表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/196

184、セレムの宣言

 ゲネト先生が私を転生者だと暴露したことで、集まっていた大勢の人達は、シーンと静まり返ってしまった。


 この世界に転生者がいることは、当然、多くの人が知っている。だけど、その転生者を叡智の盾だと言ったから、こんな反応なのだろう。


(警戒かな)


 転生者は、この世界の人達から見れば、異世界人だ。どんな知識を持つのかと、いろいろな想像を掻き立てられるだろう。ゲネト先生やセレム様が、叡智の盾だなんて言うから……侵略者扱いする人もいるかもしれない。



 私の肩を抱き寄せていたセレム様が、私の耳元に顔を近づけた。


「みかんちゃん、民を鎮めてくれる?」


「へ? 私が?」


「ふふっ、それが一番でしょ。民を惹きつけないと、宣言できないからね」


(何の宣言よ?)


 それを尋ねたかったけど、きっと口には出せない制約がありそう。ほんと、この世界の常識って、意味不明なのよね。


 彼は、それ以上は何も言わずに、私を前へと押し出した。エフェクト状態で浮かぶ大きなウサギに当たりそうな勢いだ。


(ふわもこちゃんは自由ね〜)


 ほとんどの人には姿が見えないから、タムエル族の神ミカノカミは、運動場内をふわふわと見て回っている。きっと集まった人達の頭の中を覗いているのだと思う。




「ゲネト先生、拡声器の前を譲っていただけますか」


 私がそう声をかけると、ゲネト先生はいつものように好戦的な笑みを浮かべた。でも、王ファクト様の分身なのよね。これまでのような雑な反論はできないわ。


「ミカンさん、理由は何だ?」


「拡声器がないと私の声は、ほとんどの人に届きませんから」


「は? 何だ? そのつまらない答えは? いつもの勢いはどうした? あっ、わかったぞ。婚姻したからって、大人ぶるつもりだな。そんなことでは、いつまでたっても魔法学の試験には通らないぞ」


「ちょ、ゲネト先生! こんな場所で何をおっしゃるのですか。個人情報を暴露するなんて……」


「ふふん、まだ上品ぶってるじゃねぇか。まさかとは思うが、緊張してるのか? 腕の中に最強兵器を抱えているくせに」


(なぜ、ケンカを売ってくるの?)


 私がゲネト先生を、王ファクト様として扱おうとしたことが不満なのかな。いや、このやり取りを見せたいのか。



「ノキは兵器ではありません。ゲネト先生、怒りますよ?」


「怒ってもいいぜ。ミカンさんの文句には慣れてる。あっ、言っておくが、アレは、けしかけるなよ?」


 ゲネト先生は、ふわもこちゃんを指差している。


(なるほどね、そういうことか)


 集まっていた大勢の人達の感情は、転生者への警戒から未知の見えないモノへの興味に、切り替わったみたい。


 タムエル族のことを、私から説明させたいのかな。セレム様が何を宣言するのかはわからないけど、私が民を惹きつけないといけない、ってことだよね。


(難しいミッションね……)


 私は、ゲネト先生から、拡声器のような魔道具を奪い取った。たぶん奪い取らなくても、私の声は拡声器がひろってたみたいだけど。


 ゲネト先生は、大げさにのけぞって、少し後ろに下がった。セレム様に睨まれてるけど、逆に喜んでるみたい。


(もうっ、子供みたいなんだから……)




「皆さん、私は、ユフィラルフ魔導学院でゲネト先生のクラスに在籍している、ミカン・ダークロードです。セレム様からお話があったように、先程、王宮の礼拝堂にて、セレム様と婚姻いたしました。皆さん、披露宴にお集まりいただきありがとうございます」


 そこで一旦、口を閉じる。左腕のえのき茸が多くの悪意を教えてくれた。集まっている大半は、私の挨拶なんて聞く気はないみたい。


(ま、そりゃ、そうよね)


 チラッとセレム様に視線を移すと、りょうちゃんのように穏やかな笑みを浮かべていた。まだ、セレム様の顔は見慣れてないけど、彼が私を信頼してくれていることは伝わってくる。


 何を話すのかも、何も指示されてない。ということは、私が話す内容は、何でもいいのだろう。セレム様が民に何かを宣言するための前座のようなものか。


(また、悪意が強くなってきたな)


 集まった見知らぬ人達から見た私は、ゲネト先生と対等に話す未知の転生者だ。そして、ダークロード家への警戒心も加わって、この世界を侵略しようとする敵だと感じているのかも。


 腕の中のノキは、何も話さない。でも、私の腕の中は死守したいみたい。ふわもこちゃんが浮遊してるもんね。



「皆さん、私への警戒心が強いようですね。それは、当然のことでしょう。警戒するなとは言いません。ただ、意味なく悪意を向けられるのも不快です。少し、私の前世の話をしましょう」


 そう話し始めると、ノキは私の意図を察して、枯れたえのき茸を1本出してきた。


 私は、左腕でノキを抱え、右手で枯れたえのき茸をポキッと折り、空中へ放り投げる。


 すぐに、ボンッと大きなメラミンスポンジに変わった。私は風魔法を使って、適当にカットする。


(うっ、ぐちゃぐちゃになった……)


 カットしたメラミンスポンジは、集まっていた人達に降り注ぐ。攻撃だと驚いた人も少なくないけど、こういうやり方が、たぶんこの世界の人には合うのね。



「私は、魔法のない異世界からの転生者です。今、風魔法を使ってみたけど、ひどい結果になりましたね」


 メラミンスポンジだと誰かが叫ぶと、地面に落ちたものを拾う人も出てきた。そして、私がなぜメラミンスポンジを飛ばしたのか、興味を持ってくれたみたい。


「メラミンスポンジは、前世の最後の日に、私が買ったものです。前世の私は、嫌なことがあるとメラミンスポンジを使って、いろいろなものをピカピカに磨きたくなる癖がありました。それを精霊ノキが、この世界に再現してくれたのです」


(あっ、悪意が減っていく)


「先程、私達のような転生者が叡智の盾だと言われたのは、こういうことでしょう。魔法のない異世界では当たり前にあったものが、この世界にはない。つまり、この世界にはないものを知っているだけです」



 ここまで話すと、セレム様が私の横に並んだ。


「皆も知っている通り、このメラミンスポンジのおかげで、紅茶病の発生を抑制することができた。私達は、異世界人に怯えるのではなく、共存し、その未知の知識を学ぶべきであろう」


 セレム様がそう話し始めると、集まっていた人達の表情はガラッと変わった。好奇心、かな?


「私は、5つの輝く盾を得た。だが、王ファクトの後継者になるつもりはない。私は、ここに宣言する。私は、白亜の大陸に建国する」



皆様、いつもありがとうございます♪

もう少しで本編は完結です。

そのあと、数話の後日談とエピローグを予定しています。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