表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/196

43、時雨さんの誘い

 それからしばらくは、図書館に通うだけの毎日を過ごした。私は予定通り、ベルメの実習の感想文は提出せず、初等科に居座っている。


 ほぼ毎日のように相変わらず、悪意を向ける冒険者っぽい人達が、私を待ち伏せしていた。でも、スポンジの木のおかげで悪意がわかるから、問題ない。偶然を装ってくるという状況は、今までと変わりはなかった。


(でも、エリザが卒業するまでよね)



 ◇◇◇



「ミカンさん、おはようございます。少しお時間ありますか?」


 今朝も図書館で本を読んでいると、時雨しぐれさんが声をかけてきた。学校の中だと、彼女は私を貴族の令嬢として扱う。


 時雨さんは大きな宿屋の娘だから、平民ではないみたい。この世界では、有力商人は地位が高いと聞く。だから学校の中では、変な偏見もなくて過ごしやすいそうだ。


「はい、大丈夫ですよ。授業はないので、図書館にこもってるだけだから」


「学生食堂上の冒険者ギルド出張所に、部屋を借りています。今からでも大丈夫でしょうか」


(うん? 冒険者ギルド?)


 イチニーさんが、学生食堂からの階段を塞いだ人達を追い払ってくれたことを思い出して、私はまた胸がキューっと痛くなる。


「……大丈夫ですよ」


 私は、感情を隠したつもりだったけど、時雨さんには私の変化を気づかれたみたい。


「ミカンさん、あの階段は心配いりません。護衛してくれる人が、食堂で待ってくれているはずです」


(あー、時雨さんは勘違いしてる)


 私は、バレなくてホッとしたためか、自然に笑みを浮かべたみたい。時雨さんはニッと笑って、図書館の出入り口へと歩いて行く。そして、一人で来いと手で合図をしてきた。


(乙女ゲームの話かな)



「サラ、悪いけど、私が出した本を片付けておいて。その後は、サラは休憩でいいよ」


 図書館の休憩スペースにいるサラを見つけ、私はそう声をかけた。


「えっ? ミカン様ぁ〜」


 サラは不安そうに瞳を揺らしている。時雨さんの話は、聞こえてなかったみたい。


(ちょ、泣かないでよ?)


「シグレニさんに誘われたから、ちょっとお茶してくるよ」


 私がそう言うと、サラはホッと胸をなでおろした。サラの時雨さんへの信頼度は高いよね。


「わかりました〜。サラもご一緒したいところですが、ミカン様がお友達と過ごされる時間は、とっても大切ですぅ。ミカン様は、こうやって少しずつ、大人の階段をのぼっていくのですね」


「サラは大げさね。じゃあ、よろしくね」


「はいっ! お部屋でおかえりをお待ちしていますぅ」


 サラは、私が座っていた席へと、バタバタと走っていった。図書館では、静かにね。



 ◇◇◇



「シグレニさんの友達って……」


(あっ! みっちょん)


 学生食堂の冒険者ギルドへの階段には、みっちょんが立っていた。10代後半に見えるクール系美少女だけど、腰に剣を装備しているためか、私を見つけた冒険者も寄ってこない。


 時雨さんと一緒に現れた私を見て、彼女は目を見開いている。そういえば海底ダンジョンでは、今の私のことは、ほとんど話さなかったもんね。


「初等科のミカンさんです。彼女は、ウチの宿の常連さんで冒険者のミッチョさんです」


 時雨さんが短く紹介をしてくれた。学生食堂には、たくさんの人の目がある。


「ミッチョさん、よろしくお願いしますね」


「ぷっ、あ、失礼。ミカンさん、よろしく」


(みっちょん、笑うな)



 みっちょんが階段をあがっていくと、上から降りてきた人が真っ赤な顔をして、慌てて避けている。


(ちょっと胸元が、ね)


 だけど、みっちょんはそんな冒険者を……睨んでるよ。


 今日も彼女は海賊っぽいけど、露出多めのセクシーすぎる服を着ている。ゲームでの彼女のアバターも、どれもこんな感じだったな。



 2階の冒険者ギルドへ入ると、時雨さんを見つけた職員さんが駆け寄ってきた。初等科の制服を着た私にも会釈をしてくれたけど、見たことのない職員さんだ。


「シグレニさん、奥の応接室で、皆さんお待ちですよ」


「あっ、遅くなったかな。すみません」


(他にもいるの?)


 職員さんによって、私達は事務所の奥へと案内された。



 ◇◇◇



 コンコン!


「宿屋ホーレスのお嬢さんが来られました」


 職員さんがそう言って、しばらく待つと扉が開かれた。


(えっ? なぜ?)


 扉を開けたのは、グリーンロードの冒険者ギルドマスターだった。名前を授かった日以来だけど、時雨さんが借りたという部屋に、なぜこんな偉い人がいるの? 彼は、確か、貴族だったはず。時雨さんに、彼を呼びつけることができるとは思えない。


「宿屋の嬢ちゃん、二人も連れてきてくれたか。ま、話は入ってからだ」


 私達が応接室に入ると、十数人の見知らぬ人がいた。年齢的には10代前半から20歳前後で、ほとんどが女の子だ。


 これって、時雨さんが集めたんじゃなくて、ギルドマスターが集めたのね。



「まぁ、そっちに座ってくれ」


 職員さんが新たに椅子を増やしてくれた。私達は予定外だったみたい。



「ギルドマスター、これは何の集まりだ? 宿屋のシグレニから、重大発表があると聞いたから来たんだぜ?」


(みっちょん、落ち着いて)


 確かに私も何も聞いてないし、ちょっと困惑している。みっちょんは、すぐにイラつくのよね。


「みっちょさん、これから話しますよ。みかんさんも、座ってください」


(えっ? 私達のユーザー名!?)


 みっちょんも、ギルドマスターから乙女ゲームでのユーザー名を呼ばれて、驚いているみたい。素直に指示に従った。時雨さんは、ギルドマスターの近くに立っている。



「さて、何回目の開催かわからないが、『フィールド&ハーツ』のユーザーミーティングを始める。初参加の露出狂はプラチナカードのみっちょ、チビはプラチナカードだったみかんだ」


(ちょ……なんか失礼ね)


 すると、座っていた十数人が次々と、同じような自己紹介をしていく。みんな、乙女ゲームのユーザーなのね。だけど、私が知っている名前はなかった。


 時雨さんが名前の由来も含めた自己紹介をしたときには、みっちょんはすっごく驚いた顔をしてた。時雨さんって、有名人だったもんね。



「みかんが参加するということは、大きな転機になる。皆も予想はついているだろうが、このユフィラルフ魔導学院の制服を着ている6歳児は、当然、貴族だ」


 ギルドマスターがそう話し始めると、スポンジの木が反応した。羨ましいのか、私に悪意を向ける人達がいる。


「おい、そこの睨んでる奴らも、よく聞け。このチビは、悪役令嬢エリザ・ダークロードの妹だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