35、海底ダンジョンでフレンドさんに会う
シュッ!
(わっ! できた!)
海底ダンジョン前にいる大きなナメクジのような魔物に向かって、私は石つぶてをイメージして左手を突き出した。すると、本当に石ころが飛んでいって、ナメクジの腹に当たったよ。
その直後、イチニーさんは剣を抜き……。
ズサッ!
一瞬で、魔物を真っ二つに斬った。
(す、すごい!)
イチニーさんは、左手で私を抱えたままで、楽々と魔物を倒しちゃった。この魔物はゲームでは見たことないけど、ダンジョンの入り口の番人なら、強いはずよね?
◇◇◇
海底ダンジョン入り口の膜みたいなものを通り抜けると、見たことのあるガランとした大きな空洞になっていた。もう水の中じゃないから浮力もない。
(本当に、ベルメの海底ダンジョンだ)
「ここまで飛ばされたのか。やりすぎだよな、ユフィラルフ魔導学院は」
声のした方を見ると、男女2人ずつの冒険者風の人達がいた。私達は私服なのに、なぜユフィラルフ魔導学院の学生だってわかるのかな?
「キミ達は、実習補助ミッションで待機してるのかな?」
イチニーさんがそう声をかけると、話しかけてきた男性が口を開く。
「あぁ、ベルメの海に来たかったから、実習補助ミッションも受けたんだよ。転移魔法で運んでくれるからな」
「複数受注か」
「まぁな。しかし、まさかこんな所まで飛ばされてくる学生がいるとは驚きだぜ。俺達がここにいるのは、別の密命のためなんだけどな」
そう言って、チラッと私の方を確認した冒険者。
(私を狙ってるの?)
私とパチリと目が合ったけど、興味なさそうに、彼は視線をイチニーさんに戻した。
「誰を狙ってるんだ?」
「学生じゃないから安心しな。とあるパーティを抜けた男を捜している」
「復帰の説得か? それとも……」
「まぁ、後者だな。見つけたとしても、俺達としては、あまり争いたくはないんだけどな。下級貴族の揉めごとだよ」
「ふぅん、下手に内輪揉めに関わると、死人が出るかもしれないよ。気をつけないとね」
「アンタに言われなくても命は大事にするよ。しっかし、ユフィラルフ魔導学院って、やる事がエグいよな。わざと転移事故を起こして、生還できるかの実習だなんて」
(えっ? わざと?)
私は思わず、イチニーさんの方を見てしまった。抱きかかえられたままだったから、顔がめちゃくちゃ近い。
一瞬、イチニーさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべたけど、私を地面に下ろしてくれた。
「やはり、わざと転移事故を起こしたのか。転移魔法を担当した中に、一人ポンコツ魔導士がいたから、そんな気はしたが」
「学生を海に落として、海岸にたどり着かせる実習だと聞いてるぜ。海岸線が見える辺りに、冒険者達が船で待機している。俺達は、海底ダンジョンに紛れ込む学生がいたら死ぬからと言って、ここに来たんだがな」
(サバイバル実習ね……)
「広い範囲に落ちたと思うけどね」
「はぁ。面倒だが、ミッションだから仕方ない。海岸まで連れて行ってやるよ。濡れた服のままだと風邪をひく。おーい、ミッチョ〜」
冒険者の一人が、嫌そうな顔をして振り返った。
「私の名前を呼ばないでよね。貴族のガキの世話なんて、やりたくないよ」
(ん? ミッチョ? みっちょ?)
その女性は、私達の方にぶわっと温かい風を当てた。すると、一瞬で髪も服も乾いてる。
「すごい! ドライヤーみたい」
思わず私の口から出た言葉で、その女性が目を見開いた。あっ、そっか。ドライヤーって言ったからだ。
「ちょっと、そこのガキ、今、何て言った?」
「ミッチョ、やめとけ。ミッションだろ」
「うるせーよ。金の亡者は黙ってな!」
私達に話しかけてくれてた男性は、ミッチョさんに怒鳴られて小さくなってる。彼女は、私を真っ直ぐに見つめた。
(きっと、間違いないよね?)
「ドライヤーって言ったよ。みっちょん、かな?」
「うぉおっ! おまえは誰だ? 私をみっちょんと呼ぶのは、私の数少ないフレンドだけだよ。ちょっと待て、当てる。えーっと…………ヒントをくれ」
(ふふっ、相変わらずだね)
「みっちょんみちみち……」
「あー! みかんじゃん! そのみちみちって何なんだよ? りょうは、みにみにって言うし、おまえら意味不明なんだよ! 久しぶりだな〜」
「うん、久しぶりだね、みっちょん。あっ、ミッチョさん?」
「みっちょんでいいよ。みかんは、ミカンか? えらくガキだな」
「そうだよ。まぁ、うん、6歳児だね。あっ……」
ついついフレンドさんと話してしまったけど、イチニーさんも、他の冒険者もいるのに……。
「あぁ、こんな場所で平気な顔してる奴なら、気にしないんじゃないか? この世界の構造を知ってるだろ」
みっちょんは、イチニーさんを睨むように見てる。ちょっと怖いな。海賊っぽい10代後半のクール系美少女だ。そういえば、彼女のアバターも海賊っぽかったっけ。
「彼女が転生者だということは、気づいてましたよ。反応が大人ですからね」
イチニーさんはそう言うと、私の手を握った。
「ふぅん、私のフレンドが、幼女好きの変な男に目をつけられたのかと心配したよ」
(ちょ、みっちょん!)
「ふふっ、幼い姿のミカンさんも可愛いですよね」
イチニーさんに顔を覗き込まれ、私は必死に平静を装う。だけど、バクバクしてる音が聞こえてしまいそう。
「確かに、あんた、めちゃくちゃ可愛いな。みかんのアバターも、ふんわりした感じだったけどさ」
「みっちょん、アバターとか、さすがにヤバくない?」
「どうせ、もうすぐバレることだから、いいでしょ。自分のアバターに会ったら、思いっきり妨害してやるんだ〜」
私は小声で話したのに、みっちょんは気にしない。まぁ、彼女は、そういう人だ。
「みっちょん……」
「あっ、みかんのアバターには優しくしてあげるよ。でも、みかんって結構強かったよな。弱そうなふりして爆炎をぶっ放してたし」
「そうだっけ? あはは、ってか……」
(いつまでも喋ってる場合じゃない)
「そういえば、みかん。りょうには会った?」
「りょうちゃん? 会ってない。どこにいるの?」
「わからん。居るはずなのに全然会えないんだよな。あんた、知らない?」
みっちょんは、イチニーさんに尋ねた。当然、彼は驚いた顔をしてる。
「えっ、私は転生者じゃないですよ?」
「は? りょうを知らないかと尋ねたんだよ? まさか、あんたが、りょうなのか?」
「彼は名前を授かってないよ。それに、りょうちゃんは女性でしょ?」
「なぁんだ。チッ、りょうに会ったら、ぶん殴ってやる!」
(なぜ殴るのー)




