190、エピローグ
今回で最終回です。
いつもの倍くらいの長さになっています。
「私はここに新たなる国を築き、王となることを宣言する。5つの輝く盾と共に! 精霊主さまと共に!」
(あっさりと終わっちゃった)
白亜の大陸に新しくできた海岸沿いの街で、セレム様の建国宣言が行われた。集まっていたのは移住希望者や、この街に出店を希望する商人達のようだ。
ざっと見た感じでは500人程度だろうか。イメージとは全然違う。移住には厳しい制限があるから、これでも集まった方なのかな。
ここがセレム様が屋敷を建てる街。魔物避けの結界が気になるけど、海の見える高台にあるためか、とても開放感がある。
街は、ユフィラルフの町の数十倍の広さがあるそうだ。こんな広大な範囲の結界魔法は、精霊主さまによるものらしい。
集まっていた人達は、精霊主さまの力に驚き、そしてこの街の安全性に安堵したようだ。でも逆に考えると、精霊主さまが自ら結界を張らなければ住めないほど、この大陸が危険だということよね。
街の中心部は、ほぼ完成しているように見える。この街の北側に、みっちょんが仕切っている異世界人の小さな街がつくられたようだ。
セレム様の屋敷の建設は、まだ行われていない。建国宣言後に王の居城を築く、という決まりがあるためらしい。
(今日から、私、どこに住むの?)
ユフィラルフの町のアパートは、そのままになっている。だけど私達は、今日から白亜の大陸に住むのだと聞いているし、使用人達も荷造りをして来たんだけどな。
宣言の後、集まっていた人達の多くは、一つの建物を目指して、我先にと移動していく。セレム様が演説の中で、この国の方針を説明したためだ。
新たな国では、従来の貴族制度は無くなる。また、この国独自の冒険者ギルドが設立された。これまでの冒険者ランクの継承はできない。みんな新たなスタートになるようだ。
冒険者ギルドへの登録により、この国での仕事が可能になる。だから商人達も登録が必須みたい。
だが、それが良かったみたい。
これまで平民だった人達だけでなく、腕に自信のある貴族も、嬉々として新たな登録に行ったようだ。
リンツさんは、まず自分の登録をして、この国でもギルドマスターに就任した。その後、セレム様と私の登録をしてくれた。私のカードには王妃と記載されている。
(そっか、私、王妃なんだ)
まだ実感はなかったけど、文字で見ると、ジワジワと責任感というか重圧を感じるようになってきた。
私達以外の人の登録は、冒険者ギルドの建物で行うそうだ。早く登録すれば早く仕事を得られるためか、ほとんどの人が移動しちゃったな。
(ゲネト先生もね)
「皆も登録してくればいいよ。私は、みかんちゃんと街歩きをするからね」
セレム様はそう言うと、イチニーさんのようなチャラいウインクをしている。私にはチャラ男にしか見えないけど、サラ達には、カッコいいと好評だからかな。
「はい。あの、護衛は……」
「護衛は不要だよ。精霊主さまの結界内だからね。私の守護精霊でさえ、その能力は強化されている」
セレム様がそう言うと、グラスさんは頷き、キョロキョロしているサラの腕を掴んだ。
「ええ〜、ミカン様ぁ、すごい人だから心配ですぅ」
「私は、サラが迷子にならないかが心配だよ。グラスさん、よろしくね」
「サラは大丈夫ですぅ。何度か来ているし、ひゃっ」
サラは、すれ違う人に引っかかって、転びそうになった。それをグラスさんがしっかりと支えてぁる。
「ほら、サラの方が危なっかしいよ。グラスさんには、もうずっと、サラのことをお願いしたいよ」
私が意味深な言葉を言ってみると、グラスさんの頬が少し赤くなったように見えた。
「そうだね。この街では身分差を無くす。それを周知させるためにも、そういう婚姻が増えてくれると良いね」
セレム様がそう言ったことで、サラは驚きで目を見開いた。鈍いサラは、全然気づいてなかったのよね。
「はい、落ち着いたら、願いが叶うという、叡智の異世界人の神スポットという所に行ってみるつもりです」
(神スポット?)
