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41、イチニーさんとの別れ

「恋人同士で?」


 そう聞き返した私の声は、裏声のような変な声になってしまった。すると、私が嫌がっていると感じたのか、イチニーさんは、スッと笑みを消した。


「ミカンさん、すみません。ちょっと調子に乗ってしまいました。貴女との思い出ができて、舞い上がってしまったようです。数々の無礼をお許しください」


(全然、無礼じゃないよ)


 あっ、そっか。私はダークロード家の娘で、イチニーさんは平民だから……。


「イチニーさん、それは勘違いですよ。私はとても嬉しいです」


 私がそう答えると、彼はホッと息を吐いた。だけど、さっきまでのような浮ついた雰囲気はない。


(なんか、嫌な予感がする)



「ミカンさんは優しいですね。今日、ご一緒できてよかったです」


「なんだか、イチニーさん、変ですよ? まるでお別れのような……」


 私がそう言いかけたとき、彼は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。もしかして、本当にお別れなの?


「まだ、誰にも話してないのですが、私は、今日の実習が最後になります。課題を提出し、初等科の修了証をもらったら、ユフィラルフの町を出るつもりです」


「えっ? どうして? あっ、そういえば、この半年間も、ほとんど見かけなかったけど……」


「ええ、異世界人との交流の関係で、私にはやるべき仕事ができてしまいました。本当は、初等科の修了証も諦めるつもりだったんですが、どうしてもミカンさんのことが気になって、無理を言って、数日の休みをもらいました」


(そんな……)


「イチニーさんは、どこに行ってしまうの?」


「おそらく、王都にいることが多くなると思いますが、まだやるべき仕事の全体像がよくわかりません」


「いつ、戻ってくるの?」


 そう尋ねると、彼は、やはり困ったような笑みを浮かべた。当たり前か。わかるわけないよね。未知の異世界人との交流……つまり、ゲームの世界と交差するんだから。



 私は、頭から血の気が引いていくのを感じた。


(どうしよう……)


 私は自分で思っていた以上に、彼のことが好きみたい。でも、この気持ちは言えない。迷惑をかけてしまう。



「あぁ、でも案外、冬には平気な顔をして戻ってくるかもしれませんよ? ミカンさん、そんなに悲しそうな顔をしないでください」


「えっ? そうなの?」


 そう問い返したけど、彼は曖昧な笑みを浮かべただけだった。


(もう戻ってこないんだ……)


「私は、ミカンさんとの繋がりを手元に残しておきたかった。だから、この場所に誘導しました。辛い階段をのぼらせてすみません。でも、ここのくっつき貝は魔力が高いので、遠距離でも通話ができます。何かあったら連絡をください」


「でも、何回か使えば砕けてしまうのでしょう?」


「そのときは、私が代わりのくっつき貝を持って参りますよ」


 これって、まさかの死亡フラグじゃないよね? イチニーさんは、Aランク冒険者だから、危険な仕事に行くのかもしれない。



 そんなことを考えていると、イチニーさんが、私をキュッと抱きしめてきた。私も、そーっと彼の背に手を回す。


「ミカンさん、ありがとう……私は……」


(それはダメ!)


「ちょ、イチニーさん、そんな死亡フラグみたいなこと、言わないでください!」


「ん? 何ですか? しぼうなんとかって」


 彼は、私から離れた。そしてキョトンと首を傾げている。


「何でもないです。気にしないで」


「そうですか? そんなに心配そうな顔で言われると、離れがたくなってしまいますねぇ。私のことなら大丈夫です。それより、ミカンさんのことの方が心配です」


(あー、うん……)


「私は、転生者だから大丈夫ですよ」


 と言っても、何の説得力もない。イチニーさんは、何かを考え込んでしまった。



「ミカンさん、今回の課題は提出しないでください。貴女が初等科の寮にいる間は、大きく状況は変わらないと思います。初等科の滞在期限ギリギリまで粘って、その間に魔術科でも学ぶ基本的な座学を学んでしまえば、時間は無駄になりませんよ」


「えっ? 初等科で、魔術科の座学が学べるの?」


「初等科後期で追加された座学は、魔術科1年生では基礎なんちゃらという形で、近いレベルのものを学ぶようです」


「そう……」


(もう、一生会えないのかな……)



「でも、ミカンさんがまだ初等科にいるうちに、私は戻ってくるかもしれませんよ? そんな顔をしないでください。他の人達に、バレてしまいます」


「レオナードくんには話さないの?」


「ええ、内緒にしておいてください。私がサボって冒険者をしてるということで」


「わかったわ。誰にも言わない」


 私がそう答えると、彼はふわっとした笑みを浮かべた。


(この笑顔、大好き)



「そろそろ、海岸へ行きましょうか。皆さん、心配してますよ。あっ、スポンジの木の狩りのことは、信頼できる人にしか見せちゃダメですからね。特に転生者には気をつけて」


「転生者は、ゲームユーザーで……」


「転生者の大半は、ミカンさんとは別の方法で、この世界に来ています。貴女を襲わせている者達の中には、その転生者もいると思います。気をつけてください」


「ひぇっ、わ、わかったよ」




 ◇◇◇



「あーん! ミカン様ぁ〜、ご無事で良かったですぅ。イチニーさん、本当にありがとうございます!」


 洞窟から海岸へ出ると、私達を見つけたサラが駆け寄ってきた。そして、イチニーさんにぺこぺこと頭を下げている。


(すごく心配させたのね)


「サラ達も、大丈夫だった?」


「サラは、海に落とされたんですよぉ。シグレニさんが、すぐに浮遊具を出してくれたから助かりました〜。でも、ミカン様が見つからないから、知り合いの冒険者の方々を捜索に出されたんですよ」


(ん? 話が混ざってる?)


「シグレニさんが、冒険者に依頼したの?」


「はい〜。宿の常連の冒険者さん達ですぅ。他にも、まだ見つかってない方がいらっしゃるようです」


(そうなんだ……)


「レオナードくんは、大丈夫?」


「レオナード様なら、あちらで休まれていますよ〜。さっき、海の魔物が湧いてきて大変だったんです」


(誰かがストーカー貝を踏んだのね)



「じゃあ、私は、レオナード坊ちゃんのご機嫌をうかがいに行ってきますね」


 イチニーさんは、いつものようにチャラいウインクをして、私達から離れて行った。



 その後、先生達の転移魔法でユフィラルフ魔導学院に戻ったけど、もう、イチニーさんの姿は見つけられなかった。



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