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49、わちゃわちゃな話し合い

「役割って何なんだよ?」


 みっちょんは、まだ切り替えができてない。あっ、彼女は、相手が誰でもこんな感じだっけ。


 私は時雨さんからの合図で、口を開く。


「神託者さん、シグレニさんは宿屋の娘だから、役割はそのままですよね」


 私が話し方を変えたことで、みっちょんはハッとしたみたい。気まずそうに咳払いをしてる。



「そうですね。宿屋ホーレスの看板娘が良いかな? 主人公であるユーザー達と積極的に関わってもらえたらいいと思います。シグレニさんは冒険者でもあるので、新人ユーザーへのアドバイスも可能ですね」


 彼の問いかけに、時雨さんは口を開く。


「ええ、その線が良さそうです。私の名前を出してもいいのかな?」


「はい、もちろんです。ただ、ユーザーからの反応は、感じ悪いものもあるかもしれませんが」


「しぐれ煮ですもんね。まぁ、仕方ない」


 神託者さん……りょうちゃんは、水晶玉に手を置き、何かの作業を始めた。今の役割を記録しているのかな。




「みっちょさんは、どんな役がいいかな?」


「私は、自分のアバターに会ったら、思いっきり妨害する役にする」


(いやいや、みっちょん……)


 時雨さんは、そんなみっちょんに、優しい笑みを向けている。たぶん、みっちょんはツッコミ待ちだと思う。いじられて騒ぎたい子なのよね。


 私はどちらもフレンドさんだったけど、時雨さんとみっちょんは、ゲームでは話したことないから、遠慮があるみたい。



「それなら、みっちょさんは悪役でもいいかもね。『フィールド&ハーツ』で悪役といえば、エリザしかいないもの。物語ストーリーの方向性を多様化するなら、他にも悪役がいる方が盛り上がるよ」


 確かにそうなれば、エリザを壊してまで極悪な悪役令嬢に仕立てる必要はなくなるのかも。


「私が悪役? やりたい放題やっていい役なのか?」


(みっちょん、喜んでる……)


「みっちょさん、演じるだけだよ? 本物の悪者にならないでよ?」


「本気で演じればいいんだよな?」


 みっちょんには、演じることは難しいかもしれない。裏表のない猪突猛進タイプだもんね。


 時雨さんが、私に助けを求めるような視線を向けている。確かに、みっちょんは海賊みたいな雰囲気だし、すぐに怒って無双するから、悪役向きだとも言える。


(でもなー)


 私が、りょうちゃんに視線を移すと、ほぼ同時に時雨さんもりょうちゃんの方を見ている。



「ん? えーっと、すみません。ちょっと記録をしていました。ミッチョさんの役割の話ですね?」


(聞いてなかったのかな)


「りょ……痛っ、ちょ、みかん、何なんだよ?」


「みっちょん、彼は神託者さんだよ?」


 みっちょんが、りょうちゃんの名前を言いそうになったから、私は彼女の手をつねった。やはり、みっちょんには、演じることは無理だと思う。



「神託者さん、みっちょさんを悪役にすればいいかもしれないと提案したんですけど、難しいみたいです。彼女は、本物の悪者になりそうです」


「あはは、確かにミッチョさんは、やり過ぎてしまうかもしれませんね」


 りょうちゃん……神託者さんは、みっちょんの性格を熟知してるから、つい笑ってしまったみたい。みっちょんが、すんごく睨んでるよ。


「ええ、でも悪役といえば、エリザしかいないですよね? もう一人いる方がバランスが良いと思ったんです。エリザは、自分が悪役令嬢にされていることを知らないんですよね?」


「確かにそうですね。先程もお話したように、現地人にはゲームのことは知らせていません。説明しても理解が得られないと予想しています。この世界には、ゲームアプリは存在しませんからね」


(確かに、説明は難しいよね)



「あっ、みかんちゃんが悪役令嬢でもいいかも。ダークロード家だから、自然じゃない?」


「へ? 私? 悪役令嬢ってことは、それなりに強くないと無理じゃない? フィールドでボロ負けするようでは威厳が……」


(いま、6歳児だからねー)


「確かにそうね。エリザは強すぎる気がするけど……。神託者さん、なぜ、エリザが悪役に選ばれたんですか?」


 時雨さんは、まるで探偵が推理するかのように、コツコツと靴音を鳴らして歩き回っている。そういえば、時雨さんのアバターも、フィールドで会ってチャットしてる間に、よく意味なく歩き回ってたっけ。



「エリザ・ダークロードが悪役令嬢に選ばれたのは、彼女の性格からだそうです。彼女は規律に厳しく、また相手がどんな立場でも怯まない。だからフィールドでも、ルール無視のゲームユーザーにはガツンと行くと判断されたようです」


「確かに、エリザはガツンと来たけど……。彼女は、当たり前の様々なことに、怒っていただけだと思います。私はよく遭遇したけど、実在する世界だとは思ってなかったから、レアアイテムを集めてた。だけど、この世界の住人から見れば、私達って、場所荒らしや泥棒よね」


(確かに、そうだよね)



「そもそも、なぜ、この世界にアバターが来るんだ? 迷惑に決まってるじゃねーか」


 みっちょんが指摘したことは、私も疑問だった。


「それは、今はお話できません。でも、すぐに気づかれると思いますよ。なぜその場所でフィールドイベをするのかを考えれば」


「チッ! また、僕は知りませ〜んかよ」


「みっちょさん、それを言うなら、僕は話せませ〜ん、じゃないかな?」


「おっふ、確かにそうだ。みかん! 時雨さんって、ちょー賢いぜ」


 驚きの表情を浮かべるみっちょん。時々、小学生かと疑いたくなる。そんな彼女に、時雨さんは優しい笑みを向けていた。




「えー、話を戻しましょうか。私も確かに、ミカンさんが悪役令嬢を演じられるのは良い案だと思います。ダークロード家は、ゲームユーザーのイメージでは既に悪役ですからね」


(ちょ、りょうちゃん!)


「でも、みかんは、こんなにチビだぜ?」


「10周年の頃には、みかんちゃんは9歳か10歳よね? チビっ子な悪役令嬢がいても面白いかもしれないよ。新たな攻略対象に、若い男の子を追加するそうだし」


(新たな攻略対象?)


「シグレニさん、よくご存知ですね。レオナード・トリッツさんが新攻略対象の一人に決まっていますよ」


 その名前を聞いて、私は思わず時雨さんの腕を掴んでいた。だけど、時雨さんはピンときてない。


「時雨さん! パーティを組んだレオナードくんだよ!」


「あら、へぇ、なかなか良い人選ね」


 レオナードくんには婚約者がいるのに? あっ、物語ストーリーは、関係ないか。


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