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182/196

182、婚姻式のあと、披露宴会場へ

「さぁ、披露宴に遅れるぞ。おまえ達は、さっさと移動しろ。俺は、遅刻して行く」


 あらゆる属性のオーラを纏った王ファクト様は、ゲネト先生と同じ口調で、私達を追いたてるような仕草をしている。


 ゲネト先生が、王様の分身だったなんて……。


 私はまだ、頭の中が大混乱中だ。そして何より、目の前にいる王ファクト様のチカラに、私は本能的に恐怖を感じていた。


 これまでに会ったどんな人よりも、強大な力を持っているのだとわかる。こんな人だから、『フィールド&ハーツ』を開発したり、時空を超えて、他の世界と繋がることができるのね。



「王ファクト様は、主賓なんですよね?」


 私の頭の中には、この世界の婚姻式の常識とされる規律が浮かんでいた。婚姻式は、主賓が帰ることで終了するのよね?


 あっ、でも、挨拶も何もしてもらってない。招かれた客人が少ないからだろうか。


「みかんちゃん、婚姻式は、親しい血縁者と護衛しか呼んでないよ。ダークロード家の当主さえ、断ったからね」


 彼に言われて、私の父親が招かれてないことに気付いた。それに彼の方も、ゲネト先生……王ファクト様しか招いてないみたい。


「それでよかったのですか?」


「ふふっ、当然だよ。この場に集まってくれた人は全員、私達の婚姻を喜んでくれている。あぁ、頑固者のナインもね。さぁ、行こうか」



 彼は、王ファクト様に軽く手をあげ、私の手を握ると、礼拝堂の扉の方へと歩き出した。いや、姉エリザ達がいる方へ向かってるのかな。


 私が慌てて王ファクト様に頭を下げようと振り返ったときには、もう、ゲネト先生の姿に変わっていた。


 遅れて行くと言われてたけど、分身を置いて、王ファクト様は王宮に帰ったのかな。あっ、ここも王宮の敷地内だけど。


(そういえば、盾の人達って……)


 壁側にいた人達も、少し離れてついてくる。誰が彼の盾なのかはわからないな。


「こないだ、ナインさんは私を試していると……」


「あぁ、皆、みかんちゃんを試したようだね。悪意はないはずだよ。だけど、一番いろいろと試していたのはゲネトだね。アレは、性格が悪い。性格だけじゃないな、手癖も悪い」


(ちょ、聞こえるよ?)


 彼は、姉エリザ達の方へと歩きながら、ゲネト先生の悪口を言ってる。後ろを振り返ってみると、ゲネト先生は不機嫌そうな表情を作っていた。


(あの顔は、怒ってないね)


 そっか。私は、王ファクト様の分身と……頻繁に言い争いをしていたのね。何ということだ。でも、ゲネト先生の方から絡んでくるというか、私を試していたというか……あれ?



「あの、セレム様。ゲネト先生も私を試して……」


「あぁ、彼は私の叡智の盾だよ。私も、リョウは、彼の魔術の盾だ」


「えっ? 王様がセレム様の盾?」


「いやいや、王の分身だよ。王ファクトの盾は、今や、20人は居るんじゃないかな」


「えっ? 5人じゃないの?」


「それは、王位を得るための条件だ。5つの輝く盾。すなわち、裏切らない盾だ。王は即位すると盾を増やす。反逆させないための、人質みたいなものだね」


「人質? ん?」


「王ファクトは、強い複数所持者のほぼ全員を、盾に選んでいる。裏切ると、マナに変換されるらしいよ。シャーマンは恐ろしい」


「強い人は、みんな側近になるの?」


「王ファクトは、そうしているね。ただ、裏切りは止められないみたいだ。異世界人が、そうさせるのだろう」


(ん? メリル?)


 カードの複数所持は、王族の血を引く現地人にしかできないことだ。だから複数所持者を、王ファクト様は側近に選ぶのね。



「5人の輝く盾は、裏切らないの?」


「裏切らないよ。未来に裏切る可能性を秘めた盾は、輝かない」


「えっ? 盾って、実際に盾があるの? 比喩だと思ってた」


 私がそう尋ねたときには、姉エリザにも話が聞こえる距離に近づいていた。


(あっ、エリザが……)



「ミカン! 何の話をしているのかと思ったら……。ほんとに困った子ね。婚姻式に歴史学の質問をするなんて。短剣を授けることを、盾の装備というのよ」


(た、確かに……)


 短剣を授けることが、盾となれという意味なのかな? そういえば、レオナードくんに授けられた短剣は、キラキラと輝いてたっけ。確認したいけど、この疑問を口にすると、エリザに本気で叱られそう。


「ふふっ、エリザさん、構いませんよ。まだ、彼女は歴史学を学んでいませんからね」


「セレム様は、お優しいのですね。前世のミカンと出会ったことで、変わられたのかしら」


「そうですね。大きく変わりましたね。エリザさんも変わったのではないですか」


 彼がそう尋ねると、姉エリザは、なぜかロインさんの方をチラッと見た。ロインさんは、少しソワソワしてるみたい。時間を気にしてるのかも。


「ええ、ミカンが、たくましく成長してくれたから、私にも周りを見る余裕ができましたわ」


「それは何よりです。では、そろそろ行きましょうか」


 彼が少し大きめの声でそう言うと、扉の近くで待機していた王家の魔導士達が、一瞬で近くに現れた。転移魔法での送迎係なのね。




「セレム様、行き先は、ユフィラルフ魔導学院の運動場ですね?」


「あぁ、ここにいるゲネト以外の全員を移動できるかな」


「精霊ノキ様もでしょうか。精霊主さまと何か話されているようですが」


 王家の魔導士がそう言うと、ノキが私のすぐ近くにワープしてきた。そして、ふわもこの姿に戻って、私の前に浮かんでいる。


(抱っこのおねだりかな)


 私が手を出すと、ノキは私の腕の中に収まった。


 ノキがこんな行動を取るのは珍しい。たぶん行き先に、ミカノカミがいるのだと確信した。



「では、術の詠唱に入ります。着地点は、ステージ上でよろしいですか」


「集まっているかな」


「はい、予定していた人数を超えています。条件は余裕で達成しています」


(何の条件?)


「うむ。では、私達はステージ上へ。他の皆さんはステージ横へ移動してくれ」


 そんなにも細かな着地点の指定ができるのか。やはり、王家の魔導士の転移魔法の正確性は、異常だわ。条件のことを尋ねたいけど、転移魔法の詠唱の邪魔になりそう。


「かしこまりました」


 王家の魔導士がそう返事した瞬間、礼拝堂内全体が、転移魔法の光に包まれた。



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