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59、ミカンの引っ越し

「ええ〜っ? レグルス先生は、他の所に引っ越してしまうのですか」


「そうなんですよ。この秋から、寮担当に当たってしまいましてね。ユフィラルフ魔導学院の魔術科の寮の一室に、引っ越すことになりました」


 グリーンロードから戻った翌朝、私の寮の部屋からアパートへの引っ越し作業のため、歴史学のレグルス先生が手伝いに来てくれていた。彼は、荷造りをしなくても、指定した空間内の物を移動させる魔法が使えるそうだ。


 だから私だけが特別なのではなく、希望する寮生の部屋を順番に、レグルス先生が手伝いに回っているみたい。


 レグルス先生と同じアパートになると思って、ワクワクしていた気分が、一気に沈んでいく。



「ミカンさん、私も少し残念ですが、転任するわけではありません。初等科では歴史学の授業は無くなってしまいましたが、魔術科の授業でお会いしましょう」


「はい、よろしくお願いします。歴史学は必ず選択します!」


 私が力強く宣言すると、レグルス先生はふわりと優しい笑みを浮かべた。


(やっぱ、カッコいい〜)


「ふふっ、元気なお返事は大変嬉しいですよ。実は歴史学は、必須科目なのですけどね」


「へ? あ、じゃあ、必ず授業に出ます……」


 私は恥ずかしくなって顔を伏せた。絶対に真っ赤になってるよ。そういえば、歴史学は必須科目だった。それは初等科の修了時に、説明を受けていたことだ。



「ミカン様ぁ、残念ですね。でも、きっと、ユフィラルフの町でもバッタリ会えますよ〜。そういえば、初めてこの町に来たときも、お会いしましたよね」


 侍女のサラが、必死に私を励ましてくれる。使用人達には、私がレグルス先生のファンだということが、5歳の頃からバレている。


「そういえば、そうね。レグルス先生は、誰かと待ち合わせをされていたのでしょうか。姉が私を紹介してくれたのだったかな」


 熱くなった頬を手で冷やしながら、私は冷静を装う。


「あぁ、あの時は、僕はミカンさんが通られるのを待っていたんですよ。エリザさんの妹さんが、ちゃんとユフィラルフ魔導学院に到着するかを見届けたくてね」


(えっ? 私を待ってた?)


 私の頬は、また熱くなってきた。


「そ、そうなんですか」


「ふふっ、ええ。遠目ですぐに気づきましたが、エリザさんが声をかけてくれるまで我慢していたのですよ」


 そう言うとレグルス先生は、やんちゃな男の子のように微笑んだ。メガネ男子のこういう意外な笑みは、破壊力が半端ない。


(きゃ〜、カッコいい〜)


「そ、そうだったんですね」


「ええ。あっ、決してストーカーというわけではありませんから、ご心配なく」


(ん? ストーカー?)


 この世界の人達は使わない言葉だ。レグルス先生は、なぜストーカーという言葉を知っているのかな。あっ、学生の中には転生者が少なくないからかも。


 私が黙ってしまったからか、レグルス先生は少し苦笑いをしたように見えた。もしかしたら、若者の言葉だと思って使ったのかもしれないな。『フィールド&ハーツ』のユーザーだった転生者は、10代の人が多いと時雨さんが言ってたっけ。



「では、荷物を受け取りますね。僕の能力では人は動かせないので、一緒に歩いて行きましょう。すぐ近くですから」


「はい。よろしくお願いします」


 レグルス先生は、寮の部屋にあった荷物を光に変えて、彼の手に収納したように見えた。もしかするとこの世界の皆が持つ、異空間収納のすごい版なのかもしれない。


 私の異空間収納には、冒険者カードと巻き貝が入ってると思う。ほとんどの人は、お金を異空間収納しているらしいけど、子供の私では容量が小さいから使ってない。




 ◇◇◇



「あぁ、レグルス先生、おかえりなさい」


 アパートのエントランスには、警備の兵と、管理人さんらしき人がいた。このアパートは、貴族と商人などの裕福な人専用だと説明を受けている。だから、警備がいるのは当然だけど、管理人室があることには少し驚いた。


(しかも、すごい数……)


 管理人室には、パッと見て10人以上の人がいた。もしかすると、使用人の少ない貴族のサポートをするのかも。



「ただいま戻りましたよ。ミカンさん、紹介しますね。この方がアパートのオーナー兼管理人さんです。こちらは、ミカン・ダークロードさんとその使用人の方々ですよ」


 レグルス先生が私を紹介してくれると、オーナー兼管理人さんは、ギクッとして表情をこわばらせた。


「し、失礼致しました。私は、当建物の管理をしておりますハイターと申します。ユフィラルフ魔導学院の初等科で多くを修得された才女と名高いミカン・ダークロード様に、当建物を選んでいただき……」


「管理人さん、そんなに堅苦しい挨拶は、逆に迷惑になりますよ? ミカンさんはダークロード家の方ですが、お友達を家柄で取捨選択するような真似はされません」


「そ、そうでしたか。失礼致しました。お部屋にご案内致します」


(緊張してるのかな?)


 管理人さんの手は震えているように見えた。もしかすると、ダークロード家に何かトラウマがあるのかもしれない。



「管理人さん、引っ越しの手伝いをしているから、僕が案内するよ。彼女の部屋は、3階の右側だよね?」


「は、はい。ではよろしくお願いします。あっ、レグルス先生の引っ越しは、今夜でしたか?」


「そのつもりだよ。ただ、寮に入るからね。ほとんどの家具は不用品だな。置いて行ってもいいかな? 適当に処分してくれる?」


「はい、次に入居される方が使われるかもしれませんし、不用品はそのままで大丈夫です」


「わかった。じゃあ、ミカンさん、3階まで階段ですよ」


「あ、はい」



 レグルス先生について階段をあがっていくと、踊り場の所で1階の様子が見えた。


(うわ、みんな頭を下げてる……)


 管理人室にいた人達も出てきて、みんな私達に頭を下げていた。ダークロード家だからだよね。


 私はやめてほしいと感じたけど、使用人達は、それを当然のこととして澄まし顔だ。ここは格差が激しい世界だったのだと、実感する。




「さて、ここですよ。預かっていた物は、一気に出してもいいかな?」


「はい、お願いします」


(わぁっ! 広い)


 新しい部屋は、建物の3階の半分まるまるだった。何部屋あるのかわからない。


 レグルス先生は、新しい部屋に何かの魔法をかけた後、荷物を出してくれた。



「使用人の寝具が足りないね。良かったら、僕の所からもらってくれる? ミカンさん、ちょっと見てくれるかな?」


(えっ? お邪魔していいの?)



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