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36、イチニーからの告白と、隠し通路

「おい、ミッチョ! そのフレンドとかという子が大事かもしれないけどさ、例の奴が来たみたいだぜ」


 今まで話してなかった冒険者が、みっちょんに声をかけた。私達がずっと喋ってたからか、すっごく機嫌が悪そう。


「うん? どうする? 二手に分かれる?」


「おまえなー、4人でも厳しいって言ってたのは誰だ?」


 冒険者達は、もう一つの密命のターゲットを見つけたみたい。だけど、学生を海岸に連れていくのも、仕事なんだよね?



「私達のことなら大丈夫ですよ。お気になさらず」


 イチニーさんは、やんわり断ると、私の手を引いて歩き始める。


「ちょっと待ちな! あんた、冒険者ランクは?」


(みっちょん、顔が怖いよ)


 だけどイチニーさんは、睨まれても平気な顔をしている。


「私は、高位ランクですよ」


 そう言って、彼はカードをひらひらさせて見せた。色だけを見せているみたい。


「プラチナカードか。それならいい。みかん、私はグリーンロードの宿屋ホーレスに泊まってる。何かあったら、宿屋の娘シグレニに伝言してくれ。あの娘も、ゲームユーザーのはずだよ」


(時雨さんとはフレンドじゃなかったのね)


 時雨さんもフィールド実習に来ていることを話そうかと思ったけど、やめた。彼らがターゲットを見失うとマズイ。


「うん、わかったよ」


 私は、みっちょんに手を振り、イチニーさんと奥へと進んでいった。




 ◇◇◇



「ミカンさん、足元に気をつけてくださいね」


「はい、あの、さっきの人なんですけど……」


 イチニーさんは、私が転生者だと気づいていたと言った。乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』のフレンドさんと会って、話が弾んでしまったけど、イチニーさんは驚いている感じはしなかった。


 だけど、みっちょんに、りょうちゃんの話をされたときは、なんだか少し困っていたというか……。


(まさか、りょうちゃんじゃないよね?)



「大丈夫ですよ、ミカンさん。前世の記憶を持つ転生者は、この世界では少なくありません。これから来る異世界人の中に、ミカンさんやさっきの女性もいるのですね」


「あー、はい。イチニーさんは一体……」


「ふふっ、私は転生者ではありませんよ。この世界で生まれた者です。彼女が言っていたように、この世界の構造は理解していますから、安心してください」


(じゃあ、りょうちゃんじゃないか)


 そもそも名前を授かってないんだもんね。りょうちゃんのわけがない。


「イチニーさんは異世界人が、その、ゲームだということは知ってるのですか?」


 私がそう尋ねると、彼は一瞬だけ真顔になった。


(怒ったのかな)


「ゲームというのは、遊びという意味でしょうか」


「えっと、まぁ、はい。現実とは違う恋愛ゲームといいますか……えーっと……」


 すると、イチニーさんは私を左側の壁へと引っ張った。


(えっ? 何?)


 ダンジョン内は、このまま真っ直ぐに行けば階段がある。その先には、モンスターや魔物がいるエリアだ。左側の壁には何もない。何? 壁ドン? じゃないよね? そもそも私は6歳児だもの。



「ミカンさん、勘違いされているかもしれないので、念のために話しておきますが……私は本気ですよ?」


「えっ? 本気って……」


「貴女のことが、本気で好きだということです。ミカンさんのことは、私が全力で守りますから」


「でも、私は……」


 ちょっと待って。私は6歳児で、イチニーさんは20歳でしょ。あっ、21歳になったのかも。


 頬が熱くなって、頭がクラクラしてくる。でも、私もイチニーさんのことが好きだとは言えない。平民である彼の人生を考えれば、私の気持ちは絶対に知られてはいけない。


「ふっ、困らせてしまいましたね。すみません。あぁ、私は永遠の20歳ですよ。そのうち、ミカンさんが私の年齢に追いつきますね」


 また、私は顔に出てたみたい。


「なぜ、ずっと20歳なの? 何かの呪い?」


「心配しないでください。私はちょっと特殊なんですよ。それより左に向いてください。私達は、海岸に向かうのですよ?」


(壁ドンじゃなかった)



 左に身体の向きを変えると、今まで見えなかった通路が見えた。少し離れると見えない。どういうトリック?


「通路が現れた!?」


「もともとあるんですが、光の反射で見えにくいんですよ。だから見逃して、下へ通じる通路に進んでしまう人が多いみたいです」


(あっ! 隠し通路!)


 悪役令嬢エリザ・ダークロードが、突然目の前に現れたことがあった。ゲームユーザーの間では、ベルメの海底ダンジョンには、いくつもの隠し通路があると言われていたけど。



「この先は、ゆるい上り坂になっています。疲れたら言ってくださいね。それと、水の匂いのする場所には魔物がいます。さっきの石つぶてをお願いしますね」


「は、はい」



 私達は、左側の通路へと入っていく。イチニーさんは、もう手を繋ごうとはしない。


(いきなり水の匂いがする)


 ベルメの海底ダンジョンの入り口近くにいるモンスターといえば……上だわ。


 パッと上を見ると、やっぱりいた。岩壁に擬態するエイのようなバケモノが数体、赤い目を光らせていた。


 私は左手を上に向けて、攻撃しようと意識した。すると……。


(えっ!?)


 左腕から、ヒュルヒュルと透明な細い何かが伸びていき、エイみたいな奴を……パクッと食べちゃった。


 そして、素知らぬフリをしてヒュルヒュルと戻ってくる。透明な細いえのき茸だ。食べたものはどこに消えたの?



「ミカンさん、今のは何ですか? 大きな何かが魔物を丸呑みしたように見えましたけど」


(そんなの知らないよー)


「たぶん、左腕に刺さってる枝が……」


「へぇ! すごいな。聖木スポンジの木のチカラかぁ。面白いですね。ミカンさんと共存する道を模索しているのかな」


 左腕の包帯は、一部が緩んでいる。ここから出てきたんだな。手で触れてみても何もない。もう隠れたのね。



「なんか、気持ち悪いですよね? 私」


(オバケえのき茸だよ……)


「どうしてですか? 面白いじゃないですか。他には何ができるんだろう?」


 私を怖がらせないように、気を遣ってくれてるのかな。でもイチニーさんの目は、キラキラと少年みたいに輝いているように見える。


「学長さんが封じてくれたんですけど」


「ミカンさんに吸収されたくなくて、頑張ってるのかもしれませんね。そういえば、スポンジの木から精霊が生まれたこともあるらしいですよ。楽しみですね」


(精霊? オバケえのき茸の精霊?)


 固まってる私に優しい笑みを向け、イチニーさんは、ゆっくりと歩き始めた。



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