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7、エリザ・ダークロードの妹が狙われる原因

「魔力量が増えればって、それはいつなの? ミカンは、いつまでこんな腕でいなきゃいけないの!」


 エリザ・ダークロードは、強い口調でギルドマスターに詰め寄っている。彼女は、妹のことになると豹変する。だから乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』では、妹を失ったことで闇堕ちしたのだ。


(怖いな)


 私のちょっとした行動で、彼女を大きく動揺させてしまう。私のせいで、彼女の人生が大きく変わってしまうよね。


 私に見せる表情は、いつも明るくて優しい。甘やかしすぎな気もするけど、年の離れた妹を溺愛している。彼女は、自分が私の母親代わりだとも言っていたっけ。母親は、亡くなったということね。


 この身体の前の持ち主の記憶にも、母親のことはない。まぁ、4歳までの記憶だから、あまりアテにならないけど。



「エリザさん、落ち着いてください。ミカンさんは、気にしてないようですよ?」


「ミカンには見せないようにしているもの。こんな腕を見ると、ミカンは絶望して死んでしまうかもしれないわ」


(そんなに? 逆に興味が湧いてくる)


「先程もお話したとおり、ミカンさんの成長に伴って、スポンジの木は消えていくと思いますよ。これがスポンジの木であれば、という前提付きですが」


「スポンジの木じゃなければ、何だというの? どう見ても、これはスポンジの木の枝よ!」


「聖木には必ずと言っていいほど、それに似せた邪木が現れます。しばらくは様子見されることですね。もし、邪気を蓄えた木であれば、変化が現れます。そのときは、シャーマンに依頼してください」


「そんな……私の妹なのよ? 邪木に支配されるわけないわ! だけど一応……シャーマンを近くに置いておくべきかしら。でもそうしたら、ミカンが呪われていると周りに誤解を与えてしまうわ」


 彼女は、珍しく気弱な表情をしている。悪役令嬢エリザ・ダークロードは、こんな顔をしない。でも今の彼女は若いから、迷うのも不安になるのも当たり前のことよね。


 私は、彼女をゲームの中のキャラクターとして見てしまっている。でもこの世界に転生した私にとって、エリザは実の姉だ。変な先入観を持ちすぎない方がいい。



「エリザさん、さっき、ミカンさんは文字に興味があるようでした。そして、シャーマンを近くに置くことは、やはり周りの目もあるでしょう。それならば、神託者を目指す者が多く通う魔術学校へ入学されるのはいかがでしょう?」


「神託者ではなくてシャーマンが必要なのよ? あっ! 講師ね? ユフィラルフ魔導学院なら、講師には高位のシャーマンがいるわ!」


「有名な講師もいますが、それ以上に、学友にはシャーマンの卵も多いですよ。有力なシャーマン家の子は、ユフィラルフ魔導学院に集まります」


「あぁ〜っ! 確かにそうだわ! ギルドマスター、貴方ってなんて賢いのかしら! すぐに屋敷に戻ってお父様に文を書くようお願いするわ。私も、ユフィラルフ魔導学院に転校しますわ!」


(えっ? 転校?)


「剣が得意なエリザさんが転入されるなら、ユフィラルフ魔導学院の学長も喜ぶでしょう。エリザさんは、残りは魔術学校の卒業証だけですよね?」


「ええ、剣術学校も武術学校も、無事卒業したわ。あとは魔術学校の卒業証があれば、私は家督を継ぐ権利を得ますわ」


(そんなにたくさんの学校を卒業したの?)


「王家に仕えるロード系の貴族家は、大変ですな。エリザさんは、まだ15歳なのに、ご立派ですよ」


「そんなお世辞はいらないわ。私はミカンのためにも、もっと強くならないといけないのよ」


「エリザさんは、もう充分に強いと思いますよ?」


「強くないわよ! お母様を守れなかったもの……だから、ミカンだけは必ず……」


 彼女は、10代後半に見えると思っていたけど、まだ15歳なのね。前世の私の半分の歳じゃないの!



 話の流れから、彼女の母親が殺されたのだとわかった。彼女は、母親から、幼い妹を託されたのかな。そう考えると、彼女のこれまでの行動も理解できる。幼い妹は……つまり私は、彼女の亡き母の形見のような存在なのかもしれない。


 そんな風に、大切に、必死に守ろうとしていた妹を失ったら……彼女が絶望して壊れてしまうのは当然の結果だ。


 そっか。エリザの妹が執拗に命を狙われるのは、そういうことだったんだ。ダークロード家を継ぐ彼女を壊そうとしている者がいるのね。内部の後継争いなのか、ダークロード家を潰そうとする外部の仕業なのかは、わからないけど。


 ゲームの中では、悪役令嬢エリザ・ダークロードは、いろいろな悪事をやりすぎて断罪される。最終の結末は、私がクリア済みのストーリーではまだ語られてないけど、悲惨な結末だと想像できる。


(私は、どうすれば……)




「エリザさん、妹さんが困った顔をしていますよ?」


「ハッ! ごめんなさい、考え込んでしまったわ。ミカンには難しい話よね。とりあえず屋敷に戻りましょう。ギルドマスター、クリスタルを買いたいのだけど」


「馬車の燃料ですか?」


「ええ、グリーンロード領は、道がガタガタなのよ。ミカンの怪我には負担になるわ」


「それなら、領内の雑貨屋を行くといいですよ。汎用性はんようせいの高い透明なクリスタルはありませんが、マナの花が売られています。馬車の燃料なら……」


「そうね! マナの花を採りに行けばいいんだわ! ミカンの初ミッションね」


(初ミッション?)


 彼女は、気分で、話がコロコロと変わる。さっきはすぐに屋敷に戻ると言っていたのに。


「ミカンさんが、自ら採取された品なら、買取可能です。くれぐれもミカンさんが自分の手で……」


「ギルドマスター、わかっているわよ! 不正なんかしないわ! 濁るのでしょう?」


「ええ、不正は必ずバレますからね。ミカンさんのためにも、手出しすべきでないことは……」


「わかってると言ってるでしょ! ミカン、行くわよ」



 彼女は、私の右手を握る。


(あれ? カードはどこに行ったのかな)


 そう考えた瞬間、右手にカードが現れ、彼女は繋いでいた手を離した。イメージするだけで、カードは右手に現れるみたい。


「ミカン、今はカードを見なくていいよ。カードを出すのは、マナの花を売るときでいいの」


「うん」


「きゃ〜っ、今の、うん、かわいい〜」


 彼女はまた、私をぎゅっと抱きしめた。



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