グラスさんが何のことを言ったのかはわからないけど、サラに求婚する決意をしたことはわかった。
「あぁ、それがいい。私もこれから行くつもりだ。じゃあ、登録してきなさい」
セレム様にそう言われて、私の使用人達も、冒険者ギルドの建物へと向かっていった。
「じゃあ、みかんちゃん、デートをしよっか」
セレム様はニコニコしながら、私の手を取り、街のあちこちを案内してくれた。ユフィラルフの町よりも多くの建物が既に完成しているみたい。
街の北端の何もない広い草原で、彼は立ち止まった。
「この場所に、私達の屋敷を建てるつもりだ。ギルド登録が終わった者達を使って建ててもらう。完成までには、半年はかかりそうだけどね」
「えっ? 半年? 今日から白亜の大陸で一緒に住むんじゃなかった?」
「ふふっ、一緒に住むよー。みかんちゃんの家にね」
「へ? 私の家?」
彼は、ニッと悪戯っ子のように笑うと、手のひらにカードを出して、クルクルと回した。
「ここからは、私は『フィールド&ハーツ』のユーザーだからね。やっぱり、国王って疲れるね」
リョウの姿に変わった彼は、私の手を引き、さらに北へと歩き出した。
◇◇◇
「りょうちゃん、ここって何? ぐちゃぐちゃじゃん」
街の門を出て、広い道を横断すると、新たな門が見えた。彼はその門をくぐり、楽しそうに歩いていく。
「ぐちゃぐちゃなの? これが、みかんちゃん達の世界じゃないの?」
「遊園地と都会が混在してるよ。なぜマンション団地の間をジェットコースターが通るの? この辺は天空城からは見えなかったけど、街の入り口になぜ入場券売り場があるんだろ。テーマパークと住宅街がぐちゃぐちゃだよ。それに、あちこちに著作権侵害してるものが……」
「あれ? みっちょんは、みんなが喜ぶ街だと言っていたよ? あっ、噂をすれば」
入場券売り場から、みっちょんが飛び出してきた。
「もう来たのか。ぽこぽこ汽車は、まだ走ってないぞ」
みっちょんは、これまで見たことないほどキラキラしてる。この街は、みっちょんの理想的な街になってるのね。
「みっちょん、ぽこぽこ汽車って何?」
「水蒸気エネルギーの汽車だぞ。バス代わりに走るんだ」
ポーッ!
「あっ、やっと動いた。住人は無料で乗れるけど、ノロノロしてるから、急ぐ移動にはアレだぞ。まだ6ルートしかできてないんだ」
みっちょんは、すぐ近くを走り抜けていったジェットコースターを指差した。
「みっちょん、マンション団地っぽいとこを……」
「おっ! 気づいたか。急降下があるから楽しいぞ」
「騒音問題は?」
「マンションの窓には防音結界の魔道具が付いてるぞ」
みっちょんの自信満々なドヤ顔を見ていると、これ以上、何も言えないけど……あのマンションには住みたくないな。
「きゃっほーい! みかーん!」
(ん? 何?)
近くを通り過ぎたジェットコースターから、何か聞こえた。
しばらくすると、私達の元に、見知らぬ少年が姿を見せた。その直後、5歳くらいの少女の姿の精霊ノキが現れた。
「みかんの邪魔をするなよな!」
「みかん、この姿ならいいだろ? 叡智の異世界人の街は最高だな。こんなに楽しい移動手段があるなんて、我は知らなかった」
「ん? もしかして、ミカノカミ? 少年の姿は……」
「うむ。人の姿を習得したのだ。不便な姿だが、こんなに楽しい街で暮らすためなら我慢するのじゃ」
(ここに住むの?)
「ミカノカミ、ぽこぽこ汽車の充填が完了した。ノロノロ動いているから、乗りたいときに乗って、降りたいときに降りるんだぞ。ぽこぽこ汽車は、観光スポットを通ってるからな」
みっちょんがそう説明すると、少年はキラキラと目を輝かせ、ノキの手を掴んで走り出した。そして、ノロノロと走る汽車に追いつき、乗り込んだようだ。
ノキは、すっごく嫌そうな顔をしてる。でもたぶん、ノキも楽しんでると思う。
「みっちょんに任せて正解だったね。ミカノカミも夢中のようだ」
「ふふん、当たり前だぞ、りょう! あっ、みかんの家は、みかんにしたからなっ」
「みっちょん、どういうこと?」
「ぽこぽこ汽車は近くを走ってないから、神スポットから見ればいいぞ。みかんの使用人達が掃除をすると言ってたから、まだ入れないけどな」
「神スポットって何?」
そう尋ねたけど、みっちょんは別の人に呼ばれて、忙しそうに離れていった。
「ふふっ、みかんちゃん、観覧車に乗りに行こうか」
「神スポットって、観覧車のことなの? でも、無いよ?」
どこを見てみても、観覧車らしきものはない。
「観覧車は、いわゆる監視塔だからね。認識阻害の霧に覆われてる。乗れば、この街がすべて見えるんだ」
りょうちゃんに手を引かれて、その乗り場らしき場所へと移動した。
「あっ、本当に観覧車だ」
タムエル族の錬金術だろうか。街の中央あたりにある水車小屋から、私達は観覧車に乗り込んだ。
なかなかのスピードで回っているから、乗り込むのは少し慌てたけど、それ以外は、よくある観覧車だ。しかし、かなり大きいみたい。ぐんぐんと高くなっていく。
「みかんちゃんの家は見える?」
りょうちゃんとは横並びに座った。彼は、外を見てワクワクしているみたい。
「どれが私の家なのか……あっ! あれか」
街の南側に、変な造形物が集まっている場所があった。観覧車から見ると、バスケットに入っている果物のように見える。
(確かに、みかんもあるわね)
「あの一角は、私の街に隣接しているからね。私のフレンドや、親しい人達の家が建ててある。ここから見ると、色とりどりで美味しそうだね。みかんちゃんの家は、どれかわかる? 私には教えてくれないんだ」
「一番左の丸いものだよ。みかんという果物の形をしているよ。すぐ横のマスカットは、きっとみっちょんの家ね」
「確かに、みっちょんの家は、小部屋だらけだと言っていたね。時雨さんの家はうさぎさんにしたと言っていたけど、それもわからないんだ」
「あぁ、りんごをうさぎに切ったようなデザインの家ね。みっちょんの家の右側よ。ほんと、みっちょんワールドだね」
(あっ、止まった)
いや、違う。ここが観覧車の一番上なのかな?
