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42、再び、夢に

「ミカン様、今日はお疲れでしょ……う? ひゃっ! 床で寝ないでください〜。わっわっ」


 寮の自室に戻ると、遠くでサラが何か言っていたけど、私はもう立っていられないほど眠かった。身体の疲れというよりは、心が疲れたのかな。


 私には、イチニーさんがくれた巻き貝がある。だから、彼がユフィラルフの町を離れていても、連絡が取れるはず。そうだとわかっていても、たぶん私には使えない。数回使うと砕けてしまうなら、今日の記念に、ずっと持っておきたい。


 大げさなんだけど、この巻き貝が、イチニーさんとの縁の象徴のような気がしていた。使って砕けてしまうと、もう一生会えないような気がする。



 ◇◇◇



『ミカンさん、他の神託者から連絡をもらいました』


(ん? 誰?)


 私は、寮に戻って……眠すぎて……えーっと? 


『私は、貴女を担当した神託者です。再び、貴女の夢にお邪魔していますよ』


(あっ、夢の中?)


 そういえば、リゲル・ザッハが、私の担当者に伝えておくと言ってたよね。イチニーさんのことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。


『神託者は、その素性は隠されています。だから個人名は出せませんが、彼から貴女が出演者側に回りたいと聞きました』


(まだ決めたわけじゃないのですが)


 そういえば神託者さんは、自分を捜して欲しいと言ってたっけ。でも、こんな話し方だったかな? 名前を授かったときにも直接話したけど、あまり覚えてない。



『ミカンさん、確かに彼の言う通り、出演者側に回れば、今のように襲撃されることも減るでしょう』


(そう、なんですね。でも、出演者側って……)


物語ストーリーは、ミカンさんがご存知の部分の少し先まで、配信は終わっています。ですが、フィールドにゲームユーザーが来るイベントは、これからです。プレオープンまでなら、出演者側の登録は容易です』


(あっ、フィールドイベ?)


 確か、フィールドイベは、いろいろな時代や場所で行われた。だから登場人物の年齢も、イベごとにバラバラだったっけ。


『ええ、そうです。そこに参加してゲームユーザーと関わることで、貴女はゲーム世界の登場人物として認識されますから。ただ、時差があるので、ミカンさんがご存知のイベントでは派手に動けませんが』


(過去を変えちゃうからですよね)


『過去は変えられないのです。派手に動くとゲーム世界の妨げになるので、ゲームの案内人によって排除されてしまいます』


(ゲームの案内人って、神託者さんですよね?)


『はい、そうです。私以外にも神託者は大勢います。この世界にとって、害となる神託者もいる。あっ、今のは忘れてください』


 神託者さんの声が少し慌てたみたい。そっか、神託者同士の争いもあるのかもしれないな。


(他言はしませんが、忘れないかもです)


『ふふっ、貴女はそういう人でしたね。あっ、そろそろ時間です。手続きは、あの部屋で行います』


(あの部屋って? あっ、ファイがいる名前を授かった部屋ですか?)


『ええ、そうです。待ってますよ、みかんちゃん。貴女の覚悟が決まったら、あの地下室に来て……』


(また、みかんちゃんって。神託者さんは一体……)


 そう問いかけたつもりだったけど、もう神託者さんの声は聞こえなかった。




 ◇◇◇



「ミカン様、おはようございます」


(あっ、朝?)


 私は寝室で寝た記憶はない。でも寝衣を着ているし、ここは私のベッドの上だ。私に声をかけてきたのは、サラではない方の侍女だった。


「おはよう。私、記憶がないんだけど」


「昨日は、お疲れだったのでしょう。部屋に戻られてすぐに眠ってしまったみたいですよ。サラさんが大騒ぎでした」


「そっか。えーっと、サラは?」


「はい、今、学院に抗議に行ってますよ。実習に参加した他の寮生の付き添いの人達も一緒に」


(サバイバルだったもんね)


「転移魔法が下手な先生が混ざっていたからだよね」


「ミカン様、これは仕組まれた事件のようですよ。とある貴族のお嬢様が行方不明です。そのお嬢様を亡き者にするために、講師の一人が買収されていたようです」


「えっ……そっか。私以外にも、狙われている女の子がいるんだね」


「だからといって、参加者全員を危険な目に遭わせるなんて、管理者として失格ですよね」


 いつもは冷静な、というか無関心な侍女なのに、かなりご立腹ね。でも、救助用の冒険者達が事前に準備されていたから、これは学院の方針だったんじゃないかな?



 昨日のことを考えるとイチニーさんの顔が浮かんできて、私の胸は、キューっと痛くなってきた。


 巻き貝をイメージすると、私の右手に巻き貝が現れた。それをそっと握ると、イチニーさんのいろいろな声が思い出される。



「ミカン様、それって、連絡用のくっつき貝ですか?」


(あっ、見つかった)


「何でもないよ。自分で着替えるから、温かいスープをお願い」


「はい、かしこまりました」


 この巻き貝を恋人同士で持つのが流行っていると、イチニーさんが言ってたっけ。その理由が、今ならよくわかる。この巻き貝がイチニーさんと繋がってると思うだけで、穏やかな気持ちになれるもの。


 巻き貝から意識を外すと手の上からスッと消えた。どこに収納されてるんだろう? 学校の勉強が進めば、この仕組みもわかるかな。


 でも、初等科で学べる科目の主要なものは、すべて授業を受けたし、修了試験も日程の許す範囲で受けた。ということは、あと初等科で出来ることは、図書館にこもるだけね。




「あっ、ミカン様〜! 実習参加者は、課題の提出ができなくても、感想文だけで修了証がもらえることになりましたよー」


 朝食を食べていると、勝ち誇った笑みを浮かべたサラが、バタバタと戻ってきた。


「サラ、おはよう」


「あっ、わっ、おはようございます、ミカン様」


(ふふっ、慌ててる)


「サラは、私が初等科を修了したらどうするの?」


「えっ? えーっと、ダークロード家からでは遠いので、ミカン様が近くに部屋を借りるなら、サラもちゃんとお世話させていただきますよ」


「授業の付き添いがなくなるから、サラは暇になるかな?」


「サラは、ミカン様の授業中は、図書館で待ってますから大丈夫ですよ。えー? まさか、サラはクビじゃないですよね?」


 あわあわと慌てるサラ。


「私、初等科に居座るよ。まだ魔術科に進む気にはなれないの。それでもいい?」


「は、はい! もちろんですぅ〜」


 サラだけでなく他の使用人達も、なぜかホッとしている。ここの生活に慣れてきたからかな。



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