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29、ユフィラルフの町の散歩

「ミカン様ぁ、寒くないですかぁ?」


 ユフィラルフ魔導学院の寮を出発した私達は、冒険者のフリをして、ユフィラルフの町のメインストリートを目指して歩いていた。


 寮からずっと、私達をつけてくる人達がいる。話が聞こえる距離ではないけど、左腕がズキズキと痛む。


(襲撃の機会を狙っているのね)



「サラ、その呼び方はダメだよ。サラのことはお姉ちゃんと呼ぶから、サラは私のことを妹ちゃんって呼んで」


「ええ〜っ! あ、そうでした。私達は、この町に遊びに来た冒険者でした! でも、ミカン様ぁ〜」


「サラさん、ミカン様がおっしゃる通りですよ。名前を呼ぶことで、せっかくの変装が台無しになってしまいます」


 黒服のグラスさんは、ほんと、落ち着いてる。というか、サラが舞い上がりすぎなのよね。


「そうですかぁ? じゃあ、グラスさんのことはどう呼ぶのですかぁ?」


「グラスさんのことは、そのままでいいよ。呼び名だもの。私とサラは姉妹で、グラスさんはお姉ちゃんの友達にしよう」


「ええ〜っ? お友達ですかぁ?」


「ん? 恋人の方がいい?」


「なっ、な、なな何を言ってるんですか、ミカン様ぁー」


 恋人という言葉を使うと、サラだけではなくグラスさんも、少し赤くなってる。これは、お互いにちょっと意識してるってことかも。


(ふふっ、楽しい)


「サラさん、また呼び方が……」


「はっ! サラの名前はサラでいいんですかぁ?」


「サラの名前って、知られてるの?」


「うーむ。ミカン様のまわりの方はご存知ですぅ。魔術学校を卒業してすぐに今のお仕事をしているので、一部の身内は知ってますけど、名前を授かったことは友達にはあまり知られてませんよ」


 サラも、名前を授かるために学校に行ったのかぁ。イチニーさんもだけど、称号がないと学校には入学できないから、サラも何かの称号を得ているのね。


 やはりダークロード家って、何かに秀でた人じゃないと採用されないみたい。だから、ダークロード家の使用人だということが、自慢になるのかな。



「お姉ちゃんは、名前を授かる前は、何と呼ばれていたの?」


 私がお姉ちゃんと呼んだためか、サラはクネクネと変な動きをした。くすぐったい言葉だったのかな。


「わ、私は、サラと呼ばれていましたよ」


(ん? 私の質問の意味わかってる?)


 私が首を傾げていると、グラスさんが口を開く。


「そういう人は多いですね。大人になってから名前を授かると、呼び名が名前として選ばれることが多いと聞きます」


「へぇ、不思議ね。じゃあ、お姉ちゃんの呼び名はサラでいいじゃない」


「ええ〜っ、サラだけ名前なんて変ですよぉ」


「サラさんは、自分のことをよくサラと言っているから、そのままの方が自然じゃないですか」


(確かに! グラスさん、かしこい)


 一方でサラはキョトンとして首を傾げている。自分でサラと言っていることに気づいてないのかも。


 私だけでなく、グラスさんも笑いをこらえている。サラは、治癒魔法の能力が高いけど、魔法を使わなくても癒し効果を発揮するよね。




 メインストリートは、あの草原に繋がっているためか、たくさんの冒険者達が警備にあたっているようだ。


 でも草原からは、異世界人は入って来られないはず。まだ試験段階だから、紛れ込んでしまうのかな? 


(あっ、違う。逆か)


 冒険者達は、町から草原に出て行こうとする人に説明してるみたい。確かに普通の住人は、異世界人との交流が始まるなんて、知らない人が多いかもしれない。



「ミ……い、妹ちゃん、草原に出るの?」


「うん? 出ないよ。あっ、あのお店、すごく並んでるね」


「では、交渉を……」


「ダメよ、グラスさん。私達は、普通の冒険者だよ?」


 気を利かせようとしたグラスさんに、サラが注意している。サラは、やればできるのよね。


「お姉ちゃん、あの列に並ぼうよ」


「ええっ? それなら、サラが交渉して席を空けてもらってきますぅ」


(はい?)


「サラさん、さっき、何と言いました?」


 グラスさんにツッコミを入れられて、サラは赤くなった。


(ふふっ、いい感じ)


「ねぇ、並ぼうよ〜、お姉ちゃん」


 私は声を大きくして、6歳児らしく駄々をこねてみる。


「ミ、し、仕方ないわね。並びましょうか」


 サラは、私の名前を言いかけても、何とか言わないように頑張ってる。



 私達が列に並ぶと、私達をつけて来ていた人達は、向かいの店に入った。私に向けていた悪意はガツンと減ったみたい。ダークロード家のお嬢様が、こんな風に列に並ぶのは不自然だもんね。人違いかもしれないと感じたのだと思う。


(これは使える)


 しかし、ずっと、つけ狙われるのも疲れる。


 襲撃者達は、人がたくさんいる場所では何もしてこないから、私はのがれるすべを完全にマスターしたと思う。偶然を装って、私を殺したいみたいだもの。


 でも、いつ方針が変わるかはわからない。今は私がまだ小さな子供だから、偶然を装う余裕があるのだろう。それに、エリザはまだ魔術学校を卒業してないから、家を継ぐ資格はない。


 おそらくエリザが魔術学校を卒業すると、襲撃者達に時間的な余裕が無くなる。そうしたら、きっと、手段を選ばなくなってくるよね。


(どうしたらいいのかな)


 私がまだ初等科でいることも、幸いしていると思う。魔術科に進学すると、魔法を覚えて抵抗されると考えるはず。


 私がすっごく強くなるか、手出しできない場所に隠れるか、あとは、何かあるかなぁ?




「お待たせ致しました。お席にご案内します。三名様ですね」


「はーいっ」


 私は、先に入った同年代の子供の仕草を真似て、平民っぽく振る舞う。


「ふふっ、元気なお返事ありがとうございます。さぁ、どうぞ。お待たせしたお詫びに、小さなお子様にはクッキーをプレゼントしています」


「クッキー? お姉ちゃん、クッキーをくれるって!」


「ま、まぁ、すみません」


 サラは、必死に私に合わせる。ちょっとぎこちないけど、たぶん店員さんにはバレてない。



 店に入ると、また、左腕がズキンと痛んだ。


(また? どこにいるのかな)


 私は不自然にならないように気をつけながら、店内をキョロキョロと見回した。6歳児でよかった。落ち着きがなくても、大丈夫。


「妹ちゃん、何をそんなにキョロキョロしてるの?」


 サラは、ぎこちないながらも、なんとか姉を演じている。


「どこからか、いい匂いがするの〜」


 はしたないと叱られそうだけど、今は冒険者のフリをしているから、いいよね。



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