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27、半年間で大きく変わったこと

「おまえ、まだ初等科なのかよ?」


 秋の新入生の入学式の日、片付けの手伝いをしていた私に話しかけてきたのは、私服姿のレオナードくんだった。


(魔術科に進学したのね)


 レオナードくんは、入学式に出席した人がもらう杖を、大事そうに握っていた。魔術科になるともらえる杖のグレードが上がるみたい。そういえば私は、初等科の入学式には出てないから、杖をもらってないのよね。



「うん、初等科だよ」


「おわっ? おまえ、話し方が変わったというか……えっえっ?」


 レオナードくんが驚くのも無理はない。この半年ほど、レオナードくんとは挨拶程度しかしていない。


「異世界人のお世話実習のとき、誰も来なくて暇だった日があったでしょ?」


「あ、あぁ、何かの用事で来られなくなったって言ってたな」


(たぶん、ゲームのバグだけどね)


「その日、レグルス先生が、体内のマナの循環方法を教えてくれたでしょう? レオナードくんは暇そうにしてたけど」


「そんなことは、教わらなくても知ってるからな」


「ふぅん、すごいのね。私は知らなかったから、教えてもらって練習してるうちに、スムーズに言葉を話すことができるようになったよ」


「あぁ、そういうことか。身体の中に溜まっている変なもんがマナの流れで掃除されるからな」


(主に老廃物などの毒素だよね)


「そうなんだ。レオナードくんって物知りだね」


 チビっ子がドヤ顔をしてるから、一応褒めておいた。 


「そ、そんなもの、シャーマン家に生まれたら知ってるに決まってるだろ。7歳になると、お父様から教わるんだ。マナを操れないと術は使えないからな」


(7歳? 同い年だと思ってた)



「レオナードくんって、7歳なの?」


「違う! 俺は、ちょっと背が低いかもしれないけど、8歳だ! ガキ扱いするなよ? ミカンなんて、俺よりチビじゃないか。おまえは何歳なんだよ?」


「私は、ちょっと前に6歳になったよ」


「ええっ? 俺よりも2つも年下だったのか。だから、そんなにチビなのか」


 確かに私は小さいかもしれないけど、レオナードくんは、8歳には見えないよ? 本当に8歳なのかな。


 私が首を傾げると、レオナードくんの視線が、私の後ろへと向いた。なぜか、急に赤くなってる。



「レオナード様、年下だとわかったからって、チビ呼ばわりは感心しませんね」


(あっ、この声!)


 パッと勢いよく振り向くと、すぐ近くにイチニーさんの顔があった。


「わっ! イチニーさん」


(あー、私も赤くなってるよね)


 頬が一気に熱くなる。


「おっと、失礼。近すぎましたね。頭がゴチンと当たりそうでした。おしかったなぁ」


(な、何が惜しいのよ?)


「あ、あの……」


「ふふっ、もしかするとキスしちゃう距離かと思ったんですけどねぇ」


「ええっ!?」


「冗談ですよ。ミカンさんは、いい反応をしてくれる。可愛いなぁ。私と付き合っちゃいません?」


(つ、付き合う?)


 きっとこれも冗談よね? だけど、イチニーさんはニコニコとしていて、まるで私の返事を待っているかのようで……。



「おい! イチニー、何を無礼なことを言ってるんだ。ミカンはこれでも貴族だぜ? 5歳で入学したんだからな」


「そんなこと、わかってますよ。だけど、ミカンさんが可愛いんだから仕方ないじゃないですか」


「おまえ、オッサンだろ?」


「私は永遠に20歳ですよ」


「あぁ、複数所持者だったな。だけど、あまりにもオッサンだぞ。そういう話は、ミカンがもっと大人になってから言えよ」


(複数所持者って何?)


 そういえば、イチニーさんのカードに書いてあったけど、何を複数持ってるのかな? 永遠に20歳ってことと何か関係があるの? そもそも永遠に20歳ってどういうこと? まさか、不老の種族?



「大人になるまで待ってたら、ミカンさんが誰かと婚約しちゃうじゃないですか。そうなったら、どうしてくれるんですか、レオナード様」


「なっ? そ、そんなこと知らないぞ。そもそも身分違いじゃないか」


「気にしちゃ負けです」


「気にしろよ! ミカンは貴族で、イチニーは平民なんだからな」

 

「ミカンさんは、生まれた家なんて、気にしませんよね?」


「へ? あ、あの……」


 突然、話を振られて、頭が真っ白になってしまった。それに、距離が近い。そうだ、半年前に助けてもらったお礼を言わないと。


(あれ?)


 この半年間、全く会えなかったのに、私の滑舌のことを何も言わないのね。イチニーさんは、さっきのレオナードくんとの話を聞いてたみたいなのに。


 あっ、もしかしたら、レオナードくんに説明したことも聞いてたのかな? 



「そういえば、ミカンさん、話し方が少し変わりましたね」


「えっ? あ、はい。あの、イチニーさん、フィールド実習では助けてくれてありがとうございました」


「ん? 何か助けましたっけ?」


(わ、忘れてる!?)


「おい、イチニー! コイツに賞金がかかってるって言ってたじゃないか」


(賞金? 何それ)


 イチニーさんは、しばらく黙った後、ポンと手を叩いた。


「あー、だいぶ前のことじゃないですか。私は、忘れっぽいんですよ、すみませんね。レオナード様、賞金の話を本人の前でするのは、さすがにどうかと思いますよ? でも言ったからには、責任を持ってくださいね」


「のわっ、わ、わかってるって。だけど、ミカンはまだ初等科なんだぜ? あっ、必須科目のフィールド実習が怖くて受けられないのか」


 レオナードくんは、あのフィールド実習のとき同じパーティを組んでいたから、事件のことはすべて知っている。


(怖いわけじゃないけど……)


「レオナード様は魔術科に進学されたのですから、先輩として、ミカンさんのフィールド実習補助をしてあげればいいのではないですか?」


「そうだな。ミカンはチビだから、補助してやらないとなっ。イチニーも補助しろよ? 魔術科に進学したんだろ?」


「レオナード様、この制服が見えません?」


 そういえば、イチニーさんは初等科の制服を着ている。この半年間、全く授業に出なかったのかな。


「イチニーも、まだ初等科なのか?」


「ええ、そうですよ。だからレオナード様、私の実習補助もしてくださいね」


 イチニーさんにそう言われて、レオナードくんはとっても嬉しそう。


「お、おぅ、任せておけ!」


(ふふっ、かわいい)



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