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23、ミカン、頭がぐちゃぐちゃになる

「は? 何が嘘だって? 俺達は魔物を……」


 時雨しぐれさんが、大きな巻き貝をポカっと殴ると、空中に何かの映像みたいな物が映された。


(何? これ)


 私は突然始まった映像に驚いていたけど、引率の先生は、冷静に映像を見ている。先生はすぐにビクビクするのに、この映像には驚かないのね。


「おい! これは、何なんだ!」


 襲撃者3人は騒いでるけど、壁になっていた大人数グループの人達は、焦った顔をしている。空に映像が映る魔法なのかな? でも、大きな巻き貝が映してるみたいだけど。



「さっきの光は、くっつき貝だったんですか。シグレニさん、早く言ってくださいよ」


(くっつき貝?)


 私のゲーム知識にはない名前だけど……時雨さんが私を抱きかかえて逃げ、その後に何が起こったかを、上空から撮影した映像のような物が映し出されている。


 私ではなく時雨さんを撮っているみたいだけど、上空からの映像だから私も映っている。


「言えないよ。アイツらが、これを探し出して潰すと困るもの。まぁ、冒険者ギルドにも、ちゃんと転送できてたみたいだけど」


(何の話?)


「襲撃者がここまでやるとは思わなかったので、出遅れました。シグレニさんから事前に託されていたのに、すみません」


 冒険者ギルドの職員さんは、また時雨さんに謝っている。彼らも映像を見たのかな? それで慌てて助けに来たのかも。


「私も、この貝を使えばすぐに諦めると思ってたから、甘かったわ。こんなに執拗に、しかも大勢で来るとは思わなかった」


「そうですね。我々も、後で冒険者記録と照合すればいいと考えていました。全員を拘束しますよ。ここまで過激な者達は見逃せない」


 冒険者ギルドの職員さんがそう言うと、さっき先生に証言していた大人数グループの人達がジワジワと離れていく。


(逃げちゃうよ)



「それから、わかっているでしょうが、逃げると罪は重くなりますよ? 貴方達を討つ臨時ミッションを出すことになるかもしれませんね」


 冒険者ギルドの職員さんがそう言うと、逃げようとしていた人達はピタリと止まった。


 そして、職員さんが何かのアイテムに触れてカチッと音がした直後、襲撃者3人だけでなく、壁になっていた大人数グループの人達も、職員さん達と共にスーッと消えた。


(やっと、終わった)


 私は安心からか身体の力が抜けて、崩れるように草原に倒れてしまった。




 ◇◇◇



 私は、薬草の匂いのする部屋で、目が覚めた。


(あれ? 何をしてたっけ?)


 寝ぼけた頭がハッキリしてくると、私は、斬られる覚悟をしてギュッと目を閉じたことを思い出した。そして目を開けると、そこにはイチニーさんの背中があったことも。


 あのとき、私はとても驚いた。まさかイチニーさんが来てくれるとは思ってなかったから。そして、私を安心させようとした笑顔は、本当に私を心配してくれていると感じた。


 私は5歳児だけど、中身は30歳。そしてイチニーさんは20歳。私から見れば、チャラくて若い子……だったはずなのに、何だか大人の男性に見えた。


 あっ、吊り橋効果ってやつかもしれない。怖いドキドキを恋のドキドキだと錯覚するというやつ。


(でも……)


 あんな風に助けられたら、今まで通りのチャラいお兄さんには見えないよ。


(好きになっちゃうよ)



 あっ、そういえば、イチニーさんって自分のことを、私っていうのよね。


(もしかして?)


 神託者さんも自分のことを、私と言っていた。神託者さんと声が似ているレグルス先生は、僕という。


 でも、地下で会った神託者さんはベール越しだったけど、若者という雰囲気ではなかった。さすがに20歳ではない。レグルス先生が神託者さんかな? でもレグルス先生は僕、なのよね。


 夢の中に干渉してきたとき神託者さんは、私の味方だと言っていた。そして自分を見つけてくれとも言っていた。何より彼は、フレンドのりょうちゃんかもしれない。


(あっ、私、バカだ)


 レグルス先生もイチニーさんも……りょうという名前ではない。名前は、あのカードがあるから欺けないもの。


 だけど、りょうちゃんじゃなくても、神託者さんの可能性はあるかな? ってことは神託者さんは、りょうちゃんではなくて……いや、そもそも、りょうちゃんは女性だよね?


(あー、頭がぐちゃぐちゃになってきた)




 私は、ゆっくりと上体を起こした。変なことを考えていたから、ドッと疲れを感じる。でも、襲撃の恐怖は、和らいだかもしれない。


 部屋の中には誰もいないみたい。ここは、グリーンロードの冒険者ギルド横の宿屋かな。名前を授かったときも、この薬草の匂いのする部屋で目覚めたっけ。



 ベッドから降りて扉の方へ近寄っていくと、扉の外から話し声が聞こえてきた。


「ですが、エリザ様に報告しないわけには……」


(サラの声だ)


「実習中の事件は、学院側の責任です。ミカンさんには何の怪我もありませんでしたから、ここは穏便にお願いしたいのです」


「私は、ミカン様の付き添いであり、ダークロード家の使用人です。このことをエリザ様に報告しないことは、ダークロード家への裏切り行為になります!」


 サラが話している相手の声には、聞き覚えはない。だけど、ユフィラルフ魔導学院の関係者だということは明らかね。


 実習中に私が襲撃されたから、責任問題になってるのかな。でも、私がいたから……『エリザの妹』がいたから、こんな事件が起こったのよね。



 エリザなら、どう考えるだろう? 彼女は、もともと、フィールド実習は危険だと言っていた。だから時雨さんを信頼して、私を託した。その時雨さんは、私を守ろうとして大怪我してしまったわけで……。


(話さない方がいいな)


 たぶんエリザは、時雨さんを使えない者だと判断する。エリザの性格からして、不要だと感じたら、すぐにバッサリと捨てるだろう。せっかく時雨さんが努力してエリザと親しくなっていたのに、何より、私のせいで大怪我をさせてしまったのに……。




 私は、ギィーっと扉を開けた。


「わっ! ミカン様、お目覚めですか。お目覚めのときにサラがいなくて申し訳ありません。どこか痛いところはないですか」


「うん。おきゃくさん?」


 私は素知らぬ顔で、サラにそう尋ねた。



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