47、出演者登録と神託者
「わっ! びっくりした! 水晶玉から出てきたんですか」
この水晶玉を触ろうとしていたことを隠すかのように、私は神託者さんに早口で尋ねた。
「いえ、ただの転移魔法です。この水晶玉にそんな力はありませんよ。触ってみますか?」
(あっ、バレてる)
神託者さんは、占い師のようなローブを着て、顔もベールで隠しているけど、すっごくニヤニヤしてることはわかる。私は恥ずかしくて無言で首を横に振る。今、声を出すと、裏返ってしまいそう。
「ゲームの案内人じゃねーか」
みっちょんが、神託者さんに気づいて……めちゃくちゃ睨んでるよ。
「こんにちは、ミッチョさん、それにシグレニさんもお久しぶりですね」
この神託者さんは、みっちょんと時雨さんも担当したのね。神託者さんは顔が隠されているから、久しぶりと言われても返事に困るよ。
「みっちょさん、彼はこの世界では神託者だよ。いつかの夢以来ですね、神託者さん」
時雨さんの夢にも出てきたのか。そういえば、名前を授けた人の夢に一度だけ干渉する権利があると言っていた。私の場合は、2度も出てきたけど、あれはリゲル・ザッハからの連絡によるもので特例なのだと思う。
「神託者か何か知らねーけどさ。顔を隠してるのは、なぜなんだ? やましいことがあるからか」
(みっちょん……)
「ミッチョさん、神託者は素性を隠すことになっています。それは、ある勢力に潰されないためです」
「ある勢力って何だよ!?」
みっちょんが即座に反論したけど、神託者さんは少し口元を緩めただけだった。
神託者同士で争いがあるみたいだから、素性を隠すんだろうな。この仕事以外にも、きっと彼らには別の居場所がある。素性が知られると、その家族も含めて危険が及ぶのだと想像できる。
「まずは、仕事を済ませてしまいましょう。乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』の登場人物としての登録をということでしたが、間違いはありませんか」
「ええ、間違いないわ。私達3人まとめて、出演者側の登録に来ました」
時雨さんがそう言うと、みっちょんも素直に頷いている。私も、まだ迷いはあるけど、一応頷いた。
「わかりました。では、順に登録します。水晶の近くへお願いしますね。乙女ゲームのユーザー期間の長い方から登録しますので、えーっと、ミカンさんからお願いします」
「はい」
(緊張する〜)
私達は順に、水晶玉に手を置き、出演者の登録をした。私の後は、みっちょん、そして時雨さんの順だった。時雨さんは一度アンストしてるけど、二つのアカウントの経験値を引き継ぐと説明された。
「登録は完了しました。これで、皆さんに話せることが増えましたよ。今の状態は、ゲームユーザーのアバターと会話できるだけの状態です。さらに物語への参加を付け加えていきます。どのような役を演じられますか?」
(役を演じるの?)
もしかしてエリザも、悪役令嬢を演じていたのだろうか。そういえば、異世界交流の監視委員会っていうものに参加したっけ。
「役って、何なんだよ? ゲームに出てきたキャラクターは、皆、そういう役を演じているのか?」
みっちょんが即座に反応した。
「ミッチョさん、この世界で生まれ育った現地人は、何も演じていません。配信された物語は、神託者が描いた物語です。未来を見る能力のある神託者達の意見を反映して、乙女ゲームという世界観に合うように描かれた創作物です」
「物語は、攻略対象を選んで進めるやつのことか? でも、途中のミッションで、モンスターを何体倒せとかの条件がでてきただろ」
乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』では、数話読むごとに、ミッションがあった。そのミッションをクリアしないと次の話が読めない仕様になっている。
私はチマチマとフィールドに出てたけど、課金者は課金アイテムを使って、ミッションはすぐにクリアできるのよね。
「フィールド部分は、これから、この世界にアバターが来て行います。物語とフィールドでは、少しキャラクターに違和感がありましたよね?」
(そういえば、そうね)
物語では、クールな攻略対象も、フィールドで会うと優しかったりした。そういうツンデレ要素だと思ってたけど。
「よくわからねーけど、まぁ、いいや。それで私達は、役者のように演じるのか?」
「ええ、そうです。演じるという表現が的確なのかはわかりませんが、皆さんには普段の生活とは区別して、乙女ゲーム用に行動してもらいたいのです。登場人物の追加募集は、新たな物語を配信するための準備です。特徴がないと、キャラクターとして際立ちません」
(際立つキャラクター作り?)
たぶん10周年という節目に合わせて、ドカンと宣伝するのよね。サービス終了が近いのではないかと噂されるくらい、かなり過疎ってたもの。
とは言っても、配信直後はすっごいダウンロード数だったから、まだかなりのユーザーがいる。ログボ生活になっていた最近のイベントも、ちょっとやったくらいでは、しょぼいアイテムしかもらえないランキング50,000位にさえ入れなかった。
「それで、ゲームユーザーだった私達に、出演者側に回らせようと考えたのね。この世界に転生させたのは、それが目的なのかしら」
「シグレニさんは鋭いですね。当初の目的は、ゲームを通じてこの世界を気に入っている人達に来てもらいたかった、という単純なものです。ですが、悪役令嬢として描かれたエリザがより一層の悪役になるようにとの企てから、『悪役令嬢の妹』への襲撃が始まってしまいました。そこで、物語の方向性を多様化するべきだということになり……」
(えっ? 何それ)
物語を描く神託者からも、私は狙われてるんだ……。だから出演者側に回れという提案を、リゲル・ザッハはしてくれたのね。彼も神託者だから内情を知ってるんだ。
「あー、もう、難しい話はいらねーよ」
みっちょんが、神託者さんの話をぶった切った。すると、時雨さんが口を開く。
「ゲームでエリザを悪役令嬢として描いて、それで実際にはあまり悪役っぽくないから、妹を殺すということなの? その発想って狂ってない?」
「シグレニさん、残念ながらそう考える一部の神託者がいます。だから、私達はそれに対抗するために、新たな登場人物を募集したのです。『フィールド&ハーツ』をよく知る皆さんだからこそ、その役割をお願いしたいのです」
(何なの? これが神託者同士の争い?)




