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21、『悪役令嬢の妹』への襲撃

「何か、ご用ですか!」


 私が立ち上がったことで顔をあげた時雨しぐれさんは、大声を出してくれた。すると、私に近寄ってきていた冒険者風の二人は、少し怯んだみたい。


(ひっ、剣を抜いてるじゃない!)



「あぁ、なんだ。魔物がいるのかと思ったよ。最近は、子供くらいの小さな魔物が増えたらしいんだ」


(私を背後から斬ろうとしたってこと?)


「はい? この草原で増えている魔物は、黒い獣でしょう? 私達は、黒っぽい服は着ていませんが!」


 時雨さんに指摘され、冒険者風の二人は、周りを見回した。ちょうど、侍女のサラ達がいる場所との間に、大人数のグループが入り込んでいる。


(おかしいな)


 大人数のグループは、まるで壁のように背を向けて騒いでいる。さっきの時雨さんの声が聞こえない距離じゃないよね。


 左腕に触れてみて、その理由がわかった。この冒険者風の二人も、壁になって騒いでいる大人数のグループも、どちらを見ても左腕がズキンと痛む。スポンジの木が悪意に反応してる。


(まさか、まだ諦めてない?)



 ニヤニヤとした二人が、何かを相談している。まだ剣はさやに収めていない。偶然を装って、また斬りかかってくる気なのかな。


 サラ達の方へ逃げるべきだよね。でも、この壁になってる人達は、この冒険者風の二人の協力者だ。きっと通してくれない。


 私は、左側のあまり人がいない草原に視線を移した。右側にいるサラ達の方に逃げられなければ、当然、左側の広い草原に逃げる。だけど、ダメみたい。あまり人はいないけど、一人を見ると、左腕がズキンとする。


(あの人も協力者だ)


 私達の後ろは、背の高い雑草がびっしりと生えている。下手に飛び込むと、雑草で怪我をしてしまいそう。だけど、後ろしかないよね。



 壁になっている人達が、チラッと彼らの方を見てる。その直後、さらにゲラゲラと笑ったり大騒ぎし始めた。


(音消し……のつもり?)



「しぐれさん、うしろに、にげよう」


 私がそう囁いたのに、時雨さんは首を横に振る。そして、どこからか、大きな巻き貝のようなものを取り出した。



「お嬢ちゃん、悪いな。あんたには何の恨みもないが、魔物がそこにいるみたいなんだよ」


「どういうこと? 魔物なんかいないわよ!」


 そう言うと時雨さんは、その巻き貝のようなものを空へ放り投げた。すると、その巻き貝は、ピカッと強い光を放った。


「みかんちゃん、逃げるよ!」


 時雨さんは、私を抱きかかえて、人の少ない方へと走り出した。


「しぐれさん、そっちはダメ! ざっそうのほうに……」


「あの雑草は、堅いのよ。あんな中に入ったら血だらけになる」


「でも、そっちにも、なかまがいる!」


「えっ?」


 時雨さんが足を止めた。剣を抜いた人が、私達の方へ真っ直ぐに走ってきたためだ。



「おーい! そっちに魔物が行ったぞ〜」


 時雨さんが投げた巻き貝の光で私達を見失っていた冒険者風の二人が、大声でそんなことを言った。私達は、魔物じゃないのに。


「わかった! 見えたぜ! 任せろ」


 ニヤニヤしながら、剣を持つ人が近づいてくる。



「貴方達! 魔物なんていないわ! まさか、私達を狙っているの!?」


「お嬢ちゃん、魔物を捕まえたんだな? それは殺さないといけない。おとなしく渡せば、あんたは見逃してやる」


 すると時雨さんは、私をゆっくりと草原に下ろした。


(まさか、戦う気?)


 そして、時雨さんは、短剣を構える。



「おいおい、魔術学校の学生が短剣かよ。あはは、俺は、Cランク冒険者だぜ? お嬢ちゃんは宿屋の娘だろ? 悪いことは言わねぇ。そのガキ……じゃなかった、魔物をこっちに渡しな」


「この子は、魔物じゃないよ! 人間だよ!? 何を言ってんの! あんた達、頭おかしいよ!!」


「はいはい、退けよ。邪魔だ」


 剣を持って走ってきた人が、時雨さんに斬りかかった。


(ひっ)



 私も何かしなきゃいけないのに、何もできない。あっ、そうだ! エリザが持たせてくれた護身用のアイテムがある。


 ポケットの中から、アイテムを取り出して、ニヤニヤしながら近寄ってくる冒険者風の二人に向かって投げつけた。


(全然、飛ばない……)


 彼らに届かず、アイテムは、草原に転がっただけだった。


「あはは、何を投げた? おかしな魔物だな」


 私が投げたアイテムを壊そうとしたのか、冒険者風の一人が、思いっきり踏んだ。


 するとプシューっと、真っ白な煙が噴き出したみたい。


「うわぁ、くそっ、目が痛い。何も見えない!」


 そのアイテムを踏んだ人は、涙を流してその場でうずくまっている。催涙弾みたいなものかな。



「あはは、おまえら、何をやってんだ? 魔物の毒にやられたのか?」


(あれ? 時雨さんは?)


 時雨さんに斬りかかった人が、ニヤニヤしながら私に剣を向けている。その後方で、時雨さんがお腹を押さえてうずくまっていた。


(酷い……)


 でも、殺されたわけじゃない。時雨さんは、私に何か言おうとしている。ごめん、って口が動く。もしかして、まさか、致命傷を負わされた? 


(ひどすぎる……)



「さぁて、早くしないとなぁ」


 冒険者風の一人は、まだ目が見えないと騒いでるけど、もう一人は、ニヤニヤしながら、私に迫ってくる。時雨さんに酷いことをした人も近寄ってくる。



(あぁ、ここで、私は終わるみたい)



 やはり『悪役令嬢の妹』は……。えっ? 早すぎない? ゲームはまだ配信されてないのに、もう殺されるの? あっ、違う。この身体は、もう4回も殺されている。私が殺されたら、きっと、別の転生者がこの身体に入るのね。


 私はバス事故で半年前に死んだんだから、この半年は、おまけみたいなものか。乙女ゲームの世界、うん、不思議な体験ができた。



「増えた魔物は、狩らないとなぁ」


 冒険者風の一人が、剣を振り上げた。私は、ギュッと目を閉じる。


(痛いのは嫌だな)




 キン!


「ぐぁっ? な、何だよ」


 目をつぶって身構えていた私の前に、何かが来た気配がした。



「何だよじゃねぇよ! おまえら、何をやっている? なぜ、少女を斬ろうとしている!?」


(この声は……)


 恐る恐る目を開けてみると、私の前には、剣を持つイチニーさんの背中があった。



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