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46、二人にスポンジの木のことを打ち明ける

 私達が奥の部屋に入ると、扉はすぐに閉められた。やはりその音には、ビクッとしてしまう。ここはゲームと繋がる場所だと言ってたから、すぐに閉めないといけないのかな。


(あっ、ファイがいる)


 部屋の中には、神託者さんの姿はなく、太った妖精のようなファイだけがいた。ファイは私達を見つけて、嬉しそうにふわふわと飛んでくる。


(この部屋の番人なのかな?)


 ファイは、乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』の案内やマイページなどにだけ出てくるキャラクターだ。物語ストーリーにもフィールドにも出てこない。



「わぁい、ファイだよ〜。えーっと、ミカンさんだよね。それから、えーっと、えーっと……」


 ファイは両手で頭を抱えて悩んでいるみたい。


(ふふっ、かわいい)


「おーい、ふとっちょ! なぜ、みかんしかわからないんだよ」


 みっちょんが、またキレてる。でも彼女自身は、神託者さんのことを覚えてないとか言ってたよね。


「ミカンさんは、ファイに話しかけてくれたから覚えてるんだよぉ〜。あれ? あれれ?」


 ファイは私の左腕を見て、首を傾げている。首を傾げた勢いで、そのままクルンと空中で一回転してしまうほどだ。



「ファイは、みかんちゃんに懐いてるのね。でも、左腕ばかり見てるかも」


「みかん、左腕に何かエサでも付けてるのか?」


(あー、話してなかったよね)


 時雨さんは、私の左腕にスポンジの木が刺さっていることを知ってると思うけど、みっちょんは絶対に知らない。そして、スポンジの木がベルメの海底ダンジョンで狩りをしたことは、イチニーさんしか知らない。


 彼は、信頼できる人以外には見せないようにと言っていた。逆にいえば、信頼できる人になら、明かしてもいいってことよね?



「時雨さん、みっちょん、私の左腕にはスポンジの木の枝が刺さってるの。私がこの世界に転生してきたときには刺さってた。この身体の前の持ち主は、崖から突き落とされて亡くなったんだけど、そのとき、スポンジの木の群生地に落ちたみたい」


 ここまで話すと、時雨さんは少しだけ驚いたみたいだったけど、静かに頷いてくれた。一方、みっちょんは、ポカンと口を開けたまま固まっている。


 私は話を続ける。


「このスポンジの木のおかげで、私は生き延びられたんだと思う。さっき、みっちょんが待ってくれていた学生食堂で、以前に絡まれたことがあるんだけど、その時からスポンジの木は、人の悪意に反応してズキンと痛むようになったの」


「ええっ? みかんちゃん、大丈夫なの?」


 時雨さんはすぐに、何かの魔道具っぽいアイテムを取り出した。たぶん、私の左腕を調べてくれているのね。一方で、みっちょんは固まったままだ。


「うん、ズキンと痛むのは悪意を向けられたときだけだから。でも、そのおかげで、私は悪意を向ける人に近づかないようにすることができるよ」


「まるで悪意探知機ね」


「うん、転生してきて1年間はそれだけだったんだけどね。ベルメの海底ダンジョンで、新たなことが起こったの」


「何? あっ、モンスター探知機に進化した?」


「時雨さん、惜しい。もうちょっと驚くことかな?」


「じゃあ、エリア探知機?」


 時雨さんは、探知機という発想から離れない。


「スポンジの木の枝から新芽が出てるんだけど、ユフィラルフ魔導学院の学長さんが封じてくれたの。柔らかい新芽を引っかけてしまうと、大出血するからって」


「学長さんの判断は正しいね。スポンジの木の枝は、人に刺さるとすぐに体内のいろいろな部分と結合するって聞いたよ。そのうち人に吸収されて消えていくみたいだけど、子供の場合は魔力が低いから、成長するまでは封印が必須だよ」


 やはり時雨さんって、情報通だな。みっちょんは、ずっと固まったまま、目をパチクリさせてる。



「初めてユフィラルフの町に行ったときに、学長さんが封じてくれたんだけど、3本くらいが脱走してるの」


「新芽が3本?」


「そう、えのき茸みたいなのが3本だよ。透明だから、他の人には見えないかもしれない。自由に伸び縮みするし、ベルメの海底ダンジョンでは、パクッと丸飲みしてた」


「確かに、スポンジの木の新芽は、白くてえのき茸みたいだよね。でも、透明になるとか伸び縮みするなんて、初耳だよ」


「スポンジの木の芽は、生き延びるために、その環境に適応しようとするみたい。私がいつも狙われてるから、不思議な変化をしたのかもね。イチニーさんも、知らない進化だって言ってた」


(あっ、イチニーさんのこと、言っちゃった)



 すると、みっちょんは、やっと話せるようになったみたい。


「みかん、そのイチニーっていうのは、ベルメの海底ダンジョンで一緒にいた奴だな? プラチナカードだったから、みかんを任せたけどさ」


「うん、そうだよ。イチニーさんは同級生だから、一緒に実習に参加してて、転移事故で海に落とされたんだ」


「そういえば、名前を授かってないんだったな。名前をもらうために学校に入ったか。今も親しいのか?」


(親しい……かな?)


「うん? あの後は会ってないよ。異世界人との交流が始まったことで、何か仕事が入ったみたい」


 私がそう話すと、みっちょんは首を傾げた。でも、イチニーさんが学校をやめて王都に行く話は、誰にも言わないと約束した。だから、二人のことは信頼してるけど、言えない。



 すると、時雨さんが口を開く。


「みっちょさん、イチニーさんは確かAランク冒険者だったと思うよ。王都では今、上位冒険者を集めてるみたい」


「ええっ? Aランク冒険者!? 今の最高ランクはBランクじゃないのか?」


「特定の有能な冒険者には、Aランクまで開放されてるよ。宿のお客さんにも、2〜3人のAランク冒険者がいるからね」


(イチニーさんってそんなに凄いんだ)


「さすが宿屋ホーレスだな」


「グリーンロードで一番大きな宿屋だからね。ゲームでも登場するでしょ?」


 みっちょんは時雨さんと、宿屋の話を始めてしまった。まだ、スポンジの木の狩りの話は終わってないんだけどな。丸飲みの意味は、きっと時雨さんもわかってない。




 私は、部屋の中を少し見て回った。


(やっぱり不思議)


 ガチャの水晶玉は、不思議な魅力を放っている。確か、これがゲーム世界と繋がるアイテムよね?


 触ってみたい誘惑に負けて、私がそーっと手を伸ばしたとき……。



「お待たせしましたね、皆さん。おや? ミカンさんは、私を出迎えてくれたのかな?」


 水晶玉がまたたき、私の目の前に、神託者さんが現れた。



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