表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/196

19、フィールド実習のパーティ申請

「パーティ申請ですか。良いアイデアですね」


 イチニーさんは、やはり話を聞いていたみたい。それに、さっき、私に一目惚れしたとか言っていたのに、もう忘れたかのように切り替えてる。


(やはり、レオナードくんをからかってたんだ)


 永遠の20歳だとか変なことを言ってたけど、適当に口から出ちゃった言葉なのね。一瞬、そういう種族かと思ってしまったけど、ありえないもの。


 その一方で、レオナードくんの様子はおかしい。落ち着きなくウロウロしている。



「あっ、そうだ。シグレニさん、そのパーティは何人で組むのですか? 学生を含む場合、10人まで可能ですよね?」


 イチニーさんは、時雨さんに何か耳打ちしている。その話が、レオナードくんには聞こえたみたい。真っ赤になって怒ってるけど……。


「私達3人で組む予定です。人数が多くなると経験値の恩恵がなくなりますから」


「あぁ、ミカンさんのレベル上げですか。でも、彼女自身の力で上げないと、レベルの割に弱く使えない冒険者が出来上がってしまいます」


「ミカンさんなら、大丈夫ですよ。そもそも冒険者を目指すわけではないでしょうから」


(冒険者を目指したいよ)



「そうですか。レオナード坊ちゃんも、一番早いクラスでフィールド実習をするので、ご一緒させてもらってもいいですよね? ミカンさん」


 イチニーさんは、時雨さんではなく私にそんな提案をしてきた。


「えっ? えーっと」


 時雨さんの方に視線を移すと、手でバツマークを作っている。


「フィールド実習に、女性3人のパーティで参加するのは、ある意味、別の危険がありますよ? 特にシグレニさんのように目立つ人がいると、いろいろと寄ってくるでしょ」


 イチニーさんにそう言われて、時雨さんはバツマークを作っていた手を下ろした。さっき、階段で絡まれたもんね。


 もしかするとイチニーさんは、私達のために、一緒にパーティを組もうと提案してくれたのかな。さっき、彼が助けてくれなかったら、私達だけでは通してもらえなかったかもしれない。


(それに、あの光……)


 明らかに、私達に魔法を使っていたと思う。左腕が痛んだのも、悪意に反応していると感じた。


 左腕に触れてみる。もう痛くはないけど……。


(あれ?)


 離れた場所からこちらに顔を向けている一人を見ると、左腕がズキンと痛んだ。左腕から手を離すと痛みは消える。でも触れると、またズキンと痛む。だけど、別の人を見ても痛みは起こらない。



「ミカンさん、どうする?」


 時雨さんが小さな声で尋ねてくれた。私は、今の不思議な現象が気になりつつ、侍女のサラに視線を移す。だけどサラは、何かを気にしてるみたい。彼女の視線の先は……あれ? さっきの人がいない。見たら左腕が痛くなった人の姿が消えている。


「サラ、どうしたの?」


「えっ? あ、いえ。ちょっと殺気を感じたというか気になりまして。サラは、ミカン様にお任せしますよ」


(殺気? さっきの人かな)


 そういえば、乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』では、モンスターが近寄ってくると危険を知らせるアイテムがあった。木の棒みたいな形のものだったけど、確か名前は、聖木の小枝。あれがスポンジの木のことなら、私の左腕には、そのスポンジの木の枝が刺さっているから……。



「ミカンさん、ご一緒しましょう。私が貴女を守る剣になりますよ」


「へ?」


 イチニーさんが、また私にパチっとウインクした。ウインクしすぎでしょ。なんだか、そういうキャラを演じているとさえ感じる。


 すると、彼はふわりとした笑顔を見せた。私が疑わしいと思ったことに気づいたのかな。



「そうね。確かに女性だけのパーティは、大人数のフィールド実習では、別の意味の危険がありますね。イチニーさんって、あの魔剣士のイチニーさん?」


「ふふっ、魔剣も使えますよ。私がいると便利ですよ。もちろんレオナード坊ちゃんも、こう見えて意外にフィールド慣れしています」


 イチニーさんの声は聞こえているはずなのに、レオナードくんは怒らない。まだ5歳児だから意味がわからないのかも。


「わかりました。では、ご一緒しましょう。そちらは何人ですか」


「私とレオナード坊ちゃん、そして坊ちゃんの付き添いをしている使用人二人ですよ。男が一人余りますねぇ」


「はい?」


「ふふっ、冗談です。ささ、パーティ申請をしてしまいましょう。レオナード様、お世話係の二人を呼んで来てください」


 イチニーさんにそう言われて、レオナードくんは一瞬文句を言いたそうな顔をしたけど、奥の部屋へと走って行った。


(なんか、かわいい)




 ◇◆◇◆◇




「エリザの妹は、まだ始末できてないのか。もう半年も経つぞ」


「申し訳ありません。警備の厳重な初等科の教室と寮の行き来しかしていなかったので、全く隙がありませんでした」


「エリザが、同じ学校に転校したじゃないか!」


「はい、ですが、これからは活動範囲が広がるので、その機会は増えます。一般人が出入りできる場所で目撃したという報告も受けています。階段から突き落とそうとしたようですが、もう少しの所で邪魔が入ったみたいです」


「くれぐれも偶然を装わせろ。こちらの素性が知られないように行動するのだ」


「もちろんです。それに、もうすぐフィールド実習があるようです。これは好機です」


「ふむ、ユフィラルフ魔導学院が使う場所といえば、グリーンロードの中心街近くの草原か。最近は魔物が増えたらしいな。ふっ、そこで確実に殺せよ?」


「御意!」




 ◇◆◇◆◇




「ミカン様、服装はそれでいいのですか?」


 私が選んだ服に、侍女達は不満そうな顔をしてる。フィールド実習は、服装は自由らしい。


「うん、これでいいよ」


「まるで男の子みたいですよ? ミカン様には、可愛らしいふわふわっとした服の方が……」


「うごきやすいほうが、いいの。ぼうけんしゃは、ふわふわしたふくは、きないよ?」


「はぁ、ですが、その服はサラの……」


「サラのふくはカッコいいんだもの。あっ、だいじなふくだった?」


 私は、サラの私服の深緑色のシャツを強引に奪って着ている。私が着るとコート状態だけど。そして麻のハーツパンツとショートブーツ。このシャツは、ダークロード家からの支給品だと思う。


「着ていただくのは構わないのですが、お嬢様のお召し物にふさわしいとは……」


「じゃあ、いいよね? はやくいこう」


 私に押し切られたサラは、ふぅっと息を吐き、私とお揃いのシャツに着替えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