように気をつけてたけど」
「あぁ、そうだな。15組はエリートクラスだから、家名を名乗る人も増えるかもしれない。俺も、2年生から家名はバレてるからな」
レオナードくんのトリッツ家は、有力なシャーマンの家だから、知られるとプレッシャーになりそうだよね。でも、クラス分けが、ある意味、彼の自信になったかもしれない。
「では、クラスごとに教室に転移します。杖を出して軽く魔力を流してください」
(へ? 何?)
私が混乱していると、レオナードくんがすぐに気づいてくれた。
「ミカン、入学式で杖をもらっただろ? 杖がないなら何でもいいはずだぜ。先生は、学生を魔力で識別するからな」
「レオナードくん、私、転移魔法なんか使えないよ?」
「俺も使えねーよ。先生が転移させるんだ。杖を持ってないなら、予備を貸してやろうか?」
「大丈夫。あるよ」
私は杖をイメージすると、右手にパッと現れた。杖なら剣より小さくて軽いから、異空間収納に入るからね。
「おまえ、異空間収納に杖なんか入れてるのかよ。俺は、身分証と財布しか入れてないぞ。杖は普通、魔法袋だろ」
「私、簡易魔法袋しか持ってないから」
(あっ、転移の光)
レオナードくんと話していると、転移の光に包まれた。そして真っ白な光が収まると、私達は教室に移動していた。
◇◇◇
「はい、15組の皆さん、揃っていますね? 近くの席に適当に座ってください。あぁ、杖はもう収納して構いませんよ」
(うわ、あの、怖そうな先生だ)
入学式の日に念話のような術を使って、学生達の私語を封じた先生が、教卓の前に立っていた。
私は、レオナードくんに引っ張られて、彼の前の席に座った。教室内は、みんな互いに牽制し合うように、キョロキョロしている。
その中には、初等科で見たことのある顔もいたけど、ほとんどは知らない顔だった。性別不明な雰囲気の人もいるけど、みんな男性に見える。
(あっ! 襲撃者もいる)
2年以上前だけど、食堂の階段で私達を狙った人もいた。あの後、何度も悪意を向けられて、私は逃げて回っていたのよね。まさか同じクラスになるなんて……。
私は逃げ出したくなる気持ちを必死に落ち着かせる。今の私には精霊ノキがいるし、そもそも教室内で何かをしてくるわけがない。
「一応、自己紹介をしておく。私は、このクラスを担当するゲネトだ。私が担任だということで、だいたい察しただろう。あ、新入生もいたか」
(ちょ、何?)
ゲネト先生が私を見たからか、たくさんの視線が突き刺さる。悪意もあるけど、殺意ではなく敵視されているみたい。
「1組から5組は、旧4年と旧5年だ。6組から15組は、一定の成績以上の者を、その特徴別に分類したらしい。15組は33名の少人数クラスだ。ほとんどがシャーマン家の者になったな」
(15番目という意味じゃないのね)
「ゲネト先生、なぜ新入生の子供が混ざっているのですか。先生のクラスということは、呪術や結界術に優れた者を集められたということですよね?」
あっ! ゲネト先生って、有名な高位のシャーマンだ。彼がこの学校にいるからシャーマン家の子息が集まるって、エリザが言っていた。
「なるほど、互いに疑心暗鬼になっているようだな。ホームルーム代わりに、ちょっと乱戦をしてみるか」
先生がパチンと指を弾くと、私達はまた転移魔法の光に包まれた。




