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50、ミカン、宿題を出される

「レオナード・トリッツさんのことを、皆さんはご存知なんですね。ユフィラルフ魔導学院の魔術科の学生さんです。今は、確か8歳かな?」


 りょうちゃん……神託者さんは、私達が知り合いだと思って話したんじゃないのかな。あっ、同じ学校だからかも。でも、みっちょんは知らないよね?


「トリッツ家の後継者だろ? シャーマンにはよく世話になるから、知ってるぜ。わりといい奴だからな」


(みっちょんも知ってるんだ)



「そうでしたか。じゃあ……」


 彼は、みっちょんの方を見て、一瞬ニヤッと笑った気がした。占い師のようなベールのせいで、よく見えないけど。


「皆さんには、彼らに関わる役をしてもらいましょう。新たに追加される攻略対象は3人いるのですが、メイン舞台は、王都にある剣術学校になる予定です。剣術学校としては下位ですが、シャーマン家を継ぐ方々が多く通う学校なんです」


(学園モノなのね)


 新たな物語ストーリーが10周年で配信されるなら、まだ3年ほど先のことだ。レオナードくんは、ユフィラルフ魔導学院を卒業して、次の学校に行ってる頃なのかな。


 エリザは、3つの学校の卒業証を揃えないと家を継ぐ権利を得られないと言っていた。たぶんこれは、ロード系の貴族だからだと思う。


 レオナードくんのトリッツ家は、ロード系ではないけど、王家に仕えている有力シャーマン家だ。だからやはり、複数の学校を卒業する必要があるのかもしれない。


(レオナードくんも大変ね)



 すると、時雨さんが口を開く。


「神託者さん、私は、その学校に通う予定はないです。みかんちゃんも、ないよね?」


 私は、軽く頷いておいた。私は、騎士貴族であるダークロード家の娘だから、剣術学校には通わなきゃいけない気もするけど、王都には行かないよね? たぶん。


「ふふっ、それは問題ありません。ベルメの海底ダンジョンは、多くの学校が実習に使っています。接点は描きやすいでしょう」


「ベルメの海底ダンジョンなら、私は得意だぜ」


 みっちょんが目を輝かせた。確かゲームで、ベルメの海底ダンジョンでのドロップアイテムが良いと教えてくれたのは、みっちょんだ。


 すると、りょうちゃん……神託者さんは、またニヤッと笑ったような気がする。ベールが邪魔なのよね。



「ミッチョさんの推しは、誰でしたっけ?」


「リゲル・ザッハの物語ストーリーは、アフターストーリーも買ったぜ!」


(みっちょん、課金してたの?)


「じゃあ、リゲル・ザッハが海賊団みたいなのを作ったら、加入しますか?」


「入る! 入る、ぜーったい入る!」


「では、ミッチョさんは、その線でお願いします。ベルメの海を守る海賊団みたいな感じで」


「おぉおっ! おまえ、いい奴だなっ!」


 みっちょんは、名前を言ってはいけないことは、守ってる。神託者さんを、おまえと呼ぶのはどうかと思うけど。でも、りょうちゃんだから、別にいいのかな。


 だけど、みっちょんがリゲル・ザッハ推しだとは知らなかったな。私には特別な推しキャラがいなかったから、そういう話をしなかったのもあるけど。



 りょうちゃん……神託者さんは、決まったことを書き込んでいるみたい。時雨さんによろしくと言って、水晶玉に手を置き、書記に徹している。


 進行役は、確かに時雨さんが適任かな。みっちょんは、時雨さんには変なこと言わないし。



「じゃあ、みかんちゃんは、今のまま、ユフィラルフ魔導学院に通いながら、って感じね。魔術科に進んだら、どこに住むの? ダークロード家からは遠いわよね」


(エリザはどうしてるのかな?)


 エリザは、寮にたまに遊びに来るけど、必ず誰かと一緒に来る。私がダークロード家の娘だと悟らせないための配慮だと思うけど。いつも他人がいるから、近況は聞けてない。


 だいぶ前に、時雨さんの宿屋ホーレスに部屋を借りるという話をしてたっけ。あれから時間が経ってる。最近のエリザは、時雨さんとは一緒に来ないのよね。



「時雨さんの所から通うのはどうかな?」


 私がそう尋ねると、時雨さんは難しい顔をした。宿屋ホーレスに、迷惑になるのかな?


「みかんちゃん、それって、あの草原を通ることになるよ? トラウマになってない? それに、これからはゲームアバターがウロウロするよ?」


(あー、そっか)


「まだ魔術科には進まないから、住む場所は、そのうち考えるよ」


「えっ? みかんちゃんは、もうフィールド実習も……」


「私ね、初等科に居座るために、フィールド実習は期限内に感想文の提出をしなかったの。初等科の滞在期限が切れるまでには、進学するつもりだけど」


「そっか。みかんちゃんが魔術科に進まないのは、学生食堂で魔術科の人達に嫌がらせを受けたからじゃないかって、レオナードさんが心配してたよ」


「へ? レオナードくんがあの階段の事件を知ってるの? あー、イチニーさんが話したのかな」


「みかんちゃん、レオナードさんはシャーマン家を継ぐ人だよ? そういえば、イチニーさんは最近見てないね」


 時雨さんの口から、イチニーさんの名前が出てきて、私はドキッとした。でも、彼が学校を辞めたことは言えない。


「ん? そう? えーっと、レオナードくんに不思議な力があるの?」


(声が裏返った……)


「ふふっ、みかんちゃんってば、レオナードくんと仲良しだもんねー」


「へ? そう、かな? シャーマンってよく知らないだけだよ?」


「ふぅん、そういうことにしておこっか。シャーマンは、いわゆる心霊術師だからね。呪術とかも得意だし。悪意のある人達に群がる邪気とかが見えるみたいだよ」


「ひぇ、幽霊が見えるの!?」


「そうみたいだよ。ふふっ」


 時雨さんは、完全に誤解してる。あっ、りょうちゃんが、こっちをジッと見てる……りょうちゃんも誤解してるよね。でも、これ以上何かを話すとバレそう。私、顔に出やすいタイプだからなぁ。


(こんな私が、役を演じられるのかな?)




「はい、皆さんの詳細の設定が完了しましたよ。今日は、ありがとうございました」


 突然、彼がそう言うと、部屋の扉が開いた。


(出て行けってことかな)


「ん? 結局、みかんは何の役になったんだ?」


「ミカンさんは、ユフィラルフ魔導学院の学生として、関わっていただきますよ。どう演じるかは、ミカンさんに、プレオープンまでに考えていただきます。宿題です」


「へ? 宿題?」


 私が聞き返すと、彼はニヤッと笑った気がした。ベールで顔がよく見えないんだけど。


(ほんと、ベールが邪魔すぎるー)



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