「りょうちゃん? あれ?」
隣りに座っていたりょうちゃんは、姿が変わっていた。見たことのない姿。20歳くらいの優しそうな青年は、少し照れたような笑みを浮かべていた。
「ふふっ、建国したことで、新たな称号を得たんだ。この姿は、みかんちゃんがイメージしていた私の姿になっているかな?」
「確かに、りょうちゃんが男性だったら、こんな優しい人かなって思ってたよ。えっと?」
「そっか、よかった。みかんちゃん、お誕生日おめでとう。この姿は、貴女にだけ捧げるよ」
「え? あ、ありがとう。ん?」
「ふふっ、困らせちゃったかな。また、みっちょんにストーカーだと叱られそうだ。この姿は、みかんちゃんにしか見せない、という意味なんだ」
「せっかくの新しい称号なのに?」
「あぁ、この姿を見せるときは、称号のチカラを使うときだからね。つまり、時を止めるときだ」
「あっ、観覧車が止まった気がしたのは、りょうちゃんの能力なの? えっと、りょうちゃんじゃなくて、その姿は」
「称号の名は、刻の旅人。名前はないね。想像していたものとは違う称号だった。私がこの姿のときに動ける人は、みかんちゃんだけだ。私が心から信頼し、愛する人だけだよ」
「りょうちゃん……」
「ふふっ、ちょっと恥ずかしいね。あまり長い時間止めていると、ミカノカミが怒りそうだな」
そう言うと、彼はカードをクルクルと回し、リョウの姿に戻った。
(あっ、動いた)
観覧車は、ゆっくりと下り始める。
「りょうちゃん、さっきの称号って、どう使うの?」
「どう使うべきか、実は私にもわからないよ。星間転移は、簡単に出来そうだ。刻の波が消えるからね」
「転移魔法で、他の星に行けるってこと? すごい」
「ふふっ、これで、新たな開拓もできそうだ。あの辺の魔王にも対抗できるかな。みかんちゃん、私に力を貸してくれる?」
彼が指差した先には、濃いマナの霧が見える。魔王がいるのか。
「もちろんだよ。この大陸を安全に暮らせるようにしたいもんね。強い移住者が増えるといいな」
「そのためには、魅力ある物語を書かなきゃね。私が書いたレオナードさんの物語は、他の星の人達にも好評なんだよ」
「りょうちゃん、頑張って書いてたもんね」
「魅力的な悪役令嬢のおかげもあるけどね。あっ!」
彼は、何かを思い出したみたい。そっと私のおでこにキスをした。
(覚えてたんだ)
フレンドだった頃、りょうちゃんに話していたこと。デートの終わりに観覧車でキスをするのが素敵、って言っていた私の呟き。
「りょうちゃん、キスする場所が違うよ」
「あれ? 間違えたかな。あの頃みかんちゃんは、キスとしか言ってなかったよ?」
ニッと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、彼は少しワクワクしてるみたい。
(そういうとこ、かわいすぎる!)
彼の期待に満ちた顔にキュンキュンしながら、私は、そっと、彼の口に私の唇を重ねた。
「みかんちゃん、これからも頼りにしてるね」
彼は、急に恥ずかしくなったのか、甘い雰囲気を振り払った。でも、しっかりと気持ちは伝わってくる。
「ええ、任せて。これからも私が、魅力的な悪役令嬢を演じましょう」
「えー、魅力的じゃなくていいよ?」
「もうっ、りょうちゃん、何それ? ひゃ」
私が文句を言おうとすると、彼は少し強引に唇を塞いだ。この感じって、もしかして……。
カタン
観覧車は一番下に着き、扉が開いたけど、彼は動かなかった。
「もう一周、回るよ」
彼は、乗り降り口の係の人にそう告げ、観覧車の扉をゆっくりと閉じる。
そして、私の髪を優しく撫でた。
観覧車は再び、空へとのぼっていった。
──────── 〈完〉 ────────
皆様、最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪ たくさんのいいねやブクマそして星応援のおかげで、挫折せず、一気に描き進めることができました。本当にありがとうございます♪
アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪
付けてくださったブックマークは、ブクマ枠が大丈夫ならそのままにしておいていただけると嬉しいです。ブクマが減ると寂しいので……(*´-`)
来週の水曜日くらいから新作を始める予定です。
次も、乙女ゲーム世界で悪役令嬢ものですが、本作のような演じるという設定ではなく、普通に悪役令嬢を主人公にした物語です。
「悪役令嬢だって甘ずっぱい恋をしたい」(仮)
よかったら覗きにきてください。
あとがきも、最後まで読んでいただきありがとうございます。また他の物語でお会いできたら嬉しいです♪ 本当にありがとうございました!




