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26、ミカン、6歳になる

「ミカン様ぁ、元気出してください〜。あっ、そうだ。サラは、こないだ可愛いクッキーを買ったんですよ。部屋に戻ったら、温かい紅茶を淹れて、お茶会にしましょう」


 私がレグルス先生の顔を見ながら考えごとをしている間に、授業というか、秋からの異世界人との交流の説明は終わっていた。


 なぜ、歴史学の授業時間が異世界人のお世話時間に変わったのか、という部分以外の話は、だいたい聞いていたけど。



「サラ、どうして、じゅぎょうがなくなったの?」


 私はサラのお茶会の話はスルーして、ずっと疑問だったことを尋ねた。冒頭の肝心な部分を聞き逃してしまったから、なぜこんなことになったのか、結局よくわからなかったためだ。


「ミカン様、お気持ちはわかります。でも、レグルス先生がおっしゃっていた通り、初等科の必須科目で後期から始まる座学は歴史学だけだから、仕方ないですよね」


(あっ、そういうことなのね)


 サラは、私が話を聞きもらしたとは、思ってないみたい。だから、私が抗議してると感じたのね。


 この異世界人との交流の件を、すべての学生達に教えなきゃいけないのか。ゲームユーザーでなければ知らないことも多いだろうし、何より、いきなりたくさんの見知らぬ人が来たら驚くから、これは大切なことかも。


 それで、必須科目の中で一番必要性の低い科目を、急遽、異世界人のお世話実習に切り替えたんだ。でも、秋からゲームの運営さんが来るなら、まだ、春夏の授業は普通にしてもいいんじゃないかな?



「あきからなのに?」


「たくさん来るのは秋からだけど、夏からも少し来られるみたいですから、仕方ないですよ。異世界人の方々のお世話は、称号を持つ人が中心にならないといけませんものね」


(称号?)


 この世界では、称号という物の有無で、大まかな役割分担がされてるんだっけ。だから、学生は全員参加なのね。学校に入学するための条件は、称号を得ていることだもの。




 ◇◆◇◆◇



 それから、しばらくの時が流れた。


 私は、春に襲撃されたこともあり、あの後はフィールド実習は受けてない。薬草の採取はしたのに、逃げている間に無くしてしまったから、課題の提出は出来なかった。


 だから別のクラスで、もう一度受けようと思っていたけど、使用人達が私のことを心配しすぎて、サラに、フィールド実習は後回しにするようにと話していたみたい。


 あの件以降、グリーンロードの冒険者ギルドが、フィールド実習の時の警護をすることになったそうだ。時雨しぐれさんが、わざわざ教えに来てくれた。


 そのとき、時雨さんは、私を守る力がなかったと謝ってくれた。時雨さんが悪いわけじゃないのに、とても責任を感じているみたい。


 エリザにも、時雨さんから報告してくれたらしい。だけどエリザは、私には何も言ってこない。たぶん、私が口止めした理由を、使用人の誰かから聞いたのだと思う。


 だけど、それは私の本当の気持ちではなかったから、ちょっと罪悪感を感じる。でも、エリザと時雨さんとの交友関係は続いているし、使用人は誰も解雇されてないから、まぁ、よかったのかな。


 また時雨さんは、次は剣も使える知り合いと一緒に、私の実習補助をすると言ってくれている。だからもう、あんな襲撃は起こらないと思うんだけど。


 秋以降になればフィールド実習の場所を変更すると、ユフィラルフ魔導学院から連絡してきたらしい。新たな実習場所は、部外者が入れない場所だということで、私のフィールド実習は、秋まで待つことになった。たぶん、同じことがあると責任問題になって、学校側が大変だからだよね。



 フィールド実習を終えないと、初等科の修了証はもらえない。歴史学は、異世界人の手伝い方法を習得できたら、秋を待たなくても、夏の試験で合格すればいいみたい。


 だから、フィールド実習を早く受ければ、私は秋になる前に初等科の修了証をもらえるはず。初等科は7科目の修了が必要だけど、前期で4つ合格しているから、実質はあと1つの科目合格でいいもの。


 だけど初等科を修了すると、全寮制ではなくなる。私はたぶん、自分で身を守ることができるまでは、寮にいる方がいい。


(しばらくは、初等科でいる方が、いいよね)


 私は家を継ぐわけでもないし、何かに急いでいるわけでもない。私が寮にいる方が、エリザも安心すると思う。



 だから私は、初等科で学べる座学をすべて選択することを決めた。そうすることで、ゲームとの違いを知ることもできる。


 そうして、ほとんどの時間を授業に、空き時間はユフィラルフ魔導学院の図書館に行くようになった。


 図書館は、行き慣れてしまえば安全だった。だけど、毎日のように移動中には、私に悪意を向ける人達と遭遇した。


 でも、私の左腕に刺さっているスポンジの木の枝は、やはり完全に悪意に反応するから、絡まれないように、華麗に回避することは簡単だった。



 そして、春夏が過ぎて、私は6歳の誕生日を迎えた。私は夏の終わりに生まれたみたい。



 誕生日には、エリザが可愛いクッキーをたくさん持ってきてくれた。でも、この世界では誕生日を祝うという習慣はないらしい。生んでくれた母親への感謝を伝える日なのだそうだ。


 そのときエリザから、私とエリザの母親は、私が4歳になる直前に事故で亡くなったのだと聞かされた。でも、それは優しい嘘だと知っている。私が名前を授かったとき、エリザは、母親を守れなかったとギルドマスターに話していた。


 エリザは、幼い私の母親代わりをしてくれている。次の誕生日には、私がエリザに感謝を伝えることにしよう。



 この半年間、イチニーさんとは一度も会えなかった。秋からの異世界人との交流準備で、ユフィラルフの町を離れていると聞いたけど。


 彼にはカードを見せてもらったことがあるから、私は彼がAランク冒険者だということを知っている。グリーンロードの冒険者ギルドでは、Cランクでも高位冒険者だと言われているらしい。だからきっと、頼りにされているのね。


 レグルス先生も忙しくしているみたい。でも、グリーンロードの街での異世界人のお世話実習に行けば会えるし、たまに校内で見かけることもあった。


(だけど、イチニーさんは……)


 春の終わり頃から、私は、校内を移動するたびに、イチニーさんの姿を捜すようになっていた。



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