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52、始まりの草原の巨大ネズミ駆除

「時雨さんのお出かけって、ここ? 欲しいものを教えてくれるんじゃないの? もうすぐ時雨さんの誕生日じゃない」


「いいから、いいから〜。もうトラウマは大丈夫なのよね?」


「うん、大丈夫だよ」


 彼女と二人でやってきたのは、グリーンロードの中心街への草原だった。ゲームの運営さんのアバターは、今日は見当たらない。すべての調整が終わったからだと思う。


 この草原は、フィールド学習のときに数名の襲撃者に襲われて以来、時雨さんとは一緒に来たことがない。


 私のトラウマになっていると彼女は心配してくれていたみたいだけど、私は、私を守りきれなかったことを時雨さん自身が自分を責めていると感じていた。


 時雨さんだけでなく、一緒にパーティを組んでいたサラも、私から離れていたことをずっと後悔していたし……。悪いのは襲撃者達なのにね。



「時雨さん、私、剣を持ってきてないよ?」


「私が持ってるから大丈夫。アレを数体倒したいのよ。みかんちゃん、手伝って」


 時雨さんが指差したのは、最近、草原に現れるようになったモンスターだった。ゲームでは、初心者が遭遇すると、戦闘不能にさせられたっけ。硬い皮で覆われた巨大ネズミだ。


「あのネズミ、硬いよ?」


「ふふっ、魔剣を試すには良い相手じゃない?」


(あー、なるほどね)


 時雨さんは、私がちゃんとプレゼントを使えるかを確認したいみたい。剣を使わなくても、あのモンスターなら、左腕のえのき茸がパクッと丸飲みするんだけどな。


 以前、時雨さんとみっちょんには、スポンジの木のことを話したけど、スポンジの木の芽がモンスターや魔物を丸飲みする話は、ちゃんと伝わってないと思う。


 だけどこんな草原で、それを披露するわけにもいかないかな。えのき茸は透明だから普通は見えないだろうけど、見える人がいると面倒なことになる。



「みかんちゃん、どの剣にする?」


 時雨さんが、どこからか大きな袋を取り出した。中には、武器屋かと疑うほど、たくさんの剣が入っている。


「時雨さん、どうなってるの?」


「ん? みかんちゃんも、異空間収納を使うでしょ? 魔法袋に入れてから収納しておけば、引き渡しが便利じゃない? 魔法袋代を上乗せして売れるし」


(商人の発想だ……)


 ゲームのときには、アイテムボックスというページがあって、そこにいろいろなアイテムや装備品が記載されていた。あれと似たようなものを、この世界の住人は生まれながらにして持っているみたい。


 イチニーさんの巻き貝や、冒険者ギルドカードは、たぶん、その異空間収納に入っていると思う。


 ただ、取り出すには数秒かかってしまうから、危険な場所では、剣や杖は装備している人が多い。



「時雨さん、異空間収納に魔法袋を入れてることは賢いと思うんだけど、そっちじゃなくて、この剣の数にびっくりしたよ」


「剣の数? もっといっぱいあるよ? ゲームアバターが出入りする場所は、たくさん落ちてるのよ」


(なぜ、剣が落ちてる?)


「どういう原理なのかな? ゲームでは……あー、そういえば、モンスターを倒すとたまに何かがドロップしたっけ」


「みかんちゃんは、原理が気になるのかぁ。私もわからない。ただ、異世界人が関わると、いろいろな物が不思議な反応をするのよね。魔石も、私達が採ったものって、くっつかないでしょ?」


「ふぅん、不思議ね」


「そんなことより剣を選んで。私は、全然わからないんだ〜」


 時雨さんは、さらに別の魔法袋を引っ張り出して、中身を見せた。この袋も不思議だよね。中にたくさん入れても重くならないし、装備すれば、絶対に入らないほどの量も入っちゃう。


(魔術科で教えてくれるかな?)



「じゃあ、この剣にするよ。あの巨大ネズミは、斬れないから、突き刺すしかないもの」

 

 私は、細いレイピアのような剣を選んだ。こんな場所では火は使えないから、纏わせる属性は風。この剣は、風属性と相性がいいはず。


「へぇ、じゃあ、やっちゃってください、旦那〜」


「ちょ、誰が旦那だよ。性別を間違えてるよー」


 そう返すと、時雨さんはクスクスと笑う。今では時雨さんは、私を対等に扱ってくれる。ミッションのときは魔法ばかり使ってるから、剣術は見せたことないんだけどな。


(ちょっと緊張する)



 細い剣を右手に持ち、巨大ネズミに近寄って行くと、私に気づいた奴が、高くジャンプして飛びかかってきた。


 風をイメージすると、剣には強い風が巻き起こる。片手では無理すぎて、私は両手で剣を握った。


(つ、強すぎない?)


 巨大ネズミに向けて、纏わせた風を放つイメージをして突き出すと……。


 ドドドーン!


 飛びかかってきた巨大ネズミだけでなく、その背後にいた奴らまで、遠くに吹き飛んで行っちゃった。



「あははは、みかんちゃん、やりすぎ〜。オーバーキルだよ〜。横取りされないうちに獲物をとってくる」


「調整がわかんないよ。あっ、私も行くよ」


 巨大ネズミは、確かに完全にオーバーキル状態だった。素材になるはずの硬い皮も、剣が当たった場所はポッカリと穴があいている。


 時雨さんは手際良く魔法袋に、巨大ネズミのしかばねを収納していく。こういう作業は、私は苦手。ゲームなら、こんな死体は残らなかったのにな。



「じゃあ、お土産もできたことだし、行こうか、みかんちゃん」


「うん? どこに行くの? お土産?」


「グリーンロードの冒険者ギルドだよ。行きますって連絡したから、たぶん、りょうちゃんが待ってるよ」


(あっ、返事か)


 なぜか私の胸は、ドキンと大きく跳ねた。返事をしなきゃいけないプレッシャーかな。




 ◇◇◇



「買い取り、よろしくね〜」


 時雨さんと一緒に、冒険者ギルドへ行くと、室内にいた冒険者達の視線が私達に集まるのを感じた。時雨さんは最近では、宿屋ホーレスの娘としてだけでなく、冒険者としても有名みたい。


「シグレニさん、例の魔物かな? あと3体くらいは居るはずなんだよ。急がないと異世界人が来てしまう」


(新人ユーザーのための駆除だ)


 始まりの草原で、いきなりあの巨大ネズミと遭遇したら、ゲームを辞めちゃうよね。


「6体だと思うよ。全部入ってる」


「えっ? シグレニさんが、どうやって?」


「ミカンさんが、風の魔剣で、一撃で片付けてくれたよ」


(ちょ、たまたまだよ……)


「ええっ? このお嬢ちゃんが?」


「そうだよ。私達は地下室にいくから、計算しておいてね〜。帰りに受け取るよ」


 そういうと時雨さんは、私と腕を組み、上機嫌で地下へ続く階段へと向かった。



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