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25、ミカン、また頭がぐちゃぐちゃになる

「ミカン様、今日から歴史学の授業が始まりますよ。楽しみですね」


 朝起きると、サラだけでなく、もう一人の侍女も、妙にソワソワしていた。


「リボンは何色にしましょうか。派手な色の方が、レグルス先生に見つけていただきやすいかもしれませんね」


(あっ、レグルス先生)


 だから侍女二人は、こんなにソワソワしているのね。私がレグルス先生に恋心を抱いていることは、エリザも含め、私の世話をしてくれる人達は皆、知っていることだ。でも私の気持ちは、イチニーさんに傾いてきたんだけど。


(これは使える!)


 私がレグルス先生のファンだってことを、公言してしまえばいいのかも。そうすれば、イチニーさんに迷惑をかけることもないはず。


 私の頭の中では、イチニーさんの存在感が大きくなってきたけど、レグルス先生みたいな、ふわりとした雰囲気のメガネ男子が好きなことに嘘はないもの。



「いつものでいいよ」


「そうですかぁ? 制服にはいつもの紺色のリボンが合いますが、目立たないですよ?」


「めだたなくていいの」


「ふふっ、乙女心ですねぇ。私なら目立ちたいですけど」


(授業だよ?)


 もう一人の侍女は、おとなしいサラとは違って、かなり社交的みたい。私服も結構派手だし、他の学生に付き添っている使用人達にも、積極的に関わっていく。だから、とても情報通なのよね。


「でも、いつものリボンは、ミカン様に似合ってますし、何より大人っぽいですよねぇ」


「年上の男性には、大人っぽさは重要ですね。ミカン様は、他の学生さんに比べて、聡明で大人っぽいですが」


(そうなの?)


「そうなのですかぁ? レグルス先生は、可愛らしいミカン様に笑顔を向けられてましたよぉ?」


(あれは、笑われたのよ)


「あまりにも幼いと恋愛対象にはなりませんよ? サラさん。あっ、でも、ミカン様の場合は歳の差があるので、可愛らしさをアピールする方がいいのかしら」


 レグルス先生とは親子ほど歳が離れてるから、恋愛対象として見てくれるわけがない。侍女達は、わかってないのかな? まさか、この世界では、こんなに歳の差があっても恋愛が成立するの?



「えーっ! 幼く見えますか? 私」


(ん? 話の方向が)


 侍女二人のおしゃべりは聞いていて面白いんだけど、私がボーっとしている間に、たまに話がポンと飛ぶ。


「サラさんは、普段の言動に色気がないから……」


「ど、どど、どうすればいいのでしょうか。私が全然モテない原因は、見た目が地味だからかと思ってましたが」


(サラが必死……)


「見た目の雰囲気は、服装で変えられるわよ。サラさんは私とあまり歳が変わらないのに、幼いんだもの」


「ひぇ〜、サラは、何を特訓すれば良いのでしょうか」


「ふふっ、さぁね? サラさん、そんなことより、ミカン様が遅刻してしまうよ」


「はっ! そうでした。ミカン様、すみません。授業に行きましょう。きゃー、私、まだ着替えてませんでしたぁ。ミカン様、すぐに着替えるので、ちょっとだけお待ちください。ごめんなさい〜」


 バタバタと慌てるサラ。ふふっ、どっちが学生かわかんないよね。




 ◇◇◇



「歴史学を担当するレグルスです。初等科の皆さん、初めまして。あっ、お会いしたことのある学生さんも多いかな。よろしくお願いしますね」


(きゃー、カッコいい〜)


 教壇に立ち、ふわっと微笑みを浮かべたレグルス先生は、道で会ったときより、実習の案内で回っていたときより、もっとピカピカなエフェクトを背負っているかのように輝いて見えた。


 初等科とは言っても学生の年齢はバラバラだ。近くの席に座るエリザよりも年上に見える女性は、先生を見つめてポワンとしてる。


(ライバルね)


 でも私みたいなお子ちゃまは、やっぱり相手にされないよね。この世界の恋愛観は、まだ全然わからないけど。


 今朝は、イチニーさんのことばかり考えていたけど、やっぱり圧倒的にレグルス先生の方が素敵。先生と比べるとイチニーさんって、チャラいし若すぎるもの。


(あれ? いないかも)


 教室の中で、レオナードくんは見かけたけど、イチニーさんの姿はない。何かのギルドミッションを受けて、授業をサボってるのかな? 初等科後期の科目は多いから、歴史学をまだ選択してないのかもしれないけど。


 イチニーさんに会えたら、助けてもらったお礼を言わなきゃと思ってたのに、緊張して損した気分。




「というわけで、とても残念なのですが、歴史学の授業は、初等科では行わないことになりました」


(えっ? 何?)


 最初の挨拶の後、全然、話を聞いてなかった。どういうわけで授業がなくなるの? 歴史学って必須科目じゃないの?


 思わずサラの方に、勢いよく顔を向けてしまった。サラは、残念ですねと小声で囁いてくれたけど……。


(残念の理由が知りたいのに)



「歴史学の授業時間は、異世界人さん達の補助を、皆さんと一緒にやっていくことになります。グリーンロードの中心街と町の北側の草原で、それぞれ実習形式で行います」


(ん? 異世界人?)


「そのための知識を、今日は学習することにしましょう」



 この後、レグルス先生が説明したのは、私が知っている乙女ゲームの、チュートリアルレベルのことだった。異世界人がやって来たときには、という形で説明されていたけど、私は、ゲームユーザーの立場で聞いていた。


 時雨さんが、もしかしたら自分のアバターと会うかもしれないと言っていたけど、本当にこれから、『フィールド&ハーツ』のゲームユーザーがここに来るみたい。


 時差が10年くらいあると、時雨さんは予測していたけど、レグルス先生の説明には、そんな話は出てこなかった。ただ、異世界人との交流が始まる上での、注意事項や心構えなどが話されていた。



 でもどうやって、この世界と繋ぐのかな。まぁ、魔法がある世界だから可能なのかも。


 時差が10年あるってことは……うん? なぜ、エリザが悪役令嬢になるって決まってるの? 乙女ゲームを作る上で、エリザを悪役令嬢に配役したということなのかな?


 私が知る物語ストーリーは、架空のものではなくて、事実をベースにしていると、なぜか私は思っている。名前を授かったときに、そういう知識を与えられたのだと思う。システムへの協力の話もされたっけ。


 だけど、本当に事実をベースにしているなら、10年以上先のこの世界のことを、神託者さん達が知っていたということ? 神託者って、そもそも何者なの?


(また、頭がごちゃごちゃになってきた……)



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