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189、永遠の誓い

今回で、本編完結です。

いつもより少し長めになってます。

「りょうちゃんって、イチニーさんだったんだね。私達がこんな話し方をしてもいいのかな」


 時雨さんは、まだ少し動揺してるみたい。


「時雨さん、今の私はフレンドのりょうだよ? それぞれの姿に応じて、接してくれたら嬉しいな」


「そっか、わかった。でも、よかったよ。りょうちゃんがイチニーさんと同一人物で」


「うん? どういうこと?」


 さっきの話を、彼は本当に聞いてなかったのね。私も、時雨さんの問いをごまかしたから、ちょっと気まずい。


「りょうちゃんは、みかんちゃんのことが好きでしょ? だけど、彼女がセレム様と婚姻したから、りょうちゃんには手の届かない存在になったんじゃないかなって」


 時雨さんの指摘に、彼は少し驚いたみたい。


「やっぱり、時雨さんの観察力はすごいね。私は、リョウのときは隠していたつもりなんだけどね。あぁ、それで、同じだと言ってたのか」


 彼は、みっちょんに視線を移した。みっちょんがリゲル・ザッハ推しなのは、当然、彼も知ってる。そして、みっちょんが身分差を気にしていることもわかってるみたい。



「ふふっ、全然、隠せてないよ。結局、みかんちゃんが気になっていた三人は、すべてセレム様だったってことね」


(ひぇ、時雨さんが……)


 時雨さんにニヤニヤ顔を向けられ、私は思わず目を逸らす。


「三人とも、みかんちゃんの心を掴めていたんだね。イチニーしか手ごたえがなくて、もし、みかんちゃんがセレムの姿を拒絶したら、どうしようかと悩んでいたよ」


「りょうちゃんはフレンドの頃から、みかんちゃんとは随分と親しいんじゃないの?」


「親しいと思ってたよ。だから、私はこんな暴挙に……。でもリョウの姿には、みかんちゃんは関心を示さなかった。私ばかりが一方的に、彼女を……」


「まぁ、りょうちゃんの顔って、私達から見たら性別不明だからね。みかんちゃんは、レグルス先生の顔が一番好きだと思うよ」


「時雨さんから見ても、そう感じるんだな。それを聞いて安心した。レグルスが一番セレムに似ているからね。ただ、セレムは年寄りだからな」


「それは、心配いらないよ。年齢的にも、みかんちゃんは中身は大人だから、大丈夫だと思うよ」


「そうかな。時雨さんがそう言ってくれると、本当に心強い。みかんちゃんには、怖くて聞けなくてね」


「あら? りょうちゃんの姿なら、他者の心の声が聞こえるんじゃないの?」


「それが、無理なんだよ。精霊ノキ様が隠しているみたいでね。まぁ、セレムの姿を拒絶されたら、ずっとイチニーの姿でいることも考えていたけど」


「ふぅん、でも、みかんちゃんは、イチニーさんのチャラい雰囲気は、あまり好きじゃないみたいだよ」


「あぁ……そうなんだよな。だけどイチニーは、あんなキャラ設定をしているから、人前では変えられないからな」


(何の長話よ……)


 たぶん彼は、わざとこんな話をしてるのだと思う。時雨さんが少しずつ、いつもの調子に戻ってきた。


 彼にとって、私達とのこの関係が、とても大切なのだと感じる。



 時雨さんとりょうちゃんの話がつまらなくなったのか、みっちょんは、さっき討伐した巨大ミミズを解体し始めた。


 船屋の娘だから、こういうこともできるのね。海の未知の魔物でも、船屋の人達って、上手く毒を避けて解体するという。



「おわっ! すっげぇ、魔石みっけ」


 みっちょんが叫んだことで、時雨さんは彼との長話をやめた。そして、みっちょんの方へと歩いていく。


「みっちょさん、かなりレアな魔石ね。しかも、解体がすっごく上手くできてる」


「ふふん、まぁな。これを冒険者ギルドに持っていけば、超レア装備と交換してくれるかな」


「そうね。一部の超レア装備は、お金では買えないけど、これを持ち込めば交換できるかもね。この肉は珍しいし、解体が上手いから、他のパーツも高く売れるよ」


 時雨さんに褒められて、みっちょんは嬉しそう。今でも時雨さんのことは、憧れのランカーみたい。


「じゃあ、冒険者ギルドについて来てくれよ。時雨さんがいる方が、交渉が上手くいくんだ」


 みっちょんは、新たな魔法袋に解体した巨大なミミズの魔物を収納し、ワクワクと落ち着かない様子だ。



「そうね、タムエル族の件も含めて、私も冒険者ギルドに行く用事ができたわ。みかんちゃんは、どうする?」


 そう言いつつ時雨さんは、私ではなく、りょうちゃんに視線を向けた。


(彼は、休みだと言ってたっけ)


