67、見た目が気になるミカン
「あはは、みかんちゃんの他人行儀の顔、可愛かったなぁ。あんなに目が泳いでるとバレちゃうよ?」
「だって、りょうちゃんが知らない人のフリをしてるのか、わからなかったんだもん」
私が即座に反論すると、りょうちゃんは楽しそうに笑っている。私をからかっているという感じでもない。このやり取りが、彼には楽しいみたい。
お隣りに引っ越してきた挨拶の後、りょうちゃんは私の準備ができるまで、アパート3階の廊下で待っていてくれた。
昨日は草原まで黒服が送り届けてくれたけど、りょうちゃんが大丈夫だと言ったので、いま私は、りょうちゃんと二人で、ユフィラルフの町を歩いている。
(これってちょっとデートっぽい?)
りょうちゃんは、さっき挨拶に来たときとは違って、軽装に着替えていた。冒険者風だけど、剣の装備はしていない。こんな服だと実際の年齢より若くて、20代半ばに見えるかな。
私は中身はアラサーだけど、この身体は8歳児だから、相変わらず親子に見えてしまいそうなんだけど。
「みかんちゃん、ちょっと買い物していい?」
「ん? うん、いいよ。あまり長くならないようにね」
「ふふっ、了解」
私が偉そうなことを言っても、りょうちゃんはクスクスと笑っている。まぁ、私の見た目が8歳児だからかな。
でも、りょうちゃんは、ゲームのフレンドさんだった頃から、こんな感じだっけ。あの頃、私は、りょうちゃんみたいな性格の男性が近くにいたらいいなと思っていた。
(いま、本人が近くにいるのよね)
そう考えると、急に、りょうちゃんを異性として意識してしまう。私って、気が多いのかな。イチニーさんのことが好きなのに、レグルス先生のことも大ファンで、りょうちゃんまで……。
だけど、使用人達の反応からして、りょうちゃんは私よりも身分が高いみたいだった。身分のことはよくわからないけど、たぶん釣り合わないよね。
それに、私とりょうちゃんでは、あまりにも年齢が違いすぎる。私は初等科を修了したばかりだけど、りょうちゃんは学者さんなんだよね? それに神託者さんでもあるし。
でも、りょうちゃんは永遠に31歳だと言っていた。イチニーさんは永遠に20歳だと言ってたし、一部の人は年齢が止まってしまうのかな。
だとすると、私を恋愛対象として見てくれるようになることもあるのかな。まだまだ先のことだろうけど。
「ありがとうございました!」
店員さんの声で、私はハッとした。考え事をしている間に、りょうちゃんは何かを買ったみたい。だけど、焼き立てパンの香りいっぱいの店内を見回してみても、りょうちゃんの姿がない。
(あれ? 見失った?)
すると店の外で、りょうちゃんがクスクスと笑っているのを見つけた。いつの間に店を出たの?
「お嬢さん、お兄さんは店の前ですよ」
「あ、はい。すみません」
私がキョロキョロしていたことに気づいた店員さんが、声をかけてくれた。私は、慌てて店を出る。
(は、恥ずかしい)
外に出ると、りょうちゃんが手を差し出してくれた。
「ん? りょうちゃん、何?」
「みかんちゃんが迷子にならないように、手を繋ごうと思って」
「私は子供じゃないよ?」
そう反論したけど、私はりょうちゃんの手に、自分の手を重ねた。子供の私からすれば大きな手だけど、指が細くて綺麗な手だと思った。
「ふふっ、じゃあ、行こっか」
りょうちゃんは上機嫌で、草原へ向かって歩き出す。さっき買ったはずのものは、手には持ってない。異空間収納に入れたのね。
(あっ、さっき……)
パン屋の店員さんは、私に、りょうちゃんのことをお兄さんって言ったよね。お父さんではなくて、お兄さんって言った!
りょうちゃんの服装が若いから、親子には見えないのね。それに私の服も、サラが大人っぽい青いワンピースに着替えさせたから、私達は兄妹に見えるのかな。
「みかんちゃん、服を着替えたのは、年齢差を気にしたの? 朝の服の方が、かわいいのに」
「へ? あぁ、侍女がねー」
私はその先の言葉が出てこなかった。サラがなぜ着替えさせたのか、わからない。りょうちゃんと一緒に行くとわかると、突然、ワンピースにしようと言い出したのよね。
「ふふっ、そっか。あの名前を持たない侍女さんは、たぶん私のことを知っているからだね」
「ん? りょうちゃんのこと?」
「しーっ。草原に着くよ」
草原への道では大勢の冒険者が待機していて、草原に異世界人がいることを住人に伝えている。しばらくは、こういう検問のようなことをするそうだ。
りょうちゃんが、昨日も通ったと告げると、冒険者達はすぐに通してくれた。そういえば昨日は、長々と注意を聞かされたっけ。
◇◇◇
草原は、昨日よりもゲームアバターが増えていると感じた。でも、皆、初期装備だし、初心者らしくオロオロしている。
「今日は、変なユーザーは居ないね」
私がそう言うと、りょうちゃんはふわっと微笑んだ。
「たぶん、みかんちゃんのおかげだよ」
「へ? 私? どうして?」
「ふふっ、もう少し奥へ行こうか。高台になっている場所で、ユーザー達の監視をしながら話すよ」
りょうちゃんは手を繋いだまま、グリーンロード中心街の方へと向かっていく。少し歩くと、多くの人が行き来している道を外れて、左の方へと進んでいった。
(あっ、大きな道だ)
草原の両側の道は越えてはいけないと言っていた、エリザの声がよみがえってくる。
「りょうちゃん、大きな道は越えちゃダメだよ」
「あぁ、エリザさんがそう言ったのかな。でも、今日は私が一緒だから大丈夫だよ。向こう側に行ってしまうユーザーがいると困るからね。境界線の監視をしたいんだ」
「そう、なの」
「ふふっ、それに、あの道の向こう側の高台は、花畑になってるんだよ。みかんちゃんに見せてあげたいんだ。この世界に来て、つらいことばかりだったでしょ」
そう言って、ふわっと微笑むりょうちゃんは、フレンドさんの頃と全く変わらない。優しくて、癒し系で、いつも私を元気付けてくれる。
「りょうちゃん……」
そんな風に優しくされたら、フレンドさんとしての好きから、別の好きに進化しちゃうよ。
「あぁ、心配しないで大丈夫だよ。道の向こう側にいる魔物は強いけど、今のみかんちゃんには手出しできないよ」
「えっ? どうして?」
「もうすぐ、みかんちゃんの守護精霊が生まれるからね。その精霊が、マナの清らかな場所に行きたいって言ってるんだ」




