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44、『フィールド&ハーツ』のユーザーミーティング

「みかんが、悪役令嬢エリザ・ダークロードの妹!?」


 ギルドマスターが今の私の素性を明かして、一番驚いたのは、みっちょんだった。大きく目を見開いた彼女は何か言おうとしているけど、その後の言葉が出てこないみたい。


 もちろん、集まっていた十数人もザワザワしてる。私に悪意を向けていた人達からは、その反応が消えた。驚きで、羨ましさが吹き飛んだのかな。



「みっちょん、黙っててごめん。次に会ったら話そうと思ってたんだけど」


 私が小声で囁いたら、みっちょんは、バン! とテーブルを叩いて立ち上がった。


「いやいやいや、ベルメの海底ダンジョンでする話じゃねーだろ。宿屋の娘がランカーの時雨さんだったというだけでも、私の頭は限界だったのに、みかんがエリザの妹? はぁ? どういうことだよ。みかんはすぐに死ぬのかよ!?」


(あー、そっちか)


 私に悪意を向けていた人達の悪意が消えたのも、そういうことなのかな。貴族が羨ましくても、エリザの妹にはなりたくないよね。



「みっちょさん、落ち着いてくれ。みかんさんは、これまで一年以上もの間、命を狙われ続けたが生き延びてきた。それどころか、身を守る術を積極的に模索する強い人だ」


 ギルドマスターは、まるで私が転生してきてからのことを見ていたかのように話した。あー、そっか。ユフィラルフ魔導学院への入学をねじ込んでくれたのは、彼だっけ。


「でも、だからって、酷すぎるだろ。だいたい、なぜエリザの妹は殺されるんだ? どう考えても家督争いじゃねーだろ」


(みっちょん、落ち着いて)


「今日は、その話のために集まってもらった。みっちょさん、とりあえず座ってくれ」


 みっちょんは、ドカッと乱暴に座った。ほんと、すぐにキレるんだよね。だけどそのうち我にかえるし、怒ってもすぐに忘れるタイプなんだけど。



 ギルドマスターは、皆の視線を受け、軽く咳払いしてから口を開く。


「この世界には、時空を超える能力を持つ者がいる」


 ギルドマスターは、当たり前のことから話し始め、皆の反応を見ているようだ。時空を超えることができなければ、そもそも私の前世と繋がりを持てるわけがない。しかも時差もあるもんね。


(でも、驚いてる人もいる)


「さっきのみっちょさんからの問いだが、エリザの妹が執拗に狙われるのは、エリザを潰すためだ。だが、それを許してはいけない」


 皆が頷いてくれるけど、たぶん、ギルドマスターが言っていることとは認識がズレていると思う。私が可哀想とかいう問題ではない。何度も転生者がこの身体に入った理由は、『エリザの妹』が死ぬと困るからだ。私のことを案じているわけじゃない。


「当たり前だ。みかんは、私達と同じく、この世界に招かれたゲームユーザーなんだからな」


 みっちょんがそう言うと、多くの人が頷いている。だけど、それは違うよね。ギルドマスターは、私がいるから言いにくそうだな。


(私から話そうか)



「ギルドマスター、エリザが闇堕ちしてしまうからですね? だからこの身体は殺されても、そのたびに新たな転生者の魂が入ってる」


 私がそう話すと、ちょっとざわついた。


「みかんさん、助かる。さすがに本人がいる場所で、その話は切り出しにくかった」


「でしょうね。後継争いか何かは知りませんが、エリザを潰すことが目的なのでしょう。エリザが闇堕ちすると極悪な悪役令嬢になる未来が見えた、ということですね」


「単なる令嬢の闇落ちではすまないのだ。ダークロード家は、そもそも剣の能力が高い。それに、エリザの母親は王家の血を濃く受け継いでいた。だから魔力も高い。守る者を失ったエリザは、この世界への復讐を考えるようになる」


「えっ? 王家の血筋……」


(初耳だ)


 そういえばエリザが、私の魔力は測定しなくてもユフィラルフ魔導学院に入学するには問題ないと言っていた。エリザと私だけが同じ母親だから。


「俺からは、詳細の話はできない。ただ、エリザが壊れてしまうことは、この世界の崩壊に繋がる。恐ろしい未来が待っているのだ」


(時空を超えて、未来を見てきたのか)



「ギルドマスター、でも私が殺されたら、新たな魂がこの身体に入ればいいだけじゃないですか」


「ちょ、みかんちゃん! 何を言ってるの! 諦めちゃダメ」


 ずっと黙っていた時雨さんが口を開いた。みっちょんも、時雨さんに激しく同意している。だけど、他のユーザー達の反応は薄い。所詮は人ごとよね。


「みかんさん、それは違う。もう異世界との交流は始まった。だから、その身体に新たな魂を入れることはできない」


 ギルドマスターがそう言うと、他のユーザー達の表情が変わってきた。やっと、真面目に考える気になったみたい。


「じゃあ、私にかかってるってこと?」


「あぁ、貴女が消えるとエリザは、この世界を崩壊へ誘う厄災級の存在になる。だから、彼女が壊れないようにしないといけないんだ。みかんさんの代わりになる者はいない」


 ギルドマスターの言葉に、他のユーザー達は顔をひきつらせていた。私も、責任の重さに押し潰されそうになる。




「ギルマス、重大発表って、エリザのことなのか?」


 みっちょんがそう尋ねると、ギルドマスターは、ニッと笑みを浮かべた。


「エリザのこともあるが、メインは出演者募集だ。その連絡が王都から届いたから、今日、ユーザーミーティングをすることになったわけだ」


(出演者を募集するのね)


 私はまた、イチニーさんの顔が浮かんできて辛くなってきた。あの提案をしたのは、リゲル・ザッハなのに。


「ギルマス、それって、乙女ゲームに出演するということか?」


「あぁ、そうだ。ゲームを理解している人に多く手伝ってもらいたい。そしてみかんさん、貴女には是非、出演者側に回ってもらいたい。そうすれば、襲撃は半減するはずだ」


(半減? 半分だけ?)



「確かに、みかんちゃんが出演するのは良いね。私も、宿屋の娘として出演するよ。みっちょさんも出演するよね?」


 時雨さんは、なぜか、みっちょんを勧誘してる。


「そうだな。もともと自分のアバターを見つけたら、思いっきり妨害するつもりだったから、出演者でいいぜ」


 二人は同時に私を見た。


「みかんも出演するよな?」


「みかんちゃんは、当然、出演者よね?」


(えーっと……)



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