「時雨さん、私はもう少し監視ミッションを続けるよ。他にもタムエル族がいるかもしれない」


「そう、わかったよ。じゃあ、私達は先に帰るね。りょうちゃんは、当然、みかんちゃんの護衛をするよね?」


 時雨さんにそう言われて、彼は、悪戯っ子のようにニヤッと笑った。時雨さんが気を利かせてくれたからだね。


「あぁ、そうするよ。私の大切な妻だからね」


(ちょ、りょうちゃん……)



「おい、りょう! 自分だけ調子に乗ってんじゃねぇぞ。罰として、この魔物は、私が時雨さんと二人で狩ったことにするからなっ!」


(みっちょん……)


「それでいいよ。あっ、そうだ。来年、みっちょんも婚姻するかな? 私の国ができたら移住しておいで。身分差による差別を無くすから、リゲルとでも気にせず婚姻……いや、結婚できるよ」


「ほふぁっ? な、ななな、何、ななな……」


(ふふっ、彼の仕返しかな?)


 みっちょんは、真っ赤になって、なななしか言わなくなってる。時雨さんはニヤニヤしながら、みっちょんの腕を掴んで、転移の魔道具を操作した。




 ◇◇◇



「みかんちゃん、パンを食べていこうか」


「ん? りょうちゃんのお気に入りの場所で?」


「あぁ、私達だけの秘密の花畑だ。精霊ノキ様が生まれた地でもあるから、多くの精霊達が、あの場所への他者の立ち入りを阻害してくれているからね」


 彼はそう言うと、私の手を取って歩き始めた。


 ここから見える高台だけど、のぼってみないと、あんな花畑があるとは誰も気づかない。


(まさに、秘密の花畑ね)




 高台へ移動すると、彼はテーブルや椅子を出し、お気に入りのパン屋の紙袋をテーブルに置いた。


「みかんちゃん、やっと一緒にのんびりできるね」


「ずっと忙しかったんでしょ? よく休みを取れたね」


 私がそう言うと、彼はニッと笑った。


(何か、ちょっと変ね)



「実はね、今、私は逃亡中なんだよ」


「へ? 逃亡中?」


「あぁ。ナインが口うるさくてね、逃げてきた」


「いいの? そんな……」


 彼は突然、私の口を彼の唇で塞いだ。


(わっ! びっくりした)


 ゆっくりと離れると、彼は、私の顔をジッと見てる。そして、私をキュッと抱きしめた。



「みかんちゃんを補給させて。じゃないと頑張れない」


「りょうちゃん?」


 ちょ、ちょっと待って。ここは外だし、高台だけど草原だし、何より、こんなにたくさんの精霊達が見てるよー!?


「ふふっ、みかんちゃんの顔が赤いよ? 何を考えてたの? えっちだよねー」


「ほぇっ? な、何も考えてないよっ。てか、りょうちゃん、周りは見えてる? 精霊様がたくさん見てるよ」


「まわりなんて見えないよ。私は、みかんちゃんの顔しか見えない」


「ちょ、りょうちゃん」


(あ、甘い。突然、甘すぎる!)


「ふふっ、困った顔もかわいいな。いや、綺麗だよ。これから、ますます綺麗になるんだろうな」


「そ、そう、かな」


 彼が放つ甘い雰囲気に、私はどうすればいいかわからなくなっていた。女装してなくても、色気というか魅了というか……。


 戸惑う私の顔を見て、彼はクスクスと笑った。一瞬、からかわれたのかと思ったけど、そうじゃない。彼は、楽しくてたまらないみたい。無邪気な笑みを浮かべている。



「私は今、すごく幸せだ。みかんちゃん、私の招待を受け取り、この世界に来てくれてありがとう。過酷な『エリザの妹』に転生したのに、前世の記憶を引き継いでくれてありがとう」


「りょうちゃん……」


「私のわがままで、これまで辛い思いをさせてしまった。これからは私が全力で、みかんちゃんを幸せにするよ」


(まだ、後ろめたさがあるのね)


「りょうちゃん、それは違うよ」


「えっ? 何を間違えたかな」


「幸せって、与えられるものじゃない。二人でつかみ取るものだよ」


 私の反論に、彼は、少し驚いた表情を見せた。でもすぐに、ふわっとした笑みに変わった。


「みかんちゃんには、かなわないな。これからは二人で、幸せをつかみ取ろうか。愛してるよ」


「うん、私も。貴方を愛してる」



 私達は、互いの言葉を誓うかのように、そっと唇を重ね合わせた。


 見守る精霊達のおせっかいだろうか。

 永遠に愛してる、そんな言葉が心に響いた。



 ──────── 〈完〉 ────────



皆様、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます! 星応援やブックマーク、それに、たくさんのいいねもありがとうございます。おかげさまで、本編完結まで毎日更新できました♪ (๑˃̵ᴗ˂̵)


この後は、数話の後日談とエピローグを予定しています。

引き続き、読んでいただけたら嬉しいです。


ただ、ストックゼロ状態なので、ちょっと二日ほどお休みをいただきます。


次回は、4月26日(金)に後日談を投稿予定です。

よろしくお願いします。

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