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55、私が悪役令嬢を演じましょう

 コンコン!


「二人を連れてきたぞ」


 ギルドマスターは、一番奥の部屋の扉をノックすると、自らギィっと扉を開けた。すぐ近くに、神託者さんの姿があった。


(扉を開けに来たのかな)


 神託者さんは、私と時雨さんに素早く視線を走らせたみたい。彼はベールで顔を覆っているけど、私達をとても心配してくれていたことが伝わってくる。


 扉が、バタンと閉まった。


 この音は、何度聞いても慣れないな。ギクリとしてしまう。私だけじゃなくて、時雨さんも少しビクッとしてたから、みんな驚くのね。



「シグレニさん、体調が悪そうですね。こちらへ」


 神託者さんは、時雨さんを水晶玉のあるテーブルへと連れていった。時雨さんが触れると、水晶玉はパッと強く輝いた。


「頭痛が消えたわ。ありがとうございます」


「あの人の術を受けてこの程度で済んだのは、シグレニさんの装備のおかげですね。テリトリーの中にいた時間が短くないので心配です。テリトリー解除後は、段階的に身体に負担が現れますから」


(彼は間違いなく、りょうちゃんね)


「経過に気をつけておきます」


 時雨さんがそう答えると、神託者さんは大きく頷いた。



「おい、こっちのチビの心配はしないのか?」


 ギルドマスターがそう言うと、神託者さんは、私に視線を向けた。なぜか、私、ちょっとドキドキしてる。


「ミカン・ダークロードさんなら、大丈夫でしょう」


(えー、冷たいよ、りょうちゃん)


 でも、彼の話し方には少し違和感を感じた。他の人に聞かせているかのような……あっ、そうだ。この部屋は、誰かに見られてるんだっけ。



「ふっ、まぁ、そうだな。左腕に何かあると思って、奴が彼女のシャツを破いたようだ。こんなチビでも、ダークロード家の令嬢だ。無礼どころでは済まないぜ」


「それで、大きなジャケットを肩掛けされているのですね。ダークロード家の令嬢の服を、しかも肩があらわになるように故意に破く行為は、あまりにも破廉恥です。王家から罰が下るでしょうね」


「ふっ、そうだな。しかし、神託者の称号を取り消されたとはいえ、あの堕ちたシャーマンのテリトリーは、神託者でも外からしか破壊できないのに、ミカンさんには効かないんだから、面白れーよな、ククッ」


(なんか、煽ってる?)


「そうですね。ミカン・ダークロードさんの血筋から考えても、まぁ、当然かもしれませんが。草原で厄介モノ扱いされていた皮の厚い中型モンスターを、一撃で複数体を仕留めるチカラがあるんですからね」


「ん? あのデカいネズミか?」


「ええ、上の冒険者ギルドで、さっき騒ぎになってましたよ。だから地下の騒動に気付くのが遅れたようですね」


 ギルドマスターと神託者さんは、やはり、この部屋を見ている誰かに教えてるみたい。しかも、私のことを過剰評価してる。


(あの人の仲間も聞いてるのかな)


 神託者の中には、この世界の害になる人もいると言っていた。神託者だったあの人は、この世界を乗っ取ろうとしている勢力のひとりみたいだし。



「あぁ、悪い。つい、話し込んじまった。二人は、ゲームの出演者として、今日は来たみたいだぜ。出演者の登録は終わってるんだったよな? 俺がやるつもりだったが、あのときは急用が入ったから、任せっぱなしだったが」


 ギルドマスターが、やっと本題に戻した。


「シグレニさんは、もう既に役割を演じていただいてますよ。宿屋ホーレスの看板娘であり、上位冒険者として、初心者ユーザーのサポートをしてくれています」


「そういえば、ギルドでの知名度が上がったようだな。情報屋としても、そろそろ称号を得てもいいほどの活躍だ」


(今度は、時雨さんね)


「そうですね。シグレニさんは、情報屋としての能力は高いでしょう。また、人脈を広げるのも得意なようです」


 この場所を見ている人達に、時雨さんの凄さを教えてるんだ。そうすることで、彼女の重要度が上がるから、きっと安全になる。


 時雨さんは、少し戸惑っているみたいだけど、否定や謙遜はしない。ニコニコしながら話を聞いている。



「ミカンさんに関する情報は、あまり聞かないな。詳細設定についての返事は、まだだったな」


(ギルドマスターも知ってるのね)


「今日は、その返事にと連れてきました。私がさっさと部屋に入っていれば、あんな襲撃は受けなかったのに……すみません」


 時雨さんは、あの分厚い調査資料に釘付けだったことを、後悔してるみたい。


「私が、子供の平均的なレベルを知りたがったから……」


「ふっ、二人とも、それは関係ない。アイツは、俺が居ない隙を狙っただけだ。それにミカンさんがいるとは知らなかったんじゃないか?」


「確かに、身分証の提示を求められましたが……」


「二人は何も悪くないですよ。この地下は直接の転移が容易ですからね。問題があるとすれば、その仕様でしょう。それよりミカン・ダークロードさん。宿題の提出をお願いしますよ」


(すごい記憶力)


 もう2年ほど経っているのに、役割を考えることを宿題と言ったことを、りょうちゃんは覚えてたんだ。



「さっきのミカンさんは、まるでエリザのようだったよ」


 時雨さんは、私に悪役令嬢をさせようと必死ね。あれ以来、時雨さんは無意識なのかもしれないけど、こういう発言が結構多い。


「シグレニさん、誘導されるのは、どうかと……」


 神託者さんが、やんわりと注意してくれた。でも彼も、それが一番だと思ってるよね。


 私もいろいろと考えた結果、正義感の強いエリザを悪役令嬢として描いた乙女ゲームには、文句を言ってやりたい気分だった。神託者の誰かが、エリザを悪役にしたのよね。



「神託者さん、1年以上前から私の覚悟は決まっています。ただ、そのための能力が足りないと感じたため、返事が遅くなりました」


 私がそう話し始めると、神託者さん……りょうちゃんは、水晶玉に手を置き、記録を始めたみたい。


「悪役令嬢として描かれている姉のエリザは現地人です。彼女の性格は、悪役に適しているとは言えません」


「悪役令嬢エリザ・ダークロードは、物語の中の主要人物ですよ。悪役がいなくなると、ゲームの世界観が崩れてしまいます」


(うっ、緊張する)


 だけど、後戻りはしない。自信はないけど頑張るしかない。きっと、時雨さんもみっちょんも、そしてりょうちゃんも、未熟な私を助けてくれるはず。


「ええ、それなら、私が悪役令嬢を演じましょう。このゲームを知る転生者である私の方が、悪役には適していますわ」



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