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33、レオナードくんには婚約者がいるみたい

「さて、作戦会議を始めますか」


 焼き菓子の店でお土産にもらったクッキーは、ほとんどがイチニーさんのお腹の中に消えた。彼は空腹だったみたい。


 チラッとグラスさんに視線を移すと、私の意図を察して、さっき買ったパンをバスケットに入れて、テーブルに置いてくれた。すると早速、イチニーさんが手を伸ばしている。


(ふふっ、なんだか可愛い)


 私は6歳児だけど、中身は30歳、いや31歳というべき? 感覚はアラサーのままなのよね。だから20歳のイチニーさんは、年下の男の子に見える。


 でも、そんな年下の男の子を、私はずっと目で追ってしまう。半年前のあの件以来、私の彼への見方がガラリと変わった。もっとイチニーさんのことを知りたいって思うようになってきた。


 だけど、イチニーさんは平民だから、私のこの気持ちは周りに知られないように気をつけている。特にエリザに知られたら、彼を私の使用人にしようとするはず。彼は剣についての称号を持ってるから、ダークロード家の使用人の条件は問題ないもの。


 そんなことになったら、イチニーさんの将来を潰してしまうかもしれない。彼は、冒険者として生計を立ててるみたいだけど、ダークロード家の使用人になったら、自由にミッションは受けられなくなる。


(やっぱり、知られちゃダメ)




「ミカンさ〜ん、また、話を聞いてないでしょ」


 時雨さんが、私の顔を覗き込む。


「あっ、ごめんなさい。ボーっとしてた」


「外で何か、嫌なことがあった? 大丈夫?」


 時雨さんは、勘がいいんだけど、今の私が考えていたことは別のことだ。でも、サラに視線を向けた時雨さんは、軽く頷いている。


(サラは、顔に出るのよね)


「シグレニさん、私は大丈夫だよ」


 そう言って笑顔を作ったのに、サラが何か言いたそうにしてる。すると、レオナードくんが口を開く。


「町で、何があったんだ? 異世界人のいる草原まで行ったのか?」


 いつもとは違う強い口調でレオナードくんがそう尋ねると、サラは、わちゃわちゃと手を動かしている。何かに逆らっているようにも見えるけど。


「レオナード様、術を乗せて話すことは、初等科では禁止ですよ? 魔術科に進学して忘れたんですか」


(術って何?)


 イチニーさんは、レオナードくんをからかうような口ぶりだけど、たぶん、レオナードくんを叱ったんだと思う。


「あぁ、悪い。だけど、この程度の誘導術では話さないんだな。その侍女は何者なんだ? もしかして、ミカンって有力貴族の娘なのか?」


(家名は隠してるもんね)


 レオナードくんは、私の家の名が知りたいのかな。



「レオナード様、ミカンさんの家名を聞いてどうするんですか? まさか、婚約の申し込みに行くつもりじゃないでしょうね。私がミカンさんに一目惚れしたって、前にも言いましたよね?」


 イチニーさんは、上手く話をすり替えてくれた。レオナードくんの顔は真っ赤になってる。


 私は、表情が変わらないように気をつけた。イチニーさんからは一目惚れしたって、何度も言われてるけど、それはレオナードくんがいるときだけのこと。


(期待しちゃダメ)


「イチニー! おまえはオッサンじゃないか!」


「私は、永遠の20歳ですよ」


「だから、それは、ミカンがもっと大人になってから言えって言っただろ! オッサンが、こんなチビに一目惚れしたなんて、怪しすぎるだろ」


(確かに、幼女好きかと思うよね)


「レオナード様ってば、ひどいですよ。私は、真面目に言ってるんですよ? ミカンさんって、すごくかわいいじゃないですか。それに、私のような平民にも気遣いをしてくれるし、嫌な貴族らしさもない。こんな素敵な女の子と出会ったら、普通、憧れるでしょう?」


「おわっ? イチニー、おまえ、ちゃんとわかってるじゃないか」


「ふふっ、でも私が先に、大好き宣言したんですからね。レオナード様、家の権力を使って横取りしないでくださいよ」


「そ、そんなことしない! 俺には婚約者はいるからな」


(へぇ、婚約者がいるのね)


「それなら安心しました。あっ、でも、家を継いだらたくさんの妻を……」


「俺が継ぐとは決まってない! 家を継いだら自由がなくなるじゃないか。王家の奴隷なんて、嫌だからな」


 レオナードくんは、思わず本音を叫んでしまったらしい。慌てて口を両手で塞いでいるけど、発した言葉は消えないよね。


「あらら、レオナード様が、毒舌になってしまいました」


 イチニーさんも少し困っているように見える。確かに今の発言は、外に漏れるとマズイかもしれない。



「レオナードくんの今の言葉は、私の使用人は聞かなかったことにするわ。でも私は友達だから、聞こえちゃったけど」


 私はそう言って使用人達一人一人に視線を移す。皆、私と目が合うと、一礼してくれる。口止めは完了ね。


「そ、そうか。まぁ、うん。失言だったな。悪い」


「大丈夫よ。私の使用人は、口は堅いの。もちろん私も、レオナードくんが不利になるようなことは言わない。そういう陰口とかドロドロした噂話は嫌いなの。レオナードくんの婚約者のことは興味あるけど」


「お、おう。俺の婚約者は……俺が一人前のシャーマンとして認められたら、おまえにも見せてやるよ」


(会わせてくれるの?)


 だけどレオナードくんは、なんだかつまらなそう。親が勝手に決めた婚約者なんだろうけど、あまり気に入ってないのかな。




「話が逸れてしまいましたね。フィールド実習の作戦会議に戻りましょう」


 イチニーさんは、話題を変えた。これ以上、レオナードくんの婚約者の話は、しない方がいいみたい。


「そうね。そのために集まったんだものね。ミカンさん、フィールド実習の場所が、明日から変わるのよ」


 時雨さんは、ニヤッと笑みを浮かべながら、話し始めた。この顔は、私達が知る乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』に出てくる場所ってことかな。


「草原は、異世界人がいるもんね。どこに変わるの?」


「ベルメ海岸よ」


(え? ベルメの海底ダンジョンのある?)


「シグレニさん、そこって……」


 乙女ゲームを知らない人がたくさんいるから、言いたいことが言えない。


「ええ、なかなか危険な場所みたい。だけど、転移魔法を使わないと、荒れた海を越えないと行けない場所だから、襲撃の危険は少ないよ」



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