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178、賢者ナインにキレるミカン

「ごまかすのも下手ですね、ナインさん」


「おや? ごまかしだと解釈するのですか。あぁ、これが転生者の強みですね。平和ボケというか楽観的というか」


 ナインさんは、厳しい表情を私に向けている。彼が私を転生者と呼んだけど、レオナードくんは驚く様子はない。セレム様の側近に選ばれたことで、『フィールド&ハーツ』のことも聞いたみたいね。


(賢者ナイン様か)


 魔法学の授業があんなに意味不明なのは、ナインさんのような人達のせいだと実感した。あまりにも意味不明で頑固すぎる。



「それなら、なぜ、レオナードくんの護衛のフリをして監視をしているのですか」


「試しているのですよ。セレム様が突然、いろいろなことを言い出されましたからね。まぁ、我々が望むことも含まれるわけですが、とんでもない提案もあった。直接、見極めないとね」


(何を言ってるの?)


 話を逸らそうとしているのか、もしくは私が思い違いをしているのか……。


「それで、護衛のフリですか」


「ええ、レオナードさんの婚姻式に行った者もいますが、私はあの日は、別の用事がありましたからね」


「ナインさん以外にも、監視をする人がいると?」


「当然でしょう? 私以外の3人も、自分の目で見ないと納得しませんからね。ただの婚姻なら、我々もこんなことはしませんがね」


(他の盾、ってことか)


 ナインさんの言葉に、レオナードくんは緊張しているようだ。面接試験のようなものだもんね。


(だけど、何か変ね……)



「ナインさん、監視の対象はレオナードさんですか?」


 そう尋ねると、ナインさんの表情が明らかに変わった。紅茶の話をしていたときのように、興味深そうな目をしている。


「ミカンさんは、そう解釈したんじゃないのですか」


(嫌なことを言うよね)


 ナインさんって、ここまで嫌な人だったかな? まるで私を怒らせようとしているかのような……あっ、もしかして、監視対象は私?



「ナインさん、護衛として、今日、紛れ込んだことに理由はありますか?」


「ほう、そうきましたか。ええ、当然ですよ」


 私が尋ね方を工夫すると、ナインさんの表情に笑みが浮かんだ。ちょっと意地悪な笑みだけど。


「レオナードくんが、宿屋ホーレスのレストランに行くと言ったんですね。その呼び出し主は、シグレニさんだということを知った。ノキが海底ダンジョンにいることを知っていたということは、今日の出来事や海底ダンジョンに誰が行ったのかもご存知ですね?」


「ええ、知っていますよ」


 ナインさんは、さらにニヤニヤしてる。頑固なクソじじい顔ね。りょうちゃんが海底ダンジョンにいるのがわかっていて、ナインさんはここに来た。


(もう、確定だわ)


 彼が邪魔できない機会を狙って、私に接触したかったのね。私の何を試すつもりかは知らないけど。


「宿屋ホーレスのレストランの個室なら、扉前に護衛を立たせないことも知っていたのかしら?」


「まぁ、当然ですね」


 ナインさんは、好戦的な笑みを浮かべいる。だけど、その手には乗らない。ここで私がどういう態度をとるかを、ワクワクしながら待っているみたい。



「ナインさん、護衛としてこの部屋に入って来られたのですから、役割を果たしてください」


「む? それはどういうことかな」


「注文しすぎた料理を食べてもらうために、シグレニさんはレオナードさんを呼んだのよ」


 私がそう言うと、ナインさんは一瞬思考停止したみたい。時雨さんが何か言おうとしたけど、私は手で制した。


「そうでしたか。それはただの口実かと思いましたがね。先程までの皆さんのお話は、マーガリンさんを交換しようとするグリーンロード家への対応を……」


「ナインさん、護衛として来られたのですよね?」


「ククッ、あははは。ミカンさんは、この私に、護衛として振る舞うことを要求されるのかな」


「当然でしょう? セレム様がどんな変なことを言い出したのは知りませんが、私を監視して、何か見つかりましたか?」


「ふむ、賢者ナインに対してそのような……」


「護衛ではないなら、ここから退出しなさい! この個室では、女子会をしていたのよ。私達が入室を許したのは、レオナードくんとその護衛だけですわ」


 私が強い口調でそう言ったことで、シーンと静まり返ってしまった。部屋にいる人達みんなが凍りついていることが、顔を見なくても伝わってくる。


 ナインさんは、感情を隠しているみたい。急に無表情になった。怒ったように見えるけど、悪意は感じない。彼を怒らせたなら、左腕のえのき茸が反応するはずだもんね。



「ミカンさんは、二文字の守護精霊を従えていることで、傲慢になっているようだね。もしくは、セレム様の婚約者という立場から、貴女自身が偉くなったという錯覚でも起こしているのかな」


「私は何も間違ったことは言ってないわ。私達はここで女子会をしていた。その話の中で、確かめることができた。それで呼ぶべき人を呼び出したら、護衛の中に、護衛ではない変わり者が紛れ込んでいたのよ? 普通、追い出すでしょ」


「は? 変わり者とは……」


「紅茶を極めすぎる変わり者のことですが、何か?」


「ふむ、私のことか」


(何? その間抜けな返事)


 ナインさんは、何かを考えているみたい。さっさと退出してくれていいんだけど。



「ナインさん達が、私を監視している理由は、精霊ノキですか。ノキのチカラが増しているから、私を危険視しているのでしょう? だけど、ノキは自分の意思で行動するわ。私が支配しているわけではない」


(あれ? 外した?)


 ナインさんは、怪訝な表情をしている。


「なるほど、ミカンさんはそう解釈したのですか。確かに、精霊ノキ様の存在を危険視する者はいますけどね。だがそれは、この世界の摂理を理解しない者の戯言たわごとだ。ミカンさん亡き後は、精霊ノキ様は、精霊主さまに次ぐ偉大な精霊となるでしょう」


「じゃあ、なぜ私を監視する必要があるのかしら? と尋ねても、ナインさんは素直に答えてくれる人ではないわね。護衛として食事をするの? しないなら退出してください。ナインさんの行動は、女子会に紛れ込む不審者よ?」


「ふ、不審者!? ふ、ふふ……ふしん……」


(あっ、キツかったかな)


 ナインさんは、不審者呼ばわりされたことがショックだったのか、ワナワナしちゃった。



「ふむ、不審者扱いされては、たまりませんな。残飯ざんぱんをいただくことにしましょう。我々の行動の理由は、婚姻の日まで伝えることはできませんがね」


(はい? 残飯って、ひどくない?)



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